ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?①ハンムラビ法典の身分階級に基づく賠償制度の違い

目には目を、歯には歯を」といった言葉で示される同害報復の概念の大本の原典となる文献としては、ハンムラビ法典旧約聖書という二つの書物の名が挙げられることになります。

そして、詳しくは前回の記事で書いたように、それぞれの文献の成立年代としては、ハンムラビ法典における法規定の方が、旧約聖書における該当部分の記述よりも先に書かれたより古い文献であると考えられることになるのですが、

この二つの文献における同害報復の規定については、それぞれの背景にある思想のあり方に根本的に大きく異なったところがあると考えられることになります。

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ハンムラビ法典における身分階級の違いに基づく賠償のあり方の違い

まずはじめに、

ハンムラビ法典における同害報復の規定にかかわる条文の記述について列挙していくと、以下のようになります。

「もし人が他の人の目を潰したならば、その人の目も潰されなければならない。」(ハンムラビ法典、196条)

「もし人が他の人の骨を折ったならば、その人の骨も折られなければならない。」(ハンムラビ法典、197条)

「もし人が他の人の歯を折ったならば、その人の歯も折られなければならない。」(ハンムラビ法典、200条)

つまり、

人間が他の人の体の一部分を傷つけた場合には、その人は自分自身の体のうちで同等の価値を持つ同じ部分を差し出すことによってその償いをなさなければならないということです。

そして、一般的には、

ハンムラビ法典における上記のような条文のことを指して、「目には目を、歯には歯を」といった言葉で示される同害報復の概念が語られていると考えられることになるのです。

しかし、

ハンムラビ法典における条文の規定の中には、上記のような自分自身の体の同じ部分で償うという賠償のあり方の他に、以下のようなタイプの賠償のあり方も記されています。

「もし人が他の人の奴隷の目を潰したか骨を折ったならば、その人はその奴隷の半分の価値を持つものを対価として支払わなければならない。」(ハンムラビ法典、199条)

「もし奴隷が人の頬を打ったならば、その奴隷の耳は切り取られなければならない。」(ハンムラビ法典、205条)

つまり、

人間が他の人の体の一部分を傷つけてしまった場合でも、傷つけた相手が奴隷といった自分よりも身分や地位が低い人物であったとするならば、

その人物の身体を傷つけた対価として、自分の身体の同じ部分をもって償う必要はなく、単にその人物の経済的価値に相当するだけの金額を支払うことによって十分な償いがなされたとみなされるということであり、

その反対に、身分や地位が低い人物の方が身分の高い高貴な人物に対してはむかった場合には、たった一回パシッとほほをたたいただけでも、その対価として自分の耳を切り落されることになると規定されているということです。

このように、ハンムラビ法典においては、

同じ人間であっても、王の庇護下にあるバビロニアの市民奴隷との間では賠償のあり方に大きな違いがあると考えられることになるのです。

そして、

上記のようなハンムラビ法典における条文の規定のあり方にそのまま従うと、捉え方によっては、

たとえ同じ内容の罪を犯した場合でも、加害者が貴族やお金持ちなどの上流階級の人物であった場合は、ある程度の金額のお金を支払いさえすればそれですべてが解決してしまうのに対して、

加害者が地位もお金もない社会的階層の低い人物であった場合には、自分の体に直接損傷を与えられる体刑や懲役刑などによって肉体的な苦痛を伴う刑罰を与えられるというように、

それは、極めて身分差別的な要素の強い賠償制度のあり方を示しているとも解釈しうることになるのです。

・・・

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以上のように、

ハンムラビ法典における同害報復の規定は、決してすべての人間に対して平等に適応される原理というわけではなく

それは、むしろ、バビロニアの市民と奴隷といった身分制度に基づいて適応されるそれぞれの階級間における適切な損害賠償のあり方を規定した法典であったと考えられることになります。

それに対して、詳しくは次回改めて考えていくように、

旧約聖書の中でも、特に「レビ記」などの記述においては、現代の一般的な同害報復の意味に一致するところが多い規定が述べられていると考えられることになるのですが、

こちらの方は、キリスト教的な価値観に基づくより宗教的な意味合いの強い倫理規定にもなっているので、

こちらの方はこちらの方で、今度は、人間同士の加害行為における償いのあり方だけではなく、人間と神の間の償いのあり方へも問題が広がっていくことになります。

・・・

次回記事旧約聖書における同害報復と万人に平等な刑罰の原理、ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?②

前回記事:ハンムラビ法典と旧約聖書はどちらの方がより古いのか?

関連記事:旧約聖書における人への罪と神への罪に対する刑罰の違いとは?ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違い④

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