赤痢とアメーバ赤痢の違いとは?細菌と原虫という病原体の違いと引き起こされる症状の具体的な特徴の違い
以前に書いた棒状の形状をした細菌の種族にあたる桿菌に分類される代表的な細菌の種類について考察した一連の記事のなかでは、
そうした桿菌に分類される代表的な細菌の種類のうちの一つとして、赤痢菌と呼ばれる腸管の出血を伴うような重症の細菌性大腸炎の症状を引き起こす細菌の種類についても考察してきましたが、
こうした赤痢菌によって引き起こされる赤痢と呼ばれる細菌感染症と非常によく似通った症状が引き起こされる病気としてはアメーバ赤痢と呼ばれる感染症の種類の名も挙げられることになります。
それでは、
こうした赤痢菌によって引き起こされる一般的な赤痢とアメーバ赤痢と呼ばれる感染症には、病原体の種類の違いや引き起こされる症状の違いといった点などにおいて具体的にどのような特徴の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
赤痢菌を病原体とする一般的な赤痢の具体的な特徴とは?
まず、冒頭でも述べたように、
一般的な意味における赤痢(Dysentery、ディセンテリ)とは、
赤痢菌と呼ばれる幅0.4~0.7マイクロメートル、長さ2~4マイクロメートルほどの大きさをした棒状の形状をしたグラム陰性の嫌気性桿菌によって引き起こされる東南アジアやインドといった発展途上国などを中心に流行が見られる細菌感染症であり、
主に、赤痢菌を保有する患者の排泄物などに直接触れることや、ハエやゴキブリなどを介して汚染された飲食物などを通じて経口感染することによって感染するケースがあると考えられることになります。
そして、
こうした赤痢と呼ばれる細菌感染症においては、大腸へと到達した赤痢菌が大腸粘膜を形成している腸管上皮細胞に侵入して増殖していく際に、志賀毒素(シガトキシン)と呼ばれる毒素を生産していくことによって、大腸粘膜に潰瘍性の炎症が引き起こされていくことになり、
それによって、
下腹部を中心とする腹痛や下痢、発熱や渋り腹といった急性胃腸炎の症状が引き起こされることになるほか、
重症化するケースにおいては、「赤痢」というその名の通り、大腸粘膜における潰瘍からの腸管出血によって、血液や粘液の混じった赤い下痢という特徴的な症状が引き起こされることになると考えられることになるのです。
赤痢アメーバを病原体とするアメーバ赤痢の具体的な特徴とは?
そして、それに対して、
アメーバ赤痢(Amoebic dysentery、アミービック・ディセンテリ)とは、
赤痢アメーバと呼ばれる直径15~30マイクロメートルほどの大きさをした円形または楕円形に近い形状をした原虫と呼ばれる単細胞性の寄生虫によって引き起こされる中南米やアフリカ、南アジアなどといった熱帯や亜熱帯の地域を中心に流行が見られる寄生虫感染症であり、
前述した赤痢菌における感染経路と同様に、赤痢アメーバを保有する患者の排泄物などに直接触れることや、ハエやゴキブリなどを介して汚染された飲食物などを通じて経口感染することによって感染することがあると考えられることになります。
ちなみに、
こうした赤痢アメーバと呼ばれる病原体は、アメーバと呼ばれているとはいっても、まったく形の定まらない不定形の形態をしているというほどではなく、上述したように、通常の場合は円形や楕円形などといった比較的まとまった形状をしていると考えられることになるのですが、細胞体が移動していく際には、
仮足や偽足と呼ばれる細胞の一部分が突き出た突起を使ったアメーバ運動と呼ばれる細胞体の変形移動運動によって移動していくことになるため、原生生物に区分される根足虫類の一種であるアメーバ類に分類される寄生虫の一種として分類されることになると考えられることになります。
そして、
こうしたアメーバ赤痢と呼ばれる寄生虫感染症においては、大腸へと到達した赤痢アメーバが大腸粘膜に潰瘍性の炎症が引き起こしていくことによって、
一般的な赤痢の場合と同様に、下腹部を中心とする腹痛や発熱、さらには、粘血性の下痢などといった急性胃腸炎の症状が引き起こされることになるのですが、
こうした赤痢アメーバと呼ばれる寄生虫は、重症化する場合には、肝臓や肺や脳さらには心臓や皮膚などといった大腸などの消化器官以外の臓器にも感染を拡大していくケースもあり、
そのなかでも比較的症例の多い肝臓において病変が生じるケースでは、そうした赤痢アメーバの腸管外への感染によって、肝腫大や黄疸、さらには、肝機能の低下によって意識障害などの重篤な症状が引き起こされることもあるアメーバ性肝膿瘍と呼ばれる病態が引き起こされるケースもあると考えられることになるのです。
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以上のように、
一般的な意味における赤痢とアメーバ赤痢とよばれる感染症の具体的な特徴の違いとしては、
前者の一般的な意味における赤痢は、赤痢菌と呼ばれる棒状の形状をした細菌によって引き起こされる細菌感染症であり、
下腹部を中心とする腹痛や発熱、粘血性の下痢といった消化器官を中心とする症状が引き起こされることになるのに対して、
後者のアメーバ赤痢は、赤痢アメーバと呼ばれる円形または楕円形に近い形状をした原虫によって引き起こされる寄生虫感染症であり、
上述した赤痢菌の感染の場合と同様に腹痛や発熱、粘血性の下痢といった消化器官を中心とする症状が引き起こされるケースのほかに、肝臓などの消化器官以外の臓器へも病変が広がっていくことによって、アメーバ性肝膿瘍などの病態が引き起こされるケースもあるといった点に、
両者の具体的な特徴の違いがあると考えられることになるのです。
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