風邪とインフルエンザを区別する四つの違いとは?ワクチンの効果の有無と症状・流行期間・原因となるウイルスの種類の違いについて
英語では、風邪はcold(コールド)と呼ばれるのに対して、インフルエンザの方はflu(フルー)と呼ばれることになりますが、
それと同様に、日本語でも風邪は、正式には感冒または普通感冒と呼ばれ、それに対して、インフルエンザは流行性感冒と呼ばれるように、
一般的には、風邪とインフルエンザとは区別されていると考えられることになります。
それでは、
こうした風邪とインフルエンザには、症状や原因となるウイルス、流行期間やワクチンの効果の有無などに具体的にどのような違いがみられることになるのでしょうか?
原因となるウイルスの種類の違いと流行期間の違い
インフルエンザの原因となるウイルスは、その疾患の名前が示している通り、インフルエンザウイルスということになりますが、
低温と乾燥を好むインフルエンザウイルスの性質に合わせて、インフルエンザが流行する時期も12月から3月頃までといった冬の期間に限定されることになります。
それに対して、前回の記事で書いたように、
風邪の原因となるウイルスとしては、鼻かぜの原因となるライノウイルスやせき風邪の原因となるコロナウイルス、のど風邪の原因となるアデノウイルスなどを中心に様々なウイルスの種類が挙げられることになりますが、
原因となるウイルスの種類が複数あり、種々雑多であるということは、個々のウイルスの性質に応じて、感染が広がる流行時期もバラバラに訪れるということを意味することにもなります。
つまり、
風邪の場合は、インフルエンザの流行とは異なり、小規模な流行が季節に関係なく一年中続いていると考えられるということです。
厳密に言うと、それぞれのウイルスの性質に応じた守備範囲の違いによって、
例えば、
春と秋にはライノウイルスに由来する鼻かぜの感染が広がりやすく、夏にはアデノウイルスに由来するのど風邪、そして、冬にはコロナウイルスに由来するせき風邪が散発的に流行するというように、
季節の移り変わりに応じて、風邪の原因となるウイルス同士での主要な勢力の座の交代は見られることにはなるのですが、
風邪として総称される疾患全体としては、一年を通じて一定規模の流行状態を維持し続けていると考えられることになるのです。
風邪とインフルエンザの症状の違いとワクチンの効果の有無
インフルエンザの代表的な症状の中には、せきやのどの痛み、鼻づまりや鼻水といった風邪にも共通する症状に加え、
関節痛や筋肉痛、38℃以上の高熱といった症状が比較的特徴的な症状として挙げられることになります。
これに対して、
一般的な風邪の症状としては、くしゃみや鼻づまりや鼻水、さらには、せきやのどの痛みといった上気道の症状が中心に挙げられることになります。
風邪の場合でも、インフルエンザのときにみられるような関節痛や高熱などの症状が決して出ないというわけではないのですが、
むしろ、そうした関節痛、筋肉痛、高熱などのより重い全身症状が出にくい状態にあるから「風邪」と呼ばれているとも言え、
例えば、
上記のアデノウイルスやコロナウイルスといった風邪の原因となるウイルスによって引き起こされる疾患であっても、それが高熱を引き起こしたり、肺炎などのより重篤な症状を引き起こす場合には、
咽頭結膜熱(プール熱)や重症急性呼吸器症候群(SARS)というように、「風邪」ではなく、別の疾患の名前で呼ばれることになります。
そして、最後に、
ワクチンや抗ウイルス薬の効果の有無についてですが、
前述したように、風邪の原因となるウイルスは種々雑多であり、しかも、例えば、風邪の原因の5割から7割程度を占める最も主要なウイルスであるライノウイルス一種類だけをとっても、人間の免疫系が対応することになるウイルス型は100種類以上も存在するので、
そうしたすべての種類のウイルスのすべてのウイルス型に対応したワクチンや抗ウイルス薬を作り出すことは事実上ほぼ不可能であると考えられることになります。
それに対して、
インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスの方も、そのウイルス型はA型、B 型、C型という三種類に分かれるうえに、
特に、A型インフルエンザウイルスの場合は、HAとNAと呼ばれる細かい遺伝子の箇所の違いに応じて理論上は144種類もの異なる遺伝子型を持ったウイルスが存在しうることになります。
しかし、
インフルエンザの場合は、上記の理論上存在しうる遺伝子型のウイルスがすべて実際に存在して人間に感染するわけではありませんし、
前述したように、インフルエンザ自体は一年中流行を維持し続けているわけではなく、基本的にはその年々のインフルエンザの流行は単発で終わることになるので、
特定の年に流行しているインフルエンザの主要なウイルス型はせいぜい2、3種類程度のウイルス型にまで絞り込むことができると考えられることになります。
したがって、
先行して感染が広がっている地域のデータに基づいて、それぞれの年に流行しそうなインフルエンザのウイルス型を前もって予測することによって、確実とは言えないまでも、ある程度有効性のあるワクチン接種が可能となると考えられることになるのです。
また、
インフルエンザウイルスの場合は、A型全体、あるいは、A型とB 型の双方にある程度有効な抗ウイルス薬の開発も進んでいるので、
風邪の場合とは異なり、インフルエンザの場合には、その年に流行しているインフルエンザのウイルス型に応じたワクチン接種や抗ウイルス薬の使用がある程度有効になるケースもあると考えられることになるのです。
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以上のように、
一般的な風邪とインフルエンザとの区別としては、
①原因となるウイルスの種類の違いとして、風邪の場合はライノウイルスやアデノウイルスやコロナウイルスといった種々雑多なウイルスが原因となるのに対して、インフルエンザはその名の通りインフルエンザウイルスが原因となる。
②流行期間の違いとして、風邪の場合は小規模な流行が季節に関係なく一年中続くのに対して、インフルエンザの流行は12月から3月頃までといった冬の期間に限定される。
③症状の違いとして、一般的な風邪はせきやのどの痛み、鼻づまりや鼻水といった上気道の症状に限定されるのに対して、インフルエンザの場合はそれに加えて関節痛や筋肉痛、38℃以上の高熱といったより重い全身症状が出やすい。
④ワクチンや抗ウイルス薬の効果の違いとして、風邪の場合は原因となるすべてのウイルスに対応するワクチンや抗ウイルス薬の開発が事実上不可能に近いのに対して、インフルエンザの場合はワクチン接種や抗ウイルス薬の使用がある程度有効である。
という四つの違いが挙げられることになるのです。
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前回記事:風邪の原因となる主要な三つのウイルスの種類とは?鼻・のど・せきの症状を引き起こす代表的なウイルス
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