皮膚や腸内の体内細菌叢の改善②発酵食品や乳酸菌・酵母菌の摂取効果
腸内環境、腸内細菌叢の改善のために、
ヨーグルトや納豆、ぬか漬けなどの
人体に有益な細菌を含む発酵食品を多く食べたとしても、
口から腸内へと通常のルートで入り込んだ有益な細菌たちは、
唾液酵素や強酸性の胃酸、強アルカリ性の胆汁といった、
幾重にも張り巡らされた人体のバリア機能に阻まれ、
腸内へと到達する前にそのほとんとどが死滅してしまいます。
そして、
わずかに生き残って腸内まで到達した有益な細菌も、
前回の記事「皮膚や腸内の体内細菌叢の改善①人体の恒常性と免疫細胞の記憶」
で書いたように、
人体に備わった恒常性の機能により、
腸内に定着していない
見慣れない細菌として、すぐに駆逐されてしまい、
こうした
体内環境に新たな良い変化をつくり出そうとする試み自体が
人体の恒常性機能によって、
すぐに無効化されてしまうとも考えられます。
そこで、最近では、
より直接的で即効性のある腸内環境の改善効果を得るために、
他人の腸内細菌叢を直接腸内へ移植するという療法も注目されているようですが、
そうした荒療治に頼ることなしに、
もっと一般的な方法で
腸内環境、体内細菌叢のバランスをより良い状態へ
改善していくことは本当にできないものなのでしょうか?
今回は、乳酸菌や酵母菌、発酵食品の摂取という一般的な方法により、
どのようにすれば、
人体の恒常性の機能を乗り越えて、
体内細菌叢の改善を成し遂げられる可能性があるのか
考えてみたいと思います。
恒常性の限界とその急激な崩壊
そのためには、まず、
人体に備わった
恒常性という生体システムの性質について
もう少し掘り下げて考えてみる必要があります。
前回は、体内細菌叢の恒常性が保たれる
具体的なメカニズムについて考えましたが、
今回は、そうした
恒常性の限界について考えてみたいと思います。
つまり、
どのような経過によって、
人体に備わった恒常性の機能がその限界を迎え、
元の秩序に戻ることを放棄するようになるのかということを
考えてみるということです。
恒常性の機能がその限界へと至るまでの例として、
例えば、
生活習慣病の代表格、
後天的な糖尿病の発症に至るまでの経過を
考えてみましょう。
人体は、たとえ、
高カロリー高脂肪の暴飲暴食や、過度な飲酒、強いストレスなどにより
すい臓や腎臓が酷使される状態が続いても、
人体の恒常性の働きにより、
ずっと長い間、平常通りのままで、
血中の糖の濃度すら上がらない状態が続きます。
そのうちに、すい臓の処理能力が限界を迎え、
インスリン(糖を取り込み血糖値を低下させるホルモン)
の分泌が滞るようになると、
血中の糖の濃度、すなわち、血糖値が上がってくるわけですが、
それでも腎臓などの臓器も、全身に張り巡らされた血管も、
ずっと沈黙を続けます。
この間、
5年、10年、20年と、
長い間、ほとんど無症状のままで、
人体の恒常性は保たれ続けるのですが、
ついに、
人体の恒常性の機能を担う
すべての器官の抵抗が突破されて限界を迎えると、
血中の糖が、血管の内壁のタンパク質と結合する
糖化反応を引き起こすことによって、
体中の毛細血管が順次破壊されていき、
指先や手足への血行不良や
毛細血管の塊である腎臓や目へのダメージによる
様々な症状にみまわれ、
体内の恒常性は一気に崩壊してしまいます。
そして、その後には、
体を支えてくれる別の恒常性の機能は
もはや存在しないので、
恒常性という秩序の支えを失った人体は、
病状の急激な悪化の一途をたどることになってしまうのです。
もはや、
この段階まで至ってしまっては、
人体の内部機構だけでは健康を維持すること難しくなるので、
薬剤の投与や人工透析といった外部の力に頼らなければ、
生命を維持することも難しいという状態に陥ってしまいます。
