積極的安楽死と消極的安楽死の違いとは?安楽死と尊厳死の違いとは?②
前回書いたように、
安楽死(euthanasia、ユーサネイジア)という言葉の語源は、古代ギリシア語で「善い死」のことを意味するエウタナシアという言葉に求められることになるのですが、
このように、安楽死や尊厳死といった死のあり方は、人間がその人生の終末をいかにしてよい形で迎えるか?という良い死のあり方を求めるなかで生まれていった概念であると考えられることになります。
そして、そうしたより良い死のあり方を目指して、回復の見込みのない不治の病に苦しむ重病人などに対して、その苦痛を取り除くために死をもたらす行為である安楽死には、
大きく分けて積極的安楽死と消極的安楽死と呼ばれる二つの区分があると考えられることになるのですが、
この積極的安楽死と消極的安楽死という二つの概念には、互いにどのような相違点があると考えられることなるのでしょうか?
積極的安楽死と消極的安楽死の違いとは?
積極的安楽死とは、英語では、active euthanasia(アクティブ・ユーサネイジア)、あるいは、positive euthanasia(ポジティブ・ユーサネイジア)と呼ばれる概念であり、
activeは「活動的、能動的」を意味する形容詞であり、positiveは「積極的」を意味する形容詞なので、
active euthanasiaやpositive euthanasiaといった英単語は、それぞれ能動的安楽死または積極的安楽死と和訳されることになります。
そして、こうした積極的安楽死や能動的安楽死においては、
患者本人の明確で継続的な意思に基づく依頼のもと、医師の手によって致死性の毒物などが投与されることによって、患者に対して苦痛のない速やかな死がもたらされることになります。
このように、こうしたタイプの安楽死においては、毒薬の投与といった能動的な働きかけによって積極的に患者の余命を縮めることを目的として安楽死が行われることになるので、
それが積極的安楽死または能動的安楽死と呼ばれていると考えられることになるのです。
それに対して、
消極的安楽死とは、英語では、passive euthanasia(パッシブ・ユーサネイジア)、あるいは、negative euthanasia(ネガティブ・ユーサネイジア)と呼ばれる概念であり、
passive は「受動的」を意味する形容詞であり、negative は「消極的」を意味する形容詞なので、
passive euthanasiaやnegative euthanasiaといった英単語は、それぞれ受動的安楽死または消極的安楽死と和訳されることになります。
そして、積極的安楽死においては、毒薬の投与といった積極的な形で患者の死がもたらされるのに対して、
こうした消極的安楽死においては、人工呼吸器などの生命維持装置の使用の拒否や苦痛を取り除くためのモルヒネなどの鎮痛薬の使用といった緩和ケアによって患者が自然な死を迎えるためのサポートが行われていくことになります。
つまり、こうしたタイプの安楽死においては、積極的安楽死に見られるような人為的で直接的な形での患者の死への介入は行われずに、
生命維持装置の使用などによる延命措置を行わないという消極的な形での対処にとどめられ、そうした消極的な措置によって、結果として患者の死が受動的にもたらされることになるので、
こうした死のあり方が消極的安楽死または受動的安楽死と呼ばれることになると考えられるのです。
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以上のように、
積極的安楽死は能動的安楽死と呼ばれる概念と、消極的安楽死は受動的安楽死と呼ばれる概念とそれぞれ同義の概念であると考えられることになります。
そして、
積極的安楽死や能動的安楽死が、毒薬の使用といった積極的な方法によって、患者を人為的かつ直接的な形で死へと至らしめる行為であるのに対して、
消極的安楽死や受動的安楽死の方は、生命維持装置の使用といった延命措置の拒否などを通じて、患者自身の生命力が尽きて自然に死んでいくのにまかせる死のあり方であるという点に、
両者の安楽死のあり方の具体的な違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:尊厳死と安楽死の関係とは?両者の視点の違いと消極的安楽死により近い概念としての尊厳死、安楽死と尊厳死の違いとは?③
前回記事:安楽死(エウタナシア)の語源と善い生の先にあるべき善い死のあり方、安楽死と尊厳死の違いとは?①
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