ロゴスとは何か?①古代ギリシア哲学におけるロゴスの意味
ロゴス(logos)という言葉は、
英語のlogic(ロジック、論理)やドイツ語のlesen(レーゼン、読む)といった単語の語源にもなっているように、
基本的には、論理や理性、言葉といった意味を表す語であると考えられます。
そして、
このロゴスという言葉は、その言葉が語られる文脈に応じて、
論理、理性、言葉という上記の三つの主要な意味の他に、
言語や思想、さらには、概念、意味、説明、理論、理由、根拠、秩序、原理、理法、さらには、比率、比例、類比、算定といった意味でも語られる極めて多義的な意味を持つ言葉となっています。
それでは、ロゴスという言葉がこのように深い含蓄を持つ広い意味で使われるようになった大本の起源にある哲学においては、
それは具体的にどのような意味を持つ概念として成立していった言葉であると考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスにおけるロゴスの概念
哲学史において、ロゴスという言葉が特別に重要な意味を持つようになってくるのは、
紀元前6世紀後半の古代ギリシアの哲学者であるヘラクレイトスの時代であると考えられます。
ヘラクレイトスは、「暗き人」や「謎かけ人」などとも呼ばれるように、具体的な真意を読み取ることが難しい箴言を多用する極めて難解な文体で知られる哲学者ですが、
そうした少し謎めいたところのある古代の哲学者であるヘラクレイトスは、彼の思想が記された断片の中で、ロゴスとは以下のようなものであると語っています。
ロゴスは、ここに常にあるのに、
人々は、それを聞く前にも、聞いた後にも理解することがない。
万物はこのロゴスに従って生成しているにもかかわらず、人々はそのことを理解しないのである。
(ヘラクレイトス・断片1)
このように、ヘラクレイトスは、
ロゴスとは、人々の目の前に常に存在しているが、その本当の姿をしっかりと理解することは難しいものであり、
世界の内にあるあらゆる存在がそれに基づいて成立していると語っていると考えられることになります。
それでは、
こうした謎かけ言葉のような文言を通じて、ヘラクレイトスは具体的にどのような意味でロゴスという言葉を語っていると考えられるのか?ということについてですが、
それは一言でいうと、
すべての物事の根源に存在し、万物を支配しているある種の根本原理のようなものを意味していると考えられることになります。
つまり、
古代ギリシアの哲学者であるヘラクレイトスにおいて、ロゴスという概念は、万物を成り立たせている根源的な秩序や理法としての根本原理のことを意味していて、
そうした万物の根本原理を理解する論理や理性といった人間の知性の働きもロゴスという言葉によって語られていると考えられることになるのです。
ソクラテスの問答法におけるロゴスの概念
それに対して、
人倫の哲学や倫理学の祖ともされる古代ギリシアで一番有名な哲学者である紀元前4世紀後半のアテナイの哲学者ソクラテスにおいては、
ロゴスという言葉は、ヘラクレイトスとは少し違った意味合いで用いられることになります。
ソクラテスが自らの生き方自体を通じて示し続けてきた知の探究の方法論は、ソクラテスの問答法、あるいは、彼の母親の職業になぞらえてソクラテスの産婆術などと呼ばれることになりますが、
そこでは、相手の主張に対してこちらが反論を行い、それに対して再び相手が応答するという対話の形で互いが用いる言葉の意味と知のあり方の吟味が進んで行くことになります。
そして、
こうしたソクラテスの問答法における対話問答のあり方は、ディアロゴス(dialogos)という言葉でも語られることになるのですが、
このディアロゴスという言葉は、「~を通して」や「~の間に」といったことを意味するdia(ディア)に、logos(ロゴス)が結びついてできた言葉であり、
互いに異なる二つのロゴスの間のぶつかり合いを通じて問答法による知の探究が進んでいくと考えられることになります。
このような意味におけるロゴスは、もはや万物の根源原理としての絶対的な意味合いは薄れ、
むしろ、人間が自分自身の思考を言葉を通じて互いに語り合うという日常的な会話も含めた対話のあり方がロゴスという言葉において示されていると考えられます。
つまり、
ソクラテスにおいて、ロゴスという概念は、
論理や理性といった人間の知性が持つ抽象的な働きの他に、人間同士の実際の会話や対話の内に用いていられている言葉そのもののことを示す意味においても捉えられていると考えられることになるのです。
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以上のように、
ロゴスという言葉が持つ現代における主要な意味の源流は、
ヘラクレイトスやソクラテスといった古代ギリシアの哲学者たちの思想の内に求めることができます。
そして、
こうした古代ギリシア哲学におけるロゴス(logos)という概念が持つ論理や理性、言葉といった意味が、中世から近代にかけてドイツ語や英語といったヨーロッパ各地の言語の内へと引き継がれていくことによって、
英語のlogic(ロジック、論理)やドイツ語のlesen(レーゼン、読む)といった様々な言葉が成立していったと考えられることになるのです。
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次回記事:古代ギリシア語で書かれた新約聖書の原典におけるロゴスの記述、ロゴスとは何か?②
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