このように、
人体の恒常性の機能は、
5年、10年、20年と、
日々の生活の中では、永遠と思えるほどの長さで
ずっと維持され続けていくのですが、
その恒常性の崩壊自体は、
突然に、急激に訪れます。
秩序を変化させようとする外界からの力に
限界まで抵抗し続けた
人体の恒常性の機能は、
張りつめた糸が、限界を超えると
プツンと勢いよく切れてしまうように、
突如として崩壊し、
それによって
身体の状態も、予告なく、急激に悪化してしまうことになるのです。
恒常性を乗り越えて体質改善がなされるメカニズム
このことは逆に言うと、
人体の恒常性の機能によって
すぐに元に戻され、
まったくの無効化されてしまっているように見える
早寝早起きなどの良い生活リズム、
毎日の散歩などの適度な運動、
乳酸菌や酵母菌といった発酵食品の摂取
といった、日々の
ささやかな体質改善の試みも、
長期的な観点から見ると、
決して無駄というわけではなく、
雨だれ石を穿つ、と言うように、
良い食習慣・生活習慣をひたすら長く継続していくことで、
最終的には、
自分の人体の恒常性を乗り越えて、
体内環境、体内細菌叢のを改善していくことができる、
と考えられるということでもあります。
今日、健康のために頑張って
発酵食品をいっぱい食べたとしても、
そうしたヨーグルト、納豆、ぬか漬けなどに含まれる
乳酸菌や酵母菌たちは、
食べる先からどんどん
唾液中の酵素で分解され、胃酸の強酸性の塩酸によって溶かされ、
さらに強アルカリ性の胆汁でも逆方向から溶かされて
次々に死滅していきます。
そして、
何とか腸内までたどり着いた乳酸菌や酵母菌たちも、
人体の恒常性機能を担う
勇猛な免疫細胞たちに見つかって集中攻撃を受け、
すぐに駆逐され尽くしてしまうでしょう。
しかし、
そんな過酷な生存環境の中でも、
ごく稀に、
そうした酸や免疫細胞の激しい攻撃をかいくぐり、
その人特有の腸内環境にうまく適応して
しばらくの間、腸内に定着できるだけの力をもった
強力で有益な細菌が現れることはあると考えられます。
そうはいっても、
人体の恒常性の力は絶大なので、
そのままの状況で
2、3日も経てば、
元々その人の腸内に居座っていた
大勢の土着の腸内細菌たちに多勢に無勢の量で圧倒され、
結局、新しく定着しようとした
有益な細菌たちは、いつの間にか
雲散霧消してしまうという結果になってしまうでしょう。
しかし、その時に、
もしも、日々継続して、
自分の体にあった乳酸菌や酵母菌、
有益な細菌の含まれた発酵食品を
継続して黙々と摂取し続けることができていれば、
稀に現れる有益な細菌たちは、
1回限りの短期間の定着で過ぎ去ってしまうのではなく、
日々摂取される
同種の乳酸菌や酵母菌や発酵食品の
援軍を次々に得ることができるので、
少数の有益な細菌が、
腸内のわずかな領域でかろうじて定着しているうちに、
継続して追加される
乳酸菌や酵母菌、発酵食品の援軍たちがそこに加わり、
そのうちに、集まった同種の有益な細菌たちで、
コロニー(同種の生物の集まり、細菌集落)
を形成して、
徐々に勢力を拡大していき、
最終的には、
人体の恒常性の方が根負けして、
勢力の拡大した新たな有益な細菌叢を
新たな秩序、新たな恒常性の形として受け入れ、
ついに、
体内環境、体内細菌叢のバランスの改善が成し遂げられる
ことになると考えられるのです。
具体的な乳酸菌や酵母菌、発酵食品の摂取方法
では、具体的にどのような形で
発酵食品の摂取などの
体内細菌叢の改善の試みを実践していったらいいかというと、
シンプルに言ってしまえば、
自分の体に合った発酵食品をひたすら毎日、食べ続ける、
ということに尽きると思います。
ただ、結局、
どのような乳酸菌や酵母菌が自分の腸内の環境に適しているのか?
