ネメア大祭とは何か?古代ギリシア神話における起源となる二つの物語、ネメアの王子オペルテースの悲劇と鎮魂のための競技会
前回の記事で書いたように、古代ギリシアにおいて開かれていた大規模なスポーツの祭典としては、
古代のオリンピックにあたるオリンピア大祭のほかに、ネメア大祭とイストモス大祭とピューティア大祭と呼ばれる全部あわせて四つの競技大会の名が挙げられることになるのですが、
このうち、ギリシア南部にあたるペロポネソス半島の北東部に位置する古代都市ネメアにおいて開催されていたギリシア神話の主神ゼウスを祀る競技の祭典であったネメア大祭の起源となったとされる神話的な由来のある物語としては、
以下で述べるようなギリシア神話における二つの物語が挙げられることになります。
ネメアの王子オペルテースの悲劇とテーバイ攻めの七将による鎮魂のために開かれた競技会
呪われた運命の定めに操られて、自らの父であるライオス王を殺し、自らの母であるイオカステを妻とすることになり、のちに自分の罪に対して自らが下した罰によって盲となって、放浪の旅の末に死を迎えることになったオイディプス王の悲劇の続編となるギリシア神話の物語のなかでは、
もう一つの悲劇の物語として、
オイディプスの二人の息子たちがテーバイの王位をめぐって骨肉の争いを繰り広げていくテーバイ攻めの七将の戦いの物語と、オイディプスの娘であったアンティゴネの悲劇の物語が語られていくことになるのですが、
まずは、
そうしたオイディプス王の悲劇に続く場面にあたるテーバイ攻めの七将をめぐる物語のなかで、冒頭で述べたネメア大祭の起源となる一つ目の話が出てくることになります。
・・・
オイディプスが残した二人の息子のうちの兄にあたるポリュネイケスは、自らの弟であったエテオクレスの裏切りによってテーバイの都から追放されたのち、
その復讐を果たすために、隣国であったアルゴスの王アドラストスの助けを借りて、テーバイ攻めの七将と呼ばれる名将たちと共にテーバイの地へと帰還することになるのですが、
そうしたテーバイ攻めの旅の途上において、アドラストスが率いるテーバイ攻めの七将の一行は、ペロポネソス半島に位置するアルゴスと、ギリシア本土に位置するテーバイとを結ぶコリントス地峡に近いネメアの町を訪れることになります。
そして、この地で、
テーバイ攻めの七将の一行は、ネメアの町を治めるリュクルゴス王の息子オペルテースの乳母の役目をつとめていたヒュプシピュレーという名の女性と出会い、
長旅のせいで喉が渇いていた一行は、彼女に水飲み場となる泉までの案内を頼むことになるのですが、突然の来訪者に驚いたヒュプシピュレーは、
主君の大切な息子であったオペルテースを草原の上に残したまま、テーバイ攻めの七将の一行に泉の場所を教えに出向いていってしまうことになります。
そして、その時、
この地に住まう一匹の大蛇が、草原の上に一人でぽつりとたたずんでいる幼いオペルテースの姿を目にとめると、その小さい体を一口で丸飲みにして食い殺してしまうことになるのです。
そして、その後、
こうしたネメアの王子オペルテースの身に降りかかった残酷な悲劇を知ったテーバイ攻めの七将たちは、すぐにこの大蛇を見つけ出して切り殺してしまうことによって、幼い王子の仇を討つことになるのですが、
その際、
七将のうちの一人であり、予言者でもあったアムピアラーオスは、「この徴(しるし)は未来を語るものである」と言って、
悲劇のうちに命を落とすことになった幼い王子オペルテースのことを、「運命を開く者」という意味でアルケモロス(Archemoros)と呼ぶことになります。
そして、
こうした預言者アムピアラーオスの暗示的な言葉が物語るように、その後のテーバイ攻めの物語は、登場人物のほとんどが非業の死を迎えていく悲劇の物語へと向かっていくことになるのですが、
この時、テーバイ攻めの七将たちは、
自分たちの行軍による間接的な犠牲となったネメアの王子オペルテースの魂を盛大に弔うために賑やかな競技会を開くことになったと語り伝えられています。
そして、この時、
ネメアの大蛇によって殺されてしまった幼い王子オペルテースの魂に捧げるために彼らが行ったとされる戦車競走や徒競走、拳闘やレスリング、跳躍と円盤投げとやり投げと弓術といった軍事的な色彩の強い競技会が原型となることによって、
のちにネメアの大祭と呼ばれることになる古代ギリシアにおける大規模な競技大会が形づくられていくことになっていったと考えられることになるのです。
ネメアの獅子と英雄ヘラクレスの闘いとギリシア神話の主神ゼウスへと捧げられた競技会
そして、
こうしたネメア大祭の起源となったとされるギリシア神話における二つ目の物語としては、英雄ヘラクレスが出てくる物語が挙げられることになります。
・・・
ギリシア神話における半神半人の英雄であり、怪力を持つ豪傑としても有名なヘラクレスは、十二の功業として知られる怪物退治の偉業を成し遂げるために、ギリシア各地へと赴いて行くことになるのですが、
そうしたヘラクレスの十二の功業と呼ばれる十二の偉業のうちの最初の戦いは、ネメアの谷に住んでいた巨大な獅子つまり百獣の王であるライオンとの戦いからはじまっていくことになります。
そして、
ネメアの谷の暗い洞窟の中で、三日三晩にわたって死闘を繰り広げていった末に、あらゆる武器を弾き返す強靭な毛皮によって覆われた鋼のような肉体を持つこの獅子を自らが持つ怪力によって締め上げてくびり殺してしまったヘラクレスは、
その後、
自分が仕留めた獅子の肉をゼウスへの供物として祭壇に捧げて怪物退治の偉業を成し遂げたことの証(あかし)としたため、
その後、この地において、ゼウスを祀る競技の祭典にあたるネメアの大祭が行われていくことになっていったとも考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
こうした古代ギリシアにおける四大競技大会のうちの一つとして数え上げられるネメアの大祭においては、
そうした大蛇と獅子、そして、テーバイ攻めの七将と英雄ヘラクレスといった怪物と豪傑たちをめぐる二つの物語が神話的な起源となることによって、競技の祭典のあり方が形づくられていくことになっていったと考えられることになるのです。
・・・
次回記事:イストモス大祭のギリシア神話の起源とは?王妃イーノーと息子メリケルテースの母子の悲劇と海の神パライモンとポセイドン
前回記事:古代ギリシアの四大競技大会とは?四つの古代都市の地理的な関係とそれぞれの競技大会の開催間隔と順序
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