真菌症の代表的な種類と原因となるカビや酵母、キノコの種類のまとめ
このシリーズの初回から前回まで一連の記事では、カビや酵母、そして、キノコといった多様な菌類によって引き起こされる真菌症の代表的な種類について一つ一つ取り上げていく形で、
それぞれの疾患の具体的な特徴と、そうした真菌症を引き起こす原因となる菌類の特徴などについて詳しく考えてきました。
そこで、今回の記事では、そうした一連の真菌症に関する記事の総まとめとして、
そうした真菌症の代表的な種類とそれぞれの疾患における具体的な症状の特徴と、それらの真菌症を引き起こす病原体となるカビや酵母、キノコといった菌類の種類について一通りまとめていく形で改めて書いていきたいと思います。
真菌症の代表的な種類と原因となるカビや酵母、キノコの種類のまとめ
まず、
真菌類に分類される生物の形態は、大きく分けて、酵母とカビとキノコという三つの菌類の形態へと区分されることになると考えられることになるのですが、
以前に「酵母とカビとキノコの違い」の記事で詳しく考察したように、こうした、酵母とカビとキノコという三つの菌類の形態のあり方の違いについて、一言でいうと、
酵母は、一つ一つの細胞が単独の状態で活動する単細胞生物に分類され、出芽や細胞分裂によって増殖するのに対して、
カビやキノコは、菌糸と呼ばれる細胞列を形成する多細胞生物に分類され、胞子を飛ばすことによって増殖していくことになり、
カビの場合は、一つ一つの菌糸が互いに緩やかな連携を保ちながらコロニーと呼ばれる細胞集団や群体のようなものを形成して増殖していくのに対して、
キノコの場合は、一つ一つの菌糸がより密な形で集合し、自然界においては子実体と呼ばれる複雑で大規模な胞子形成のために特化した組織を形成していくといった点に、
酵母とカビとキノコの三者を区別する具体的な特徴の違いがあると考えられることになります。
そして、
こうした真菌類に分類される生物の形態の三つの形態の区分に基づくと、そうした真菌が原因となって引き起こされる疾患である真菌症についても、病原体となる真菌の形態の違いに応じて、
自然界において菌糸と呼ばれる細胞列を形成する菌類のなかで、キノコ(子実体)を形成しない糸状菌によって引き起こされるカビ状の真菌による真菌症と、
自然界において菌糸を形成せずに、個々の細胞が単細胞の状態で増殖していくことによって引き起こされる酵母状の真菌による真菌症、
そして、
自然界において菌糸と呼ばれる細胞列を形成する菌類のなかで、キノコ(子実体)を形成し、その胞子によって引き起こされるキノコの胞子による真菌症
という三つのグループへと区分することができると考えられることになるのです。
カビ状の形態をした真菌によって引き起こされる真菌症の種類
そして、
こうした真菌類のなかで最も一般的な形態であるカビ状の形態をした真菌によって引き起こされる真菌症の代表的種類としては、上記の図の上段において示したように、
白癬菌によって引き起こされる水虫や田虫、白癬、爪白癬などの疾患や、アスペルギルス症、ムーコル症(接合菌症)、ヒストプラスマ症、スポロトリコーシスといった疾患の種類が挙げられることになります。
このうち、最初に挙げた白癬菌によって引き起こされる水虫や田虫、白癬、爪白癬といった真菌症は、どれも主に水疱や爛れ(ただれ)、痒み(かゆみ)などの皮膚疾患を引き起こす真菌症であり、
白癬菌が感染する人体の部位の違いに応じて、白癬菌が足の裏や手足の指などに感染した場合には水虫(みずむし)と呼ばれるのに対して、
白癬菌が手や足の爪へと感染を広げた場合には爪水虫や爪白癬(つめはくせん)、手や足ではなく頭皮に感染してしまった場合には白癬(しらくも)、手足や頭以外の体部に感染した場合には、田虫(たむし)などとそれぞれある程度互いに区別された呼称が用いられることになります。
そして、
次に挙げたアスペルギルス症は、
酒や醤油の醸造などに用いられるコウジカビ(麹黴)と同じ菌類の種族に分類されるアスペルギルスと呼ばれる子嚢菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
カビ性肺炎とも呼ばれる呼吸器系の症状を中心に引き起こすほか、血管を介して病原体となった真菌の感染が全身へと広がってしまった場合には敗血症などのより重篤な症状を引き起こしてしまうケースもあると考えられることになります。
それに対して、
その次に挙げたムーコル症(接合菌症)は、
日本では一般的に、ケカビ(毛黴)という名で知られているムーコル(Mucor)と呼ばれる接合菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
アスペルギルス症と同様に呼吸器の内部で感染を広げて肺炎や副鼻腔炎などを引き起こすケースがあるほか、副鼻腔内から脳へと感染が広がってしまうことによって脳炎や髄膜炎などを併発してしまうケースもあると考えられることになります。
また、
その次のヒストプラスマ症は、
ヒストプラスマと呼ばれる子嚢菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
