相反するもの(タ・エナンティア)の循環と動的な均衡

アナクシマンドロスの哲学の概要」で書いたように、

アナクシマンドロスは、

すべての存在の始原であり、
世界の原初の姿である

ト・アペイロン(無限定のもの)から、

といった具体的事物、そして、
といった具体的な性質が生成し、

生成する存在や性質は、

相反するものta enantiaタ・エナンティア)が
2つ一組のセットになって現れると考えました。

スポンサーリンク

相反するものの循環と動的な均衡

そして、

現実の世界が、

タ・エナンティア相反するもの
同士のどのような関係によって成り立っているのか?

ということについては、

前に引用した部分の続きに当たる、
以下の『アナクシマンドロスの断片』の後段の部分で語られています。

存在する諸事物にとって、
生成がそれからなされる源となるもの、

そのものへの消滅もまた、
必然にしたがってなされる。

なぜならば、それらの諸事物は、

時の定めに従って

不正の廉(かど)によって
互いに対して罰を受け

償いをなすことになるからである

(アナクシマンドロス・断片1)

このことは、
以下のように解釈することができるでしょう。

例えば、

」と「」という

相反する性質について考えるとき、

が来ると、太陽は強く照りつけ、
寒さなどどこか遠く彼方へと消え去ってしまったかのように、
ひたすら熱い時期が続き、

の強大な勢力が大地を覆いつくします。

しかし、

太陽が、その力の頂点である
夏至を迎えると、

それを契機として、

まるで、「」が、今まで周りを顧みずに、勢力を拡大し続けてきたことを
不正として咎められ、

その出過ぎた分として
」に対して償うように求められたかのように、

「熱」は徐々に、
その領分を「」へと返していき、

「熱」と「冷」のひとときの均衡が保たれる、
秋の時期が訪れます。

そして、そのまま
の勢力さらに強まっていき、

その勢力が大地を覆う
冬の時期が訪れ、

今度は、それを契機に、
「熱」の方が徐々に勢力を回復していき、

が訪れ、さらに、へと向かっていく、

というように、

季節も、昼と夜も、雨期と乾期も、
時の定めに従って

循環し続ける、ということです。

つまり、

相反する属性の片方が強くなって全体を支配し、
その勢力のピークを迎えると、

それをきっかけとして、

今度は、それとは反対の属性が強くなって、
元の属性にとって代わって、全体を支配する、

という

タ・エナンティア相反するもの)の
循環動的な均衡

によって、世界は成り立っているということになります。

スポンサーリンク

人間社会や経済活動にも通底する原理

ところで、

先に引用した
アナクシマンドロスの断片』では、

文章の前段では、

存在する諸事物が
ト・アペイロンから生成して、
再びト・アペイロンへと還っていくという、

宇宙の生成と終焉のあり方について、
語っていたはずなのに、

文章の後段では、
打って変わって、

不正の廉で罰を受け」「償いをなす

と、まるで人間の道徳について語っているかのように、
擬人化された表現が使われていることに気づきますが、

このような表現になっているのは、

アナクシマンドロスが、
人間の日常生活にも通底する原理として、

タ・エナンティア相反するもの)の
対立と拮抗の関係を捉えているからだと考えられます。

例えば、

人間の経済活動の例で言うと、

バブル期の熱狂のように、
実体経済にそぐわないほどに、

一気に急激に
株価が釣り上げられてしまうと、

いずれは、その反動として、
急激な株価の暴落が引き起こされることになります。

この時に、

例えば、バブルで値上がりしている時に、
いつまでも調子に乗って、
もっともっとと株を買い続けていると、

どこかのタイミングで、
それまでの過度な値上がり分の「償い」をするかのように、
株価の暴落が起き、

まるで何かの「罰でも受けている」かのように、
大きなしっぺ返しを食らってしまうことになります。

まさに、
アナクシマンドロスの言う通り、

時の定めに従って

不正に対する罰を受け償いをする

ことになってしまうというわけです。

このように、

経済活動などの、
人間社会の日常的な営みについても、

宇宙の生成について語っていたのと
まったく同じ原理である、

タ・エナンティア相反するものの対立と拮抗
そして、その循環

という構図によって、
説明できてしまうということになります。

自然と人為を包括する原理

以上のように考えると、

アナクシマンドロスは、

人間社会の日常的な営みから
宇宙全体の成り立ちに至るまで、

全部をひっくるめて説明する
唯一の根本原理として、

万物の始原である
ト・アペイロン無限定のもの)と、

そこから分かれ出でるように生まれてくる
タ・エナンティア相反するもの

の原理を提示しているということになります。

つまり、

ト・アペイロンタ・エナンティアは、

自然と人為とを包括する
すべての存在の根本原理であって、

そのタ・エナンティア相反するもの
循環動的な均衡において、

自然現象も人間の活動も、そのすべてを含む
世界全体が成立していると考えられるのです。

・・・

アナクシマンドロスの哲学の概要

スポンサーリンク
サブコンテンツ

このページの先頭へ