カテコラミン誘発性多型性心室頻拍と進行性心臓伝導障害の特徴、致死性不整脈を引き起こす代表的な不整脈の種類③
心室細動や心室頻拍といった致死性不整脈へとつながってしまう危険性の高い不整脈疾患としては、ブルガダ症候群やQT延長症候群、QT短縮症候群といった疾患が代表例として挙げられることになります。
そして、その他に、
狭心症や心筋梗塞、心筋症といった心臓の器質的な病変がない場合でも、心室細動や心室頻拍といった致死性不整脈へと直接つながってしまう可能性がある不整脈の種類としては、
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍、進行性心臓伝導障害、そして、早期再分極症候群(J波症候群)といった不整脈疾患が挙げられることになります。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍の特徴
このうち、前者のカテコラミン誘発性多型性心室頻拍と進行性心臓伝導障害は、共に、発生頻度が非常に低い極めてまれな疾患であり、
両方とも、心臓における電気的刺激の伝達に関わる遺伝子異常によって引き起こされる不整脈疾患であることが分かっています。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍(Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia、略称:CPVT)は、
運動や感情的興奮に伴って放出される神経伝達物質であるカテコールアミン(Catecholamine、カテコラミンとも呼ばれる) に対する心筋細胞の反応が過剰に強く引き起こされてしまうことによって心臓の電気的興奮が異常に高まり、心室頻拍や心室細動といった重篤な不整脈へとつながる危険性が高まってしまう疾患です。
そして、
神経伝達物質であるカテコールアミンには、より具体的に言うと、一般的に快感物質として知られるホルモンでもあるドーパミンや、ストレスホルモンとして知られるアドレナリンやノルアドレナリンが含まれることになります。
つまり、
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、遺伝子異常によって運動や感情的興奮などの身体的・感情的ストレスなどによって放出されるアドレナリンなどのカテコールアミンが誘因となって心室頻拍が引き起こされやすくなる不整脈疾患であるということです。
したがって、
この不整脈疾患に対する治療法も、体内におけるカテコールアミンの影響を抑制することに重点が置かれることになり、
具体的には、交感神経のアドレナリン受容体であるβ受容体に対する神経伝達物質の伝達を遮断するβ遮断薬(ベータ遮断薬、交感神経β受容体遮断薬)などの薬物治療が行われるほか、症状の状態に応じて、適切な範囲での運動制限などが行われることになります。
進行性心臓伝導障害の特徴
これに対して、もう一方の遺伝性の不整脈疾患である進行性心臓伝導障害(Cardiac conduction disturbance、略称:CCD)は、
遺伝子異常によって、電気的刺激を伝達する際に働く心筋細胞のイオンチャンネルと呼ばれる部位などに徐々に線維変性が進んでいき、心臓における電気的刺激の伝導障害が引き起こされる不整脈疾患であり、
狭心症や心筋梗塞、心筋症といった心臓の器質的な病変を伴わない純粋な不整脈疾患の中では比較的珍しい、徐脈性の不整脈疾患に分類されることになります。
進行性心臓伝導障害においては、病状の進行にしたがって、心臓の電気的刺激の伝導経路が障害を受けていくことになるので、それによって脈が遅くなっていく徐脈の傾向が強まっていくことになり、
さらに伝導障害が進行していくと、房室ブロックと呼ばれる心臓の電気刺激の伝達経路の遮断から心室細動などの致命的な不整脈が引き起こされる危険性が高まってしまうことになります。
この不整脈疾患における心臓の伝導障害の進み方については、個人差が非常に大きいので、伝導障害が軽度のレベルにとどまる場合は、単に心電図などの経過観察を行うだけですむ場合も多いのですが、
伝導障害が進行し、過度の徐脈を原因とする血流障害によって立ちくらみやめまい、失神などの兆候が見られる場合には、体内へのペースメーカーの留置や、植え込み型除細動器(ICD)の留置などのより積極的な治療が検討されていくことになります。
・・・
以上のように、
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍と進行性心臓伝導障害は、共に、心臓の電気的刺激の伝達に関わる遺伝子異常によって引き起こされる極めてまれな不整脈疾患であり、
前者のカテコラミン誘発性多型性心室頻拍が、運動や感情的興奮などによる身体的・感情的ストレスが誘因となって心室頻拍が引き起こされやすくなる頻脈性の不整脈疾患であるのに対して、
後者の進行性心臓伝導障害の方は、心臓の電気的刺激の伝導経路の線維変性が徐々に進行していくことによって徐脈や房室ブロックが引き起こされやすくなる徐脈性の不整脈疾患に分類されることになります。
そして、
今回取り上げたカテコラミン誘発性多型性心室頻拍と進行性心臓伝導障害という二つの非常に稀な不整脈疾患に対して、
もう一つの早期再分極症候群(J波症候群)と呼ばれる不整脈の方は、数多くの症例が見られる発症率の高い不整脈の形態であり、
命に関わる深刻さの度合いや重大性の評価も非常に難しいので、この不整脈の具体的な特徴については、また次回改めて考えてみたいと思います。
・・・
次回記事:早期再分極症候群(J波症候群)の具体的な特徴と危険性の判別基準、致死性不整脈を引き起こす代表的な不整脈の種類④
前回記事:QT延長症候群とQT短縮症候群の違いとは?致死性不整脈を引き起こす代表的な不整脈の種類②
「医学」のカテゴリーへ