ヒストプラスマに感染すると咳やインフルエンザに似たような症状を引き起こすケースがあるほか、
重症化した場合は、結核患者に見られるような肺の内部における空洞形成が進んでしまうケースや、多臓器不全や敗血症などを引き起こしてしまうケース、真菌が血流などを介して眼球の内部へと侵入してしまうことによって、網膜などに病変をもたらしてしまうケースなどがあると考えられることになります。
そして、最後に挙げたスポロトリコーシスは、
スポロトリックスと呼ばれるやはり子嚢菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
スポロトリックスの場合は、土壌の中にいた真菌が皮膚にできた傷などから侵入してしまうことによって、皮膚の表面に赤く盛り上がった結節を伴う皮膚疾患を生じさせるケースが多いと考えられることになるのです。
酵母状の形態をした真菌によって引き起こされる真菌症の種類
そして、次に、
酵母状の形態をした真菌によって引き起こされる真菌症の代表的種類としては、上記の図の中段において示したように、
クリプトコッカス症、カンジダ症、マラセチア症、ニューモシスチス肺炎といった疾患の種類が挙げられることになります。
このうち、
最初に挙げたクリプトコッカス症は、
空気中や、地面から舞い上がった土ぼこりのうちに含まれているクリプトコッカスが鼻や口を介して肺の内部へと入り込むことによって呼吸器系の疾患を引き起こすケースが多いほか、
そこからさらに体内を移動して、最終的に髄膜炎や脳炎などを引き起こすことによって、比較的致死率の高い重篤な症状を引き起こしてしまうケースもあると考えられることになります。
そして、
次に挙げたカンジダ症とマラセチア症は、
どちらも人間や動物の皮膚や粘膜などに広く生息する常在菌であるカンジダとマラセチアと呼ばれる真菌によって引き起こされる真菌症であり、
主に、生活が乱れて体調を崩している場合や、他の病気の影響などで免疫力が大きく低下している場合に皮膚炎などを引き起こす日和見感染症に分類されることになります。
また、最後に挙げたニューモシスチス肺炎も、同じく日和見感染症の一種に分類される真菌症であり、
かつては、カリニ原虫と呼ばれる原生動物の一種によって引き起こされると考えられていたためカリニ肺炎と呼ばれていたのですが、
現在では、ニューモシスチス・イロベチイという酵母状の真菌の一種によって引き起こされる感染症であることが分かってきたので、改めて真菌性の日和見感染症の種類として分類されるようになった疾患ということになります。
キノコの胞子によって引き起こされる真菌症の種類
そして、最後に、
キノコの胞子によって引き起こされる真菌症の種類としては、上記の図の下段において示した
スエヒロタケ感染症とヒトヨタケ感染症という二つの疾患の種類が挙げられることになります。
こうした感染症の原因となるスエヒロタケ(末広茸)とヒトヨタケ(一夜茸)と呼ばれる二種類のキノコは、どちらも共に、担子菌類のなかのハラタケ目に分類されるキノコの一種であり、
そうした種類のキノコの胞子が呼吸を介して人体の内部へと取り込まれ、胞子から発芽した菌糸体が人間の気管や肺の中で増殖をはじめてしまうことによって、
気管支の炎症や閉塞などといった呼吸器系の疾患が引き起こされてしまうケースがあると考えられることになるのです。
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以上のように、
カビなどの真菌によって引き起こされる真菌症の種類は、病原体となる真菌の形態の違いに応じて、
カビ状の真菌による真菌症と、酵母状の真菌による真菌症、そして、キノコの胞子によって引き起こされる真菌症という三つのグループへと区分することができると考えられることになります。
そして、
それぞれのグループを代表する真菌症の具体的な種類としては、
カビ状の真菌による真菌症の種類としては、水虫、田虫、白癬、爪白癬、アスペルギルス症、ムーコル症(接合菌症)、ヒストプラスマ症、スポロトリコーシスといった疾患の種類が、
酵母状の真菌による真菌症の種類としては、クリプトコッカス症、カンジダ症、マラセチア症、ニューモシスチス肺炎といった疾患の種類が、
キノコの胞子による真菌症の種類としては、スエヒロタケ感染症とヒトヨタケ感染症とったた疾患の種類が
それぞれのグループにおける代表的な真菌症の種類として挙げられることになると考えられることになるのです。
・・・
このシリーズの初回記事:病原体となる酵母とは?真菌性の日和見感染症の原因となる酵母の種類
関連記事:菌類の分類のあり方のまとめと真菌・粘菌・細菌という三つの菌類の種族に分類される代表的な菌類の名前
前回記事:病原体となるキノコの種類とは?スエヒロタケとヒトヨタケによって引き起こされる真菌症の特徴とマツタケやシイタケとの関係
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