旧約聖書における人への罪と神への罪に対する刑罰の違いとは?ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違い④

前々回の記事で書いたように、

旧約聖書の「レビ記」24におけるモーセの言葉に従うと、

目には目を、歯には歯を」そして「命には命をもって償う」という同害報復的な刑罰のあり方は、すべての人間に対して平等に適応される刑罰の原理であると考えられることになります。

そして、その一方で、

レビ記の同じ章の中では、人間が人間に対して犯す罪に対する刑罰のあり方と共に、人間が神に対して犯す罪に対する刑罰のあり方も説かれていくことになるのですが、

このうちの後者である神への罪に対する刑罰については、前者における同害報復的な刑罰の原理とは少し異なった刑罰の適用のあり方が説かれていくことになります。

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旧約聖書における人への罪と神への罪に対する刑罰のあり方の違い

旧約聖書の「レビ記においては、神の御名を冒涜した者に与えられるべき刑罰は以下のようなものであるべきだと説かれています。

神を冒涜する者はだれでも、その罪を負う。
主の御名を呪う者は死刑に処せられる。

共同体全体が彼を石で打ち殺す。神の御名を呪うならば、
寄留する者も土地に生まれた者も同じく、死刑に処せられる。

(旧約聖書「レビ記」24章15節~16節)

つまり、

互いに同等の存在である人間に対して犯される罪であるならば、被害者から奪い傷つけたのと同等のものを加害者自身が差し出すことによって償いがなされうると考えられることになるのですが、

それが人間に対して絶対的な上位にある神に対して犯される罪であるならば、

そうした絶対的な存在である神の名を呪い汚す者は、それがたとえ言葉だけによる冒涜行為であったとしても、自らの命によってその償いをするように求められることになるということです。

そして、

上記の「レビ記」からの引用部分においては、前々回に述べた17節~23節における刑罰の適用範囲の場合とまったく同じように、「寄留する者も土地に生まれた者も同じく」という一文が付されていますが、

こうしたことからも分かるように、

旧約聖書における「目には目を、歯には歯を、命には命を」という人間同士における同害報復的な刑罰の適用が、外国人であるか自国民であるか、貴族やお金持ちであるかそれとも貧者や奴隷であるかを問わずに、すべての人々に対して平等に適応される刑罰の原理であったのと同様に、

神を冒涜する者に対して与えられるべき死の刑罰も、すべての人間に対して同等に適応される刑罰の原理であると考えられることになるのです。

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人間同士の身分差別に基づくハンムラビ法典と人間と神の間の区別に基づく旧約聖書の倫理観の違い

そして、このシリーズの初回の記事で取り上げたように、

ハンムラビ法典における同害報復の規定は、バビロニアの市民と奴隷といった身分の違いに応じてまったく異なった賠償のあり方が適用されるという身分差別的な色合いの濃い刑罰の原理であると考えられることになります。

それに対して、

キリスト教の旧約聖書における倫理観においては、そうしたハンムラビ法典におけるような身分の違いに基づく刑罰の差別はなくすべての人間は神のもと平等に扱われることになるのですが、

その一方で、そうした絶対的な存在である神と人間との関係自体は対等ではあり得ないと考えられることになります。

したがって、

ハンムラビ法典の場合は、身分制度において下位の存在である奴隷の階級にある者が、上位の存在である自由民の頬を打ったとき、その対価として鼻をそぎ落とされるという同害報復以上の代償を支払うことが定められていたのと同様に、

キリスト教の場合は、その宗教観において下位の存在である被造物の立場にある人間が、絶対的上位の存在である神に対してその名を冒涜する行為に及んだ場合には、その対価として命を奪われるという極めて厳しい刑罰の規定がなされることになるのです。

つまり、

キリスト教の旧約聖書における倫理観においては、人間同士の加害と報復の関係における同害報復的な刑罰の規定は、身分を問わずにすべての人間に対して平等に適用されることになるのですが、

その一方で、神と人間との関係は等価ではあり得ないので、

そうした絶対的な存在である神に対して犯された罪に対しては、人の手によって与えうる最大限の罰が与えられることによって罪に対する償いが求められることになると考えられることになるのです。

・・・

初回記事ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?①ハンムラビ法典の身分階級に基づく賠償制度の違い

前回記事:命でしか償うことができないが命によっても償いきれない罪、ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?③

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