ということは、
実際に多くの種類の発酵食品を食べてみないと分からないところもあるので、
なるべく多くのバラエティーに富んだ種類の乳酸菌や酵母菌に接するために、
できれば
複数の種類の発酵食品を毎日食べ続ける方が、
より効果的ではないかと考えられます。
具体的な発酵食品の種類というと、
ヨーグルト、納豆、ぬか漬けに、
チーズやキムチなども挙げられると思いますが、
その中で、
今日は朝食にヨーグルト、夕食に納豆だったから、
明日は、ぬか漬けとチーズを食べよう、
というように、摂取する食品を日ごとに少しずつ変えて、
回転させていってもいいですし、
発酵食品というのは風味に独特のクセがあり、
好き嫌いや身体に合う合わないが大きく分かれるところもあるので、
自分は、チーズやヨーグルトといった乳製品はダメなので、
納豆とぬか漬けを毎日いっぱい食べて頑張る、
というふうにしても良いと思います。
いずれにせよ、
人体の恒常性自体を乗り越えて、
体内細菌叢の改善と、根本的な体質改善を目指す試みは
長期戦になるので、
体に合わない食品を
無理して摂取し続けることがないように、
日々の食後の体調の変化などにしっかり気を配り、
どんな発酵食品が自分の体に合っているのか、
自分の体に聞いてしっかりと吟味していくことが
大切だと思います。
また、近年では、
液状にした
植物由来の酵母・乳酸菌・酵素などを
経口摂取したり、直接、
皮膚に塗布したりする
健康法もあるようですが、、
自分の体に合うかどうかをしっかり試し、吟味したうえで、
そうしたサプリメントなども試してみるのもいいかもしれません。
・・・
糖尿病が、5年、10年とかけて
徐々に人体の恒常性の機能を蝕んで、発病へと至ってしまうのならば、
逆に、
自分の体にあった乳酸菌や酵母菌、
発酵食品を多く取り入れた健康的な食習慣を
長い期間、継続して実践し続けていくことで、
最終的には、
人体の恒常性の機能を乗り越えて、体質自体を改善することもできる、
と考えられます。
3年、5年、10年と、
良い食習慣、生活習慣をひたすら長く
継続していくことで、
ある日ふと、
以前と比べるとだいぶ
体長が良くなっているということに気づく、
そうした瞬間が訪れる
というイメージです。
いずれにせよ、
すでにある人体の恒常性を乗り越えて、
より良い恒常性へと作り変えていくという作業は、
長期戦になるので、
目に見えて良くなっていると分かる成果が
すぐに現れることは期待できません。
そして、
成果が見えないからといって、
そこで諦めて、
食習慣や生活習慣を改善していく作業を
やめてしまえば、
人体の恒常性の機能によって、
今までの努力によってもたらされた
わずかな変化は、
すべて元の状態へと押し戻され、
何もしなかったのと同じ状態へと引き去られ、
それまでの努力もすべて水泡に帰してしまいます。
なので、そうならないためには、
幼少期までに
体内細菌叢の種類やバランスが確立されていく仕組みや、
その維持と変化に大きく関わる
人体の恒常性の機能とその限界、
といった人体の総体的な構造やその仕組みについて、深く知り、
自分は、成果が出るまで長くはかかるかもしれないが、
人体にとって、
原理的に良いことをやっているはずなので、
この方法を
継続してやっていくことで、必ず、
長期的には良い方向へ向かっていくはずだ、
というように、
自分なりの人体の仕組み・構造への理解、
そして、それを説明する総体的な理論への
論理的・原理的な確信を拠り所にして、
自分の体に合った食習慣や生活習慣の改善法を一貫して、
長期的に継続していくことが必要だと思います。