病原体となる酵母とは?真菌性の日和見感染症の原因となる酵母の種類、酵母とは何か?③
人間にとって一般的な病原体となるウイルスや細菌によって引き起こされる病気のことを指して、ウイルス感染症や、細菌感染症といった言葉が用いられるのに対して、
カビなどの菌類によって引き起こされる感染症に対しては、真菌症、あるいは、真菌感染症という言葉が用いられることになりますが、
こうした真菌症を引き起こす病原体となる菌類には、カビだけではなく、酵母の形態を持った菌類の種類も含まれることになります。
それでは、
そうした人間の体に害をもたらし、病気を引き起こす危険性のある酵母としては、具体的にどのような酵母の種類が挙げられることになると考えられることになるのでしょうか?
病原体となる代表的な酵母の種類、クリプトコッカスとカンジダとマラセチア
前回書いたように、生物学的な広義の意味における酵母の定義に基づくと、
酵母とは、運動性を持たずに、細胞壁を持ち、光合成を行わずに、植物や動物などの他の生物体への寄生または共生関係を営むことによって生活する真核生物である真菌類に分類される生物のうち、
球形または楕円形の形態をした個々の細胞が単細胞の状態で一つの生物体を形成する生物のことを意味すると考えられることになるのですが、
こうした生物学的な意味における酵母に分類される生物のなかで、人間の体に害ををもたらし、病原体となる可能性のある代表的な菌類の種類としては、
例えば、
クリプトコッカス(Cryptococcus)や、カンジダ(Candida)、そして、マラセチア( Malassezia)
といった酵母状の真菌の種類の名を挙げることができると考えられることになります。
このうち、カンジダとマラセチアと呼ばれる真菌は、
人間や動物の皮膚や粘膜などに広く生息する常在菌であり、人間の免疫力が十分に機能している平常時には、特に人体に害をもたらすことはなく、平穏な状態で共存しているのですが、
生活が乱れて体調を崩している場合や、他の病気の影響などで免疫力が大きく低下している場合などには、皮膚炎などを引き起こす日和見感染症の原因となる真菌の種類として分類されることになります。
そして、もう一つのクリプトコッカスと呼ばれる真菌の方は、
空気中や土壌などに広く生息している真菌であり、こちらも人間の免疫力が低下した時にのみ病気を引き起こす日和見感染症に分類される病原菌ということになるのですが、
クリプトコッカスの場合は、主に、空気中や、地面から舞い上がった土ぼこりのうちに含まれているクリプトコッカスが鼻や口を介して肺の内部へと入り込むことによって呼吸器系の疾患を引き起こすケースが多いほか、
そこからさらに体内を移動して、最終的に髄膜炎や脳炎などを引き起こすことによって、比較的致死率の高い重篤な症状を引き起こしてしまうケースもあると考えられることになるのです。
真菌性の日和見感染症としてのニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)
また、
こうした真菌によって引き起こされる日和見感染症が、重篤な症状へとつながってしまう危険性が特に高いケースとしては、
エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)に代表されるような免疫力の著しい低下を引き起こす疾患にすでに罹患してしまっているケースが挙げられ、
そうしたエイズ患者などにとって生命にかかわる重篤な症状を引き起こす危険性のある代表的な真菌性の日和見感染症の種類としては、
クリプトコッカス症や、カンジダ症の他に、かつて、カリニ肺炎と呼ばれていた感染症も挙げられることになるのですが、
かつて、カリニ原虫と呼ばれる原生動物の一種によって引き起こされると考えられていたこの感染症は、
現在では、ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)という酵母状の真菌の一種によって引き起こされる感染症であることが新たに解明されてきていて、
それは、ニューモシスチス肺炎と呼ばれる真菌性の日和見感染症の種類として分類し直す方がより適切であると考えられることになります。
そして、
こうしたクリプトコッカスや、カンジダ、マラセチア、さらには、ニューモシスチスといった日和見感染症などの病原体となる真菌は、
通常の場合、カビやキノコのように菌糸と呼ばれる細胞列を形成することなく、単独の単細胞の状態で増殖していくことになるので、
生物学的な定義においては、酵母に分類される病原体であると考えられることになるのです。
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以上のように、
人間の体に害をもたす病原体となる危険性のある酵母の具体的な種類としては、
呼吸器から感染して髄膜炎や脳炎を引き起こすクリプトコッカスや、
皮膚や粘膜などの炎症を引き起こすカンジダや、マラセチア、
さらには、エイズ患者などの免疫力が著しく低下した患者に対して重篤な症状を起こすニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)の原因となるニューモシスチスといった
真菌性の日和見感染症の原因となる酵母の種類が挙げられることになると考えられることになります。
しかし、その一方で、
例えば、
上記の病原体となる危険性のある酵母の代表的な種類の内の一つとして取り挙げたカンジダに分類される酵母のなかには、
ワインの醸造や、味噌や醤油などの発酵食品の製造過程に関わっている酵母の種類も含まれることになるのですが、
このように、酵母と呼ばれる生物の種族は、
個々の酵母の種類における微細な性質の違いや、生育する場所や環境の違い、宿主となる生物の免疫力とのバランスといった微細な条件の違いに応じて、毒にもなれば薬にもなる存在へと変化していく、
人間にとって善悪の両面をあわせ持った存在として捉えることができると考えられることになるのです。
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このシリーズの次回記事:菌類の分類のあり方のまとめと真菌・粘菌・細菌という三つの菌類の種族に分類される代表的な菌類の名前
関連記事:カビによって引き起こされる真菌症の代表的な種類とは?①白癬菌が原因となる真菌症の種類とそれぞれの疾患の具体的な特徴
前回記事:酵母とカビとキノコの違いとは?生物学的な広義の意味における酵母の定義と、単細胞・群体・多細胞の違い、酵母とは何か?②
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