皇帝を表す色は何色なのか?①古代ローマにおける王者の色としての紫色の位置づけ
歴史を題材とした映画やテレビドラマなどにおいては、国を統べる国王や帝王、皇帝が着ている衣装は、
光り輝く黄色や金色の衣、燃え盛る炎のような真紅の衣、目の覚めるような青、思慮深く上品な深緑や、高貴なイメージのする紫色といった色とりどりの様々な種類の色によって彩られた形で描かれていくことになりますが、
それでは、
実際の古今東西の歴史の中においては、一般的に、こうした皇帝が着ていた衣の色、すなわち、皇帝を表す色とは、具体的にどのような色であったと考えられることになるのでしょうか?
古代ローマにおける王者の色としての貝紫色と古代紫
古代ローマ帝国の言語であるラテン語においては、赤紫色や深紅色のことを意味するporphyritis(ポルフィリティス)と、生まれや出自のことを意味するgenitus(ゲニトゥス)という二つの単語が結合してできた
porphyrogenitus(ポルフィロゲニトゥス)という言葉が、皇帝や王家の一族の生まれであることを意味する言葉として用いられていて、
現代の英語においても、“born in the purple”(ボーン・イン・ザ・パープル)と言うと、王家や特権階級の生まれであることを意味する慣用句として用いられることもあるように、
こうした古代ローマ帝国を中心とする西洋世界においては、基本的には、紫色が王家や皇帝のことを象徴とする色として捉えられてきたと考えられることになります。
特に、貝紫色(かいむらさきいろ)や古代紫などと呼ばれる巻貝の分泌物から抽出された赤みがかった紫色は、
英語では、royal purple(ロイヤルパープル)と呼ばれているように、文字通り、「王者の紫」を象徴する色となっていて、
こうした貝紫色や古代紫と呼ばれる色の原料となる巻貝は、かつては、地中海の東岸、現在のシリアやレバノンの沿岸に位置していた古代都市国家であるフェニキアの海岸沿いの海の砂底などに数多く生息していたことから、「フェニキアの紫」とも呼ばれていたのですが、
ローマ帝国が成立した1世紀頃の地中海世界においては、こうした巻貝の数は乱獲によってすでに大きく減少してしまっていて、その貝から抽出される貝紫色も希少価値の高い高価な色として重宝されるようになっていったので、
そのような希少で高価の色の服を生まれながらにして身に着けることができる立場にある人物は、生まれからして高貴な血筋をひく人物、すなわち、皇帝や王族の一員として生まれた人物であるといった意味で、
こうした貝紫色と呼ばれるような赤みがかった紫色、すなわち、古代における紫色が、皇帝や王者を象徴する色として定着していくようになっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
英語においては、“born in the purple”(ボーン・イン・ザ・パープル、「紫色に生まれる」)という表現が王家や特権階級の生まれであることを意味する慣用表現としてい用いられていて、
ラテン語においても、porphyrogenitus(ポルフィロゲニトゥス、「紫色の生まれ」)という言葉が、皇帝や王家の一族の出自であることを意味する言葉として用いらるケースが見られるように、
古代ローマ帝国を中心とする西洋世界においては、古代から近代へと至るまでの歴史を通じて、
貝紫色や古代紫と呼ばれる巻貝を原料とすることによって得られる赤みがかった紫色が、ローマ皇帝や、その後のヨーロッパの国々を統べる王者を象徴する色として用いられるケースが多かったと考えられることになります。
そして、
こうした紫色を皇帝を表す色として位置づける表現は、英語やラテン語といった西ヨーロッパ系の言語において広く見られる慣用表現であるように、
それは、どちらかというと、東洋世界よりは西洋世界の方で一般的に広く通用している色彩の序列関係であると考えられることになるのですが、
それに対して、詳しくはまた次回改めて考えていくように、中国や日本といった東洋世界においては、基本的には、紫色とはまた別の色がこうした皇帝や王族、皇太子のことを表す色として用いられるようになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:皇帝を表す色は何色なのか?②中国と日本における陰陽五行説に基づく皇族専用の色としての黄色の位置づけ
前回記事:紫禁城の由来とは?天帝が住む紫微垣との関係と紫禁城において禁じられていること
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