不死であり不滅である無限定のものとしての神
アナクシマンドロスの哲学に基づくと、
宇宙は、
万物の始原である
ト・アペイロン(無限定のもの)から生まれ、
そこから分かれ出でるように生成してくる
タ・エナンティア(相反するもの)の
循環と動的な均衡によって、現実の世界は成り立っている、
ということになりますが、
アナクシマンドロスは、
その万物の始原である
ト・アペイロン(無限定のもの)について、
さらに以下のようにも語っています。
不滅にして、不死なる、神的なもの
ト・アペイロンは、神的なものである。…
なぜならば、
それは、不死であり、不滅のものであるから。
(アナクシマンドロス・断片3)
つまり、
ト・アペイロンは、
宇宙の原初から存在し、
すべての存在は、
ト・アペイロンから生成し、ト・アペイロンへと還っていくので、
万物の根源である、ト・アペイロン自体は、
新たに生成も消滅もすることがない、という意味で、
不滅であり、
それは万物の根源的原理として
すべての存在を司っているので、
神でもある、
ということですが、
そのト・アペイロンが
不死でもあるというのは、どういうことなのでしょうか?
不死であるためには、
その前提として、
生きた存在であることが必要ですが、
そうすると、
ト・アペイロンは、
万物の始原である不滅なる神であると同時に、
一つの生命体でもある、
ということになります。
つまり、
万物の始原である
不死であり不滅である無限定のもの(ト・アペイロン)は、
生ける神でもある、
ということです。
宇宙に内在する神
そして、
宇宙にあるすべての存在は、
ト・アペイロンから
直接分かれ出でるように生成したものなので、
生ける神としてのト・アペイロンは、
宇宙に内在し続ける神であるとも言えます。
なぜ、それが宇宙に内在していると言えるかというと、
例えば、
以前に述べた、
白いキャンバスのたとえで言うならば、
様々な属性を持った
宇宙に存在するすべてのものは、
言わば、
無限定のもの(ト・アペイロン)という
白いキャンバスの上に描かれた
彩り豊かな絵、
ということになりますが、
絵の中には、
キャンバスの上に乗った絵の具だけではなく、
その土台であるキャンバス自体も、
含まれているので、
キャンバスの全体、すなわち、
ト・アペイロン自体が、
宇宙全体の基盤として、
宇宙に内在している、
ということになるのです。
このように考えると、、
生ける神としてのト・アペイロンは、
宇宙の外から世界を創造する、
世界に外在する神ではなく、
宇宙自体に内在する神ということになります。
つまり、
万物の始原である
不死であり不滅である無限定のもの(ト・アペイロン)は、
宇宙に内在する生ける神でもある、
ということです。
アナクシマンドロスからデカルト、そしてスピノザへ
以上のような、
万物の始原を生命原理としても捉え、
宇宙全体に、
生命と神的な存在が満ちていると考える世界観は、
という言葉にも現れている
汎神論的、物活論的世界観にも
通底する思考であると考えられますが、
こうしたアナクシマンドロスの思考は、
さらに、
デカルトの無限なる神の思考、
そして、
スピノザの、
神即自然と言われる、
神は世界に外在するのではなく、内在し、
神と世界とは同一であるという、
汎神論(pantheism、パンセイズム)、
より正確に言うならば、
世界を含む、あらゆる存在が
神の内に存在する、という
万有内在神論(panentheism、パンエンセイズム)
といった世界観にも
つながっていると考えられます。
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