ヒポクラテスの誓いと古代ギリシアにおける第一次神聖戦争との関係:ネブロスによる医学的な知識の軍事的な兵器への転用

前回書いたように、デルポイのアポロン神殿の聖域を隣国の都市国家であったキラが制圧したことによってはじまった古代ギリシアにおける第一次神聖戦争では、

聖域への侵略者となったキラの人々がアポロン神殿を保護するシキュオンを盟主とする隣保同盟の同盟軍からの包囲攻撃を受けることになります。

そして、こうした第一次神聖戦争においては、アテナイの賢者であったソロンによる水攻めの計略と、ネブロスという名の医術師が用いたヘレボルスの毒によってキラの町は滅亡することになるのですが、

こうした古代ギリシアの第一次神聖戦争におけるヘレボルスの毒を用いた計略によるキラの町の滅亡という出来事は、

医学の父としても知られる古代ギリシアの医者であるヒポクラテスとも深い関わりのある出来事としても位置づけられることになるのです。

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古代ギリシアの名医ネブロスによる医学的な知識の軍事的な兵器への転用

紀元前6世紀に起きた古代ギリシアの第一次神聖戦争においては、ヘレボルスと呼ばれる強い薬効を持つ植物の根に含まれる毒素が用いられることによってキラの人々は腹痛や痙攣の発作に襲われて無力となり、自分たちが住む町への同盟軍の侵攻を許してしまうことになります。

そして、こうしたヘレボルスの根に含まれる劇薬の成分毒として転用することによって戦争を勝利へと導くことに貢献したネブロスという名の人物は、

ギリシア神話において医学の守護神としても位置づけられている伝説的な名医であったとされているアスクレピオスの血を引くともされている古代ギリシアにおける有数の医師団の家系の出身であったと伝えられています。

つまりそういった意味では、第一次神聖戦争においてヘレボルスの根に含まれる毒素を用いて戦争の勝利に貢献したネブロスは、

自らが持つ医学的な知識を利用してそれを人間を傷つける軍事的な兵器として転用することによって同盟軍の勝利へと貢献することになったと考えられることになるのです。

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ヒポクラテスの誓いと古代ギリシアにおける第一次神聖戦争との関係

そして、こうしたネブロスと同じくギリシア神話における伝説的な名医であるアスクレピオスの血を引くと伝えられている人物としては、古代ギリシアを代表する名医であり医学の父としても位置づけられているヒポクラテスの名も挙げられることになります。

紀元前4世紀の古代ギリシアの医者であるヒポクラテスは、イオニア地方に近いエーゲ海南東部の島であったコス島で生まれたのち、

ギリシア神話における医学の守護神でもあるアスクレピオスを祀る神殿であると同時に古代の診療所でもあったアスクレピオス神殿において医師としての修行を積んでいくことになります。

そしてその後、古代ギリシアを代表する名医として大成することになったヒポクラテスは、医師が守るべき倫理的な規範が示されたヒポクラテスの誓いと呼ばれる神へと捧げられた宣誓文を残したとも伝えられていて、

こうしたヒポクラテスの誓いと呼ばれる医師としての倫理的な使命が記された宣誓文においては、

「自らが持つ医療的な知識と技術を患者の病気や怪我を治療するためだけに用いて、人を傷つけることや不正行為に決して用いることがなく

もしも毒を投与するよう求められたとしてもその求めには応じず毒を投与することを勧めることも一切行わない。」

といった一連の文言が語られていくことになります。

そして、そういった意味では、こうしたヒポクラテスの誓いと呼ばれる医師としての宣誓文のなかで語られている「人を傷つけない」「毒を投与することを勧めない」といった文言は、

ヒポクラテスが自らの師にして祖先にあたるとも伝えられている古代のアスクレピオスたちのうちの一人であったネブロス第一次神聖戦争の際に行ったヘレボルスの根に含まれる劇薬の成分毒として転用といった出来事を念頭に置いて語られている文言であるとも解釈することができると考えられることになります。

つまり、ヒポクラテスは、そうした古代ギリシアの第一次神聖戦争における医学的な知識の軍事的な兵器として転用という出来事を医学史における一つの負の歴史として認識したうえで、

医療的な知識と技術を人間の命を救うことではなくその反対に人間を害するために用いることを強く戒めるヒポクラテスの誓いと呼ばれる医師としての倫理的な使命のあり方が示された一連の宣誓文を形づくっていくことになっていったとも考えられることになるのです。

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