エアロゾル感染の三つの感染経路のパターンとは?気管挿管などの医療行為と換気の悪い密閉空間とマンションの下水管
エアロゾル感染とは、通常の場合、飛沫から分離して直径5マイクロメートル以下の大きさになった空気中に浮遊する水分を含む微細な粒子を介して感染が広がっていく病原体の感染経路のことを意味することになると考えられますが、
それでは、こうしたエアロゾル感染と呼ばれる感染形態においては、より具体的には、どのような感染経路のパターンにおいて感染が広がっていくことになると考えられることになるのでしょうか?
人工呼吸器の挿管などの医療行為を介したエアロゾル感染のパターン
そうすると、まず、
本来、こうしたエアロゾル感染と呼ばれる飛沫感染と空気感染の中間に位置するようなやや特殊な感染形態のあり方は、
日常生活というよりはウイルス検査や患者の治療といった医療の現場において問題となるケースが多いと考えられることになります。
ウイルス検査における検体採取や、人工呼吸器の挿管といった医療行為の際には、患者の気管内から通常の飛沫よりもさらに微細な飛沫粒子が発生することがあるのですが、
そうした医療行為の際に発生した微細な飛沫粒子がエアロゾル状態となり、そうした空気中に浮遊しているウイルスを含んだエアロゾルを検査や治療にあたっている医師や看護師などの医療従事者がマスクの隙間などから誤って吸い込んでしまうことによって、
こうしたエアロゾル感染と呼ばれる感染形態によるウイルス感染が成立してしまうケースがあると考えられることになるのです。
換気の悪い密閉空間における限定的なエアロゾル感染のパターン
それでは、それに対して、
こうしたエアロゾル感染と呼ばれる感染形態によるウイルス感染のリスクは、医療現場とは直接的な関係のない一般の人々の日常生活の場面においては、まったく存在しないのかといえば、必ずしもそう言い切れるわけでもなく、
具体的には、
学校の狭い教室や小規模なイベント会場といった比較的狭い空間に換気を十分に行わない状態で大勢の人々が密集して長時間にわたって生活を共にしているような場合には、
空気中を飛び交う飛沫と飛沫核が互いに混ざり合って水分を含んだ感染性の微粒子として空気中を漂っていくことによって、
そうした空気中に浮遊しているエアロゾル化した微細な飛沫粒子を介してウイルス感染が成立してしまうことも、比較的稀なケースではあるもののある程度はあり得ると考えられることになります。
したがって、
こうした日常生活の場面におけるエアロゾル感染のリスクを限りなくゼロへと近づけていくためには、
密閉された空間にある程度多くの人数が集まっている場合には、1時間に1回ほどの間隔でなるべくこまめに換気を行うことによって、通常の飛沫感染による感染経路も含めたウイルス感染のリスクをできる限り下げていくことが重要となると考えられることになるのです。
マンションの下水管と通気システムを介したエアロゾル感染のパターン
そして、
こうしたエアロゾル感染と呼ばれる感染形態には、さらにもう一つ、少し特殊な感染経路のパターンも考えられることになります。
例えば、
2003年に起きたSARSコロナウイルスの流行の際には、香港において、ほとんど顔を合わせたこともない同じマンションの別々の階に人々同士でのウイルス感染が確認されているのですが、
こうした香港のマンションで起きたSARSの集団感染においては、ウイルスに感染した患者の排泄物から発生した微量のエアロゾルがマンションの下水管と通気システムを介して広がっていくことによって感染が拡大していったと考えられています。
ウイルスに感染した患者の排泄物には、咳やくしゃみなどによって飛散する飛沫などと比べて大量のウイルスが含まれていると考えられることになりますが、
このマンションの一部の部屋では、悪臭や害虫などの侵入を防ぐU字型の排水トラップに水がきちんと溜まっていなかったことや、下水管などの配管における構造上の不備などもあり、
マンションの下水管において、ウイルスに汚染された排泄物を含んだ下水が蒸発していく際に一緒に発生した微量のエアロゾルが、マンションの通気システムを介して同じマンションの別の階へと拡散されていくことになってしまったと考えられることになるのです。
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以上のように、
こうしたエアロゾル感染と呼ばれる感染形態において具体的に想定されることになる感染経路のパターンのあり方について、
一言でまとめると、
①人工呼吸器の挿管やウイルス検査などの医療行為を介したエアロゾル感染のパターン
②学校の狭い教室や小規模なイベント会場といった換気の悪い密閉空間における限定的なエアロゾル感染のパターン
③マンションの下水管や通気システムなどを介した塵埃感染に近い少し特殊なエアロゾル感染のパターン
という全部で三つの感染経路のパターンが挙げられることになると考えられることになるのです。
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