シダ植物やコケ植物に花が咲かない理由とは?水を媒介とする植物の生殖形態と水媒花との関係
「種子植物とシダ植物やコケ植物の違い」の記事で書いたように、人間が日常的に目にする最も一般的な植物である種子植物と、シダ植物やコケ植物を区別する具体的な特徴の違いとしては、第一に、
種子植物においては花が形成されるのに対して、シダ植物やコケ植物においては花は形成されないという特徴の違いを挙げることができると考えられることになります。
それでは、
こうしたシダ植物やコケ植物といった植物の種類において、種子植物において見られるような花が一切咲くことがない理由はどのような点に求められることになると考えられることになるのでしょうか?
今回は、そのような問題について、種子植物とシダ植物やコケ植物における生殖形態の違いといった観点から詳しく考えてみたいと思います。
シダ植物やコケ植物に花が咲かない理由とは?
以前に「被子植物と裸子植物の違い」の記事で書いたように、種から芽を出し花をつける種子植物のなかでも、その大部分を占める被子植物の花の多くは、
昆虫の媒介によって受粉を行う虫媒花や、鳥によって花粉が運ばれる鳥媒花へと分類されることになります。
そして、
人間が日常的に目にするサクラ(桜)やバラ(薔薇)、ユリ(百合)、コスモス、チューリップ、ツバキ(椿)、サザンカ、ウメ(梅)、モモ(桃)といった
美しい花びらをつけたり、甘い蜜を分泌したりする観賞用の花たちの多くも、こうした虫媒花や鳥媒花へと分類されることになるのですが、
こうした虫媒花や鳥媒花に分類される被子植物の花たちは、
花粉の運び手となる虫や鳥たちを自分のもとに引き寄せるために、そうした大きく目立つ美しい花を咲かせていると考えられることになります。
そして、
こうした被子植物の生殖においては、花の内に存在する雌しべの柱頭において受粉が成立した後に、花粉から伸びた花粉管が子房の内にある胚珠へと到達することによって、種子の形成が進められていくことになるのですが、
それに対して、
種子ではなく、胞子によって繁殖するシダ植物とコケ植物においては、こうした種子植物において受粉を行い種子を形成するために必要な器官である花の存在自体が必要ではないので、
シダ植物とコケ植物においては花が咲かないと考えられることになるのです。
シダ植物やコケ植物における水を媒介とする生殖形態と水媒花
それでは、
こうした花を咲かせずに繁殖するシダ植物やコケ植物においては、どのような形で種子植物の受粉に相当するような生殖が営まれていくことになるのか?ということについてですが、
シダ植物とコケ植物においては、その有性世代において形成される配偶体の造精器において生じた生殖細胞が、
雨のしずくや川の水の流れに乗って運ばれていき、別の配偶体の造卵器の内へと流れ込むことによって受精卵が生じることで新たな世代の個体が生み出されていくことになります。
そういう意味では、
こうしたシダ植物やコケ植物における水を媒介とする生殖形態は、種子植物の生殖形態でいうと、
虫や鳥といった動物の手による媒介を必要とせずに、花粉が水の流れで運ばれることによって受粉を行う水媒花に似た生殖形態として捉えることができると考えられることになるかもしれません。
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ちなみに、
こうした花粉が水の流れで運ばれることによって受粉を行う水媒花にあたる植物の種類としては、
キンギョモ(金魚藻)、マツモ(松藻)、クロモ(黒藻)、イバラモ(茨藻)、フサモ(房藻)、セキショウモ(石菖藻)といった水草の名前が挙げられることになりますが、
これらの水草は、「藻」という字が使われているとはいっても、水媒花へと分類される花をつける植物である以上、藻類に分類されるわけではなく、基本的には、種子植物のなかの被子植物にあたる植物として分類されることになります。
そして、
こうした水媒花の場合は、風媒花の場合と同様に、動物ではなく、水流という自然の力をそのまま利用して受粉を行うことになるので、
風媒花ほど地味ではないにせよ、一般的な虫媒花などと比べると比較的目立ちにくいこじんまりとした小さな花をつけるケースが多いと考えられることになります。
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以上のように、
シダ植物やコケ植物に花が咲かない具体的な理由としては、
種子植物の大部分を占める被子植物の花の多くは、花粉の運び手となる虫や鳥たちを自分のもとに引き寄せるために、大きく目立つ美しい花を咲かせるのに対して、
雨のしずくや川の水の流れを利用して生殖を行うシダ植物やコケ植物は、虫や鳥といった動物の気を引く必要がないということと、
そもそも、胞子によって繁殖するシダ植物とコケ植物においては、受粉を行い種子を形成する器官である花の存在自体が不要であるということから、
シダ植物とコケ植物においては花が咲かないと考えられることになります。
また、
シダ植物やコケ植物と同様に、水を媒介とする生殖形態をとる植物は、種子植物の一部にも存在していて、
一般的に、花粉が水の流れで運ばれることによって受粉を行う種子植物は水媒花へと分類されることになるのですが、
そうした水媒花においては、それが種子植物に分類される植物である以上、一応花を咲かせることにはなるのですが、
水媒花に分類される植物の花は、虫媒花の場合などとは異なり、動物の気を引く必要がないので、一般的に、花とはいっても比較的目立ちにくいこじんまりとした小さな花をつけるケースが多いと考えられることになるのです。
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次回記事:生活環とは何か?動物と植物における生活環の多様性と複雑性の違いと、一世代から二世代、三世代にわたる生活環のサイクル
前回記事:シダ植物とコケ植物の違いとは?両者を区別する五つの具体的な特徴と、それぞれに分類される植物の代表的な種類
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