生活環とは何か?動物と植物における生活環の多様性と複雑性の違いと、一世代から二世代、三世代にわたる生活環のサイクル
生活環(life cycle、ライフサイクル)とは、その名の通り、個体としての生物が誕生してから、自らの生涯を終えて種族としての生命を次の世代へと引き継ぐまでの生活の過程と周期を一つの円環(サイクル)として表現したものであり、
生物学的な概念における生活環とは、一言でいうと、
植物や動物といった様々な生物の特定の種族において、個体としての生命が、前の世代の生殖細胞から出発し、その生涯の内で自らの身体や植物体の構造を成長・発達させていくという様々な変化を経たうえで、最終的に次の世代の生殖細胞を生み出すことによって再び元と同じ段階へと戻ってくるという
一つの円環によって結ばれた個体としての生命の周期の過程を意味することになります。
そして、
こうしたそれぞれの生物における生活環のあり方は、大枠で見た場合、動物と植物においてその多様性と複雑性に大きな違いがあると考えられることになります。
動物と種子植物における一世代で完結する生活環のサイクル
動物と植物における生活環の構造を比べてみた場合、
まず、
動物の場合は、前の世代の雌と雄の生殖細胞同士の結合によって生じた受精卵から誕生した動物の個体は、やがて、生殖が可能となる成体の段階へと成長し、そこで再び新たな生殖細胞同士の結合が成立することによって次の世代の受精卵が生じるというように、
一つの世代のサイクルの内で完結する形で生活環が営まれていくことになります。
それに対して、
植物の場合も、種から芽を出して花を咲かせる種子植物の場合には、受粉を通じた前の世代の生殖細胞同士の結合によって生じた種子から誕生した植物体の個体は、やがて、自らの内に花を形成し、そうして形成された花同士の間で再び受粉が成立することを通じて次の世代の種子が生じるという形で生活環が営まれていくことになるので、
こうした種子植物における生活環の構造は、前述した動物における生活環の構造と同様に、一つの世代の内でサイクルが完結する比較的シンプルな生活環の図式として捉えることができると考えられることになります。
シダ植物とコケ植物における二世代にわたる生活環のサイクルと、一部の藻類における三世代にわたる生活環のサイクル
しかし、その一方で、
詳しくは、「種子植物とシダ植物やコケ植物との違い」の記事で書いたように、
花を咲かせない植物であるシダ植物やコケ植物などの場合には、
前の世代の個体の無性生殖によって生じた胞子から発芽した植物体は、やがて、生殖が可能となる配偶体へと成長し、そうした配偶体の内に形成される造卵器と造精器の間の有性生殖によって、受精卵が生じることになるのですが、
そうして生じた受精卵からは、配偶体ではなく、胞子体と呼ばれる全く別の姿をした植物体が成長していき、そうした胞子体の内に形成される胞子のうにおいて行われる無性生殖によって次の世代の胞子が生じるという形で生活環が営まれていくというように、
こうしたシダ植物やコケ植物の生活環の構造においては、前述した動物や種子植物における生活環の構造とは異なり、
胞子体における無性世代と、配偶体における有性世代という互いに異なる構造をした植物体の二つの世代を経てからでないと、元の胞子の段階へは戻ってくることができないと考えられることになります。
つまり、
こうしたシダ植物やコケ植物などの植物の生活環においては、
例えば、動物の親子の例でたとえてみるとするなるば、
前の世代の両親の間に生まれた子供は、両親のどちらとも全く似つかないクラゲやタコのような姿をした異形の姿をした子供が生まれてきて、
そうした異形の姿をした子供が成長して新たに別の子供を生むことによって、やっと、元の世代の両親に似た姿をした孫が生まれてくるというように、
非常に複雑で不可思議な生活環が営まれていると考えられることになるのです。
・・・
さらに、
種子植物やシダ植物、コケ植物といったいずれの区分にも当てはまらない植物の種類が分類される藻類の中の一部の種族においては、
シダ植物やコケ植物においてみられる胞子体の世代と配偶体の世代の間に、果胞子などと呼ばれるもう一つ別の世代がはさまることによって、三世代に近いような形で生活環が営まれていくケースもあるのですが、
以上のように、
動物と植物における生活環の構造を比べてみると、
動物の生活環は、
受精卵から成体への成長を経て再び次世代の受精卵の形成へと至るという一つの世代で完結した構造をとるのに対して、
植物の生活環は、
種子植物の場合は、動物の場合と同様に、種子から芽を出して成長していった植物体の内にやがて花が咲き、その花の内で受粉が成立することによって再び次世代の種子が生じるというように、一つの世代で生活環のサイクルが完結していると捉えることはできるものの、
シダ植物とコケ植物の場合には、胞子体における無性世代と、配偶体における有性世代という互いにまったく異なる形態をもつ植物体の二つの世代を経る形で生活環が展開され、
一部の藻類においては、そうした胞子体と配偶体の世代の間に、さらに、別のもう一つの世代がはさまれることによって三つの世代にわたる生活環が営まれるケースもあるというように、
植物の生活環においては、動物の生活環と比べて、世代の数や、それぞれの世代における有性生殖と無性生殖といった生殖形態の違いなどの点において、極めて多様で複雑な構造が存在すると考えらえることになるのです。
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次回記事:生活環と進化のアウフヘーベンとしての生命のらせん的発展の構造、個体における生活環のサイクルと種族における進化の関係
前回記事:シダ植物やコケ植物に花が咲かない理由とは?水を媒介とする植物の生殖形態と水媒花との関係
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