新約聖書のヨハネの黙示録と旧約聖書におけるダニエル書とイザヤ書とエゼキエル書という三つの預言書との関係とは?
新約聖書のヨハネの黙示録においては、七つの頭と十本の角と十の王冠を持つ黙示録の獣の姿に代表されるように、神話や悪夢を思わせるような異形の姿をした怪物たちが描かれていくことになりますが、
そうした黙示録における獣の姿の原型となるような様々なヴィジョンが現れていくことになるヨハネの黙示録における思想や着想の大本の源流にあると考えられる書物としては、
イザヤ書やエゼキエル書さらにはダニエル書といった旧約聖書における黙示文学や預言書の存在が挙げられることになると考えられることになります。
旧約聖書のダニエル書における海中から現れる十本の角を持つ獣の記述
まず、
こうしたヨハネの黙示録に代表されるようなキリスト教における黙示文学の源流にあるとされている代表的な書物としては、旧約聖書におけるダニエル書と呼ばれる預言書の存在が挙げられることになりますが、
こうしたダニエル書の記述においては、具体的には以下のような形で、ヨハネの黙示録における獣の存在にも通じるような四頭の獣についての幻(ヴィジョン)が語られていくことになります。
・・・
ある夜、わたしは幻を見た。見よ、天の四方から風が起こって、大海を波立たせた。すると、その海から四頭の大きな獣が現れた。それぞれ形が異なり、
第一のものは獅子のようであったが、鷲の翼が生えていた。見ていると、翼は引き抜かれ、地面から起き上がらされて人間のようにその足で立ち、人間の心が与えられた。
第二の獣は熊のようで、横ざまに寝て、三本の肋骨を口にくわえていた。これに向かって、「立て、多くの肉を食らえ」という声がした。
次に見えたのはまた別の獣で、豹のようであった。背には鳥の翼が四つあり、頭も四つあって、権力がこの獣に与えられた。
この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があった。
その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。
(旧約聖書「ダニエル書」7章 2節~8節)
・・・
このように、こうしたダニエル書の記述においては、
海中から現れる四頭の獣についての幻(ヴィジョン)が語られていて、特に、このうち最後に挙げられた第四の獣については、それは十本の角を持つ強大で恐ろしい怪物として描かれていると考えられることになるのですが、
こうしたダニエル書において描かれている第四の獣の姿は、ヨハネの黙示録において記されている世界の終末の時に海の中から現れるとされている七つの頭と十本の角と十の王冠を持つ黙示録の獣の姿と、非常によく似た姿をした怪物として描かれていると考えられることになるのです。
旧約聖書のイザヤ書とエゼキエル書における二種類の異形の姿をした天使についての記述
また、
こうしたヨハネの黙示録における獣の姿の原型となるような異形の姿をした超常的な存在についての記述は、イザヤ書やエゼキエル書などといった旧約聖書における代表的な預言書のなかにも見いだしていくことができると考えられ、
例えば、
旧約聖書のエゼキエル書においては、そうしたヨハネの黙示録における獣に力と権威を与えたサタンが堕天する前の姿にあたるケルビムあるいは智天使と呼ばれる天使たちの姿は、以下で示したように、
四つの顔と四枚の翼と四本の手を持ち、人間の顔と獅子の顔と牛の顔と鷲の顔とを持った異形の姿をした存在として描かれていくことになります。
・・・
わたしが見ていると、北の方から激しい風が大いなる雲を巻き起こし、火を発し、周囲に光を放ちながら吹いてくるではないか。その中、つまりその火の中には、琥珀金の輝きのようなものがあった。
またその中には、四つの生き物の姿があった。その有様はこうであった。彼らは人間のようなものであった。 それぞれが四つの顔を持ち、四つの翼を持っていた。
脚はまっすぐで、足の裏は子牛の足の裏に似ており、磨いた青銅が輝くように光を放っていた。 また、翼の下には四つの方向に人間の手があった。四つとも、それぞれの顔と翼を持っていた。…
その顔は人間の顔のようであり、四つとも右に獅子の顔、左に牛の顔、そして四つとも後ろには鷲の顔を持っていた。…
これがケバル川の河畔で、わたしがイスラエルの神のもとにいるのを見たあの生き物である。わたしは、それがケルビムであることを知った。
そのそれぞれに四つの顔と四つの翼があり、翼の下には人間の手の形をしたものがあった。 これらの顔の形は、まさしく、わたしがケバル川の河畔で見た顔であった。それらは同じような有様をしており、おのおのまっすぐに進んで行った。
(旧約聖書「エゼキエル書」1章4節~10節、10章18節~22節)
・・・
そして、
こうしたエゼキエル書と呼ばれる預言書が成立する150年ほど前に書かれたと考えられている旧約聖書を代表する預言書にあたるイザヤ書においても、
例えば、前述したケルビム(智天使)と呼ばれる天使たちのさらに上位に位置する最上位の階級にある天使として位置づけられているセラフィム(熾天使)と呼ばれる天使たちの姿についての以下のような記述を見いだしていくことができます。
・・・
上の方にはセラフィムがいて、それぞれ六つの翼を持ち、二つをもって顔を覆い、二つをもって足を覆い、二つをもって飛び交っていた。
彼らは互いに呼び交わし、唱えた。「聖なる、聖なる、聖なる万軍の主。主の栄光は、地をすべて覆う。」
この呼び交わす声によって、神殿の入り口の敷居は揺れ動き、神殿は煙に満たされた。
(旧約聖書「イザヤ書」6章2節~4節)
・・・
このように、旧約聖書のイザヤ書におけるセラフィムについての記述においても、こうしたセラフィムあるいは熾天使と呼ばれる天使たちの姿は、
六枚の翼を持っていて、そのうちの二枚の翼で自らの顔を覆い隠し、別の二枚の翼で自らの足を覆い隠し、残りの二枚の翼だけで天空を飛び交うという異形の姿をした存在として描かれていると考えられることになるのです。
・・・
そして、以上のように、
新約聖書のヨハネの黙示録において登場する七つの頭と十本の角と十の王冠を持つとされている黙示録の獣の異形の姿は、
旧約聖書のダニエル書に記されている海中から現れる十本の角を持つ獣の姿や、エゼキエル書に記されている四つの顔と四枚の翼と四本の手を持つケルビムの姿、イザヤ書に記されている六枚の翼を持つセラフィムの姿などに、その大本の原型となる異形の姿をした超常的存在の姿を見いだしていくことができると考えられことになります。
そして、そういった意味では、
こうしたヨハネの黙示録に代表されるようなキリスト教における黙示文学の源流は、
すでに、こうしたイザヤ書やエゼキエル書そしてダニエル書などといった旧約聖書の預言書のうちに、そうした新約聖書のヨハネの黙示録などへと通じる黙示文学の萌芽を見いだしていくことができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:旧約聖書と新約聖書におけるサタンや悪魔の捉え方の違いとは?実体的な存在としてサタンから比喩や象徴としてのサタンの概念へ、サタン(悪魔)とは何か?⑧
前回記事:ヨハネの黙示録で世界の終末の時に現れる黙示録の獣が七つの頭と十本の角と十の王冠を持つ異形の姿で描かれている理由とは?
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