アニサキスの具体的な特徴とクジラやイルカといった海生哺乳類との関係、間違った宿主に寄生したアニサキスの悲劇

「食中毒の原因となる寄生虫の代表的な種類」記事でも書いたように、日本国内で発生する食中毒の原因となる寄生虫の種類のなかで、最も感染者数が多いものとしては、アニサキスと呼ばれる寄生虫の種類が挙げられることになるのですが、

こうしたアニサキスと呼ばれる寄生虫は、人間の消化器官へと寄生するまでの間に、クジラやイルカといった海生哺乳類を含めた様々な海洋生物の間を渡り歩くことによってその生命をつないでいくことになるといった

海洋全体へと広がる壮大なライフサイクルを営む寄生虫の種族としても位置づけられることになると考えