ダックスフントの語源と由来とは?ドイツの猟犬とイギリスの闘犬ブルドッグとの関係
ダックスフント(Dachshund)という単語は、ドイツ語でアナグマを表す”Dachs“(ダックス)と、同じくドイツ語で犬を表す”Hund“(フント)が合わさってできた言葉であり、
ダックスフントという言葉の語源は、「アナグマ」(Dachs)と「犬」(Hund)という二つの言葉にあるということになります。
アナグマは、昼間や冬季の冬眠期間中は斜面に掘った巣穴の中にこもり、夜中に活動するイタチ科の夜行性の動物ですが、
こうしたアナグマやキツネといった動物を巣穴の中に入って狩り出すために品種改良によって生み出された犬種がダックスフントということになります。
イギリスの闘犬ブルドッグと牛攻めの見世物
他の動物と戦うために品種改良されて生まれた犬種というと、一番有名なものとしては、ブルドッグ(bulldog)が挙げられますが、
ブルドッグの語源が、英語で雄牛を表す”bull“(ブル)と犬を表す”dog“(ドッグ)であるように、ブルドッグは、もともとは、牛と戦わせるために品種改良された犬ということになります。
18世紀~19世紀のイギリスにおいては、牛攻め(Bull-baiting、ブル・ベイティング)と呼ばれる鎖につないだ雄牛に闘犬をけしかけてその勝敗などを賭ける見世物が人気を博していたのですが、
ブルドッグは、こうした牛攻めの見世物に使うために開発された雄牛と戦うための闘犬ということになるのです。
ちなみに、
ブルドッグというと、
低い鼻と、皮膚のたるんだしわの多い顔つきが特徴的ですが、
こうしたブルドッグの容姿を特徴づける要素については、
以前には、低い鼻によって、牛に噛みついたまま呼吸し続けることが可能となり、しわの多いたるんだ皮膚によって、頭部への打撃のダメージを軽減するというように、牛との戦闘を有利に進めるために改良がなされてきたと考えられていましたが、
現在では、イギリスで牛攻めが隆盛を極めていた18世紀末の段階においては、闘犬としてのブルドッグには、上記の低い鼻や顔のたるみといった特徴はほとんど見られないので、
そうした特徴は、19世紀に入ってから、牛攻めの見世物の内容がエスカレートしていくなかで、見世物としての娯楽性を高めるために後から付け加えられていった特徴であったと考えられています。
つまり、
こうしたブルドッグの容姿の特徴は、牛に対する戦闘能力を高めるための実用的な要素として開発されたというよりは、むしろ、低い鼻や顔のしわによって、観衆に獰猛で野蛮な印象を与える心理的効果を狙う意味合いの方が強かったと考えられるということです。
ドイツの猟犬ダックスフントとアナグマ攻めの闘犬
そして、
イギリスにおいて、ブルドッグが牛と戦うことに特化して品種改良がなされていったのと同様に、
ドイツにおいて、ダックスフントは、アナグマや、キツネ、ウサギといった地下に巣穴を持つ動物を狩り出し、これを追跡したり仕留めたりするために品種改良がなされていくことになります。
ダックスフントは、もともとは、スイスの山岳地帯に生息していたセントハウンド(Scenthound、主に嗅覚を利用して獲物の追跡と捕獲を行う狩猟犬)であるジュラ・ハウンドを祖先とする猟犬でしたが、
アナグマ猟やキツネ狩りに特化した品種改良が行われていく中で、
地下深くに隠れる獲物の臭いをかぎ分けるために、鼻口部が長く、鼻腔内の面積が広い面長の容貌となり、
狭い巣穴の中にスムーズに入って中の獲物を狩り出すために、短い脚と細長い胴体を持つように改良されていくことになります。
そして、
現存するダックスフントの種類については、毛質の特徴によって、
ロングヘアード(long-haired、長い柔らかな毛質)、
スムースヘアード(smooth-haired、短く滑らかな毛質)、
ワイヤーヘアード(wire-haired、短く粗い剛毛)
という三つの犬種に分類されることになるのですが、
このうち、
スムースヘアードは、12世紀頃に、ネズミなどの中小害獣を駆除するために飼育されていたピンシェル(Pinscher、英語ではピンシャーと発音)と呼ばれるドイツ原産の犬との交雑※によって生まれた犬種であり、
ロングヘア―ドは、15世紀頃に、鳥猟犬(鳥を狩猟する際に用いる猟犬)であるスパニエル(Spaniel)と呼ばれるもともとはスペイン原産とされる犬との交雑によって生まれた犬種、
ワイヤーヘアードは、17世紀頃に、ネズミの駆除や牧牛犬などとして飼育されていたシュナウザー(Schnauzer)と呼ばれるドイツ原産の犬との交雑によって生まれた犬種ということになります。
※交雑とは、遺伝的に異なる品種の間における交配のことを指す用語
ちなみに、
18世紀頃のイギリスを中心とするヨーロッパ諸国では、アナグマ攻めと呼ばれる見世物も行われていたのですが、
アナグマ攻めでは、前述した牛攻めと同様に、アナグマと犬を戦わせてその様子を見物したり、その勝敗を賭けたりすることが行われていました。
そして、
ダックスフントは、こうしたアナグマ攻めにおいて、アナグマと戦うための闘犬として使われることもあったので、
そういった意味においても、ブルドッグとダックスフントは、その犬種としての成り立ちにおいて互いに共通点が多い犬種であると捉えられることになります。
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そして、以上のように、
ブルドッグ(bulldog)が、牛と戦わせるために、頭部が大きく、筋肉質になるようにイギリスにおいて品種改良された闘犬であるのと同様に、
ダックスフント(Dachshund)は、巣穴の中にいるアナグマを狩り出すために、脚が短く、鼻が長くなるようにドイツにおいて品種改良された猟犬であるということになるのです。
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