積極的安楽死と消極的安楽死に明確な区分は存在するのか?安楽死と尊厳死の違いとは?④

前々回の記事で書いたように、

積極的安楽死消極的安楽死という二つの安楽死のあり方は、

積極的安楽死が毒薬の使用といった積極的な方法によって、患者を直接的に死へと至らしめる行為であるのに対して、

消極的安楽死の方は延命措置の拒否や緩和ケアなどを通じて患者が自然に死んでいくのを見守る死のあり方であるという点において、両者の死のあり方は概念上は区別されると考えられることになります。

それでは、実際に安楽死を行う際に、

どのような行為が積極的に患者を直接的に死へと至らしめる積極的安楽死にあたる行為であり、どこまでの行為ならば患者の命を直接的に縮める方向には作用しない消極的安楽死にとどまる行為であると考えられることになるのでしょうか?

 今回は、こうした積極的安楽死消極的安楽死という二つの死の概念の間にはっきりとした具体的な線引きは可能なのか?

両者の死のあり方には、明確な区分は存在すると言えるのか?という問題について考えてみたいと思います。

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積極的安楽死と消極的安楽死の間に明確な区分は存在するのか?

冒頭でも書いたように、

一般的に、積極的安楽死においては、積極的に患者の命を縮め、速やかな死へと向かわせるために、毒薬の使用などの死に至るための直接的な手段が用いられることになりますが、

それに対して、消極的安楽死と呼ばれる安楽死のあり方においては、基本的には、こうした積極的安楽死におけるような直接的に患者の命を縮める方向へと作用する手段は用いられないと考えられることになります。

そして、

消極的安楽死においては、通常の場合、生命維持装置などの積極的な延命措置の中止などと共に、苦痛を緩和するための鎮痛剤や鎮静剤の投与などが行われることになりますが、

こうした苦痛の緩和のために用いられる薬剤の代表としては、モルヒネなどの強力な鎮静作用を持った鎮痛剤の名が挙げられることになります。

しかし、

モルヒネは、医療品として扱われない場合は、一般的には麻薬に分類される薬品であり、ヘロインデソモルヒネ(通称クロコダイル)といったより強力で毒性の強い合成麻薬の原料ともなっているように、

それは、毒薬とは言えないまでも、依存性などの面で人体に対する負担が大きい薬品であるとも考えられることになります。

具体的には、長期間にわたるモルヒネの大量投与が続くと、その強い鎮静作用の影響によって、徐々に呼吸抑制腸閉塞などの重病人にとっては致命的ともなりかねない副作用が現れることになりますが、

このように、

モルヒネに代表されるような苦痛を緩和するために用いられる薬物の長期間にわたる使用は、患者の余命に少なからず影響与えることになると考えられることになるのです。

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明瞭な境界がなくグラデーションのように広がる安楽死の概念

以上のように、一般的には、

積極的安楽死が毒薬の使用などによって患者を直接的に死へと至らしめる行為であるのに対して、

消極的安楽死の場合は、そうした積極的安楽死におけるような直接的に患者の命を縮める方向へと作用する手段は用いられないと考えられることになります。

しかし、例えば、

消極的安楽死における苦痛を緩和するための薬剤の投与においても、そうした鎮痛剤や鎮静剤などの大量の使用が、結果として患者の余命を縮める方向へと作用してしまうこともあるように、

どこまでが患者の命を積極的に縮めることがない消極的安楽死にあたる行為であり、どこからが積極的に患者の命を奪う積極的安楽死にあたる行為であると言えるのか?という問題については、はっきりとした線引きをすることが困難な問題であると考えられることになります。

つまり、

積極的安楽死消極的安楽死という二つの死のあり方は、程度の差こそあれ、両者とも患者の余命に対して少なからぬ影響を与えてしまう行為を含む概念であり、

両者の間には、様々な医療措置のあり方がグラデーションのように広がっていて、互いを別個の死のあり方として明確に区別するような明瞭な境界線は存在しないと考えられることになるのです。

・・・

このように考えると、次に、

積極的安楽死と消極的安楽死の間に明確な区別が存在しない以上、それと同様に、実態的な意味においては消極的安楽死と同義語的に用いられることが多い尊厳死の概念についても、

安楽死と尊厳死という二つの死のあり方の間には、明確な区別は存在しないと考えられるのではないか?という疑問が生じることになりますが、

それについては、また次回改めて考えて行くように、

両者の間の明確な区分は、それぞれの死がもたらされる手段となる個々の具体的な医療処置のあり方の違いに求められるのではなく、

むしろ、その背景にある人間の生き死に対する思想の違い、それぞれの概念の背後にある死生観の違いに求められると考えられることになるのです。

・・・

次回記事安楽死の背景にある自己決定権の思想と個人主義と功利主義の関係とは?安楽死と尊厳死の違いとは?⑤

前回記事:尊厳死と安楽死の関係とは?両者の視点の違いと消極的安楽死により近い概念としての尊厳死、安楽死と尊厳死の違いとは?③

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