第一次神聖戦争におけるデルポイとキラの戦い:アテナイのソロンによる水攻めの計略とヘレボルスの毒

前回書いたように、古代ギリシアでは、デルポイのアポロン神殿に代表されるような神殿や聖域の管理と維持や互いの親善などを目的として都市国家の間で隣保同盟と呼ばれる緩やかな同盟関係が結ばれていたのですが、

こうした隣保同盟の内部における聖域の支配や宗教的な権益をめぐる争いは、しばしば、デルポイとその周辺に位置する都市国家、さらには、アテナイやスパルタといったギリシア全土の都市国家へと波及していく大規模な宗教戦争へと発展していくことになります。

そして、こうした隣保同盟の内部抗争から発展した古代ギリシアにおける一種の宗教戦争にあたる神聖戦争と呼ばれる戦いは、歴史上の記録によれば、紀元前595年に、都市国家の存亡にも関わる最初の大規模な戦いが行われることになったとされています。

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第一次神聖戦争におけるキラの町の包囲とアポロンの予言

第一次神聖戦争におけるデルポイとキラとの位置関係

紀元前595にはじまる第一次神聖戦争においては、デルポイの南西に位置する古代フォキス地方を代表する都市国家の一つであったキラが隣接するデルポイの地へと勢力を拡大して聖域の一部を自らの領土として切り取ってしまったことに対して、

これをデルポイの地を司るギリシア神話の光明神にして予言の神でもあったアポロンへの冒瀆の罪に値すると捉えた隣保同盟に加盟する古代ギリシアの諸都市がキラの町の討伐へと乗り出すことによって戦争が始まることになります。

ペロポネソス半島の北東部に位置する都市国家であったシキュオンの僭主クレイステネスを司令官としてアテナイのソロンを助言者として迎え入れた隣保同盟の同盟軍は、大規模な軍勢を率いてキラの町を包囲することになるのですが、

こうした同盟軍側からの包囲攻撃に対してキラの人々は自分たちが新たに支配することになった聖域を司る神であるアポロンに戦いの行く末を占う神託の言葉を求めることになります。

そして、こうしたキラの人々からの求めに応じて、ギリシア神話の光明神にして予言の神であるアポロンからは、

「自らが司る神域が海へと触れることがない限り、キラの町が征服されることはない」という神託が下されることになります。

そして、こうした神託の言葉を聞いたキラの人々は、自分たちの町が海からは離れた内陸地にあったことから、海が川を遡って町へと押し寄せてくることがない限り予言の言葉が成就することはあり得ないと考えて安堵することになります。

しかしそれに対して、こうしたキラの人々に下された神託の言葉を耳にした隣保同盟の同盟軍の人々は、アテナイの立法者にしてギリシア七賢人の一人としても数え上げられていたソロンの知恵により、キラの町から海へと至る周辺の地域に住む人々を説得して、これらの地域の土地をすべてアポロンへと捧げることにします。

こうして新たな土地を無理やり与えられることで町の側を海へと近づけられることになってしまったキラの町は予言の言葉の通りに海へと触れさせられてしまうことになるのです。

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アテナイのソロンによる水攻めの計略とヘレボルスの毒

そしてその後、シキュオンを盟主とする同盟軍とキラの町の軍勢との戦いである第一次神聖戦争は十年にもわたって続いていくことになるのですが、

アテナイのソロンの計略によって行われた治水工事によってキラの町へと流れる水路をすべて断絶すると、キラの人々は飢えと渇きによって苦しめられていくことになります。

しかし、それでもキラの人々は雨水をためることによって渇きをしのいで抵抗を続けていくことになるのですが、今度はそれに対して、

ネブロスという名の医術師によってヘレボルスと呼ばれる強い薬効を持つ植物の根を用いた計略が用いられることになり、

同盟軍の人々は、それまで止めていたキラの町へと流れる水路を再び開通させると、その水にヘレボルスの根の毒を流し込んでいくことにします。

長らく待ち望んできた水路の流れが復活したのを目にしたキラの町の人々は、喜び勇んで我先にと新鮮な川の水を口にすることになるのですが、その水に含まれていたヘレボルスの毒によって腹痛や痙攣の発作に襲われることになります。

そしてその後、そうしたヘレボルスの毒によって無力となったキラの町に同盟軍の軍勢が一気に突入することによってキラの町は滅んでしまうことになり、

こうして第一次神聖戦争シキュオンを盟主としてアテナイなどの諸都市も加わっていた同盟軍の側の勝利に終わることになるのです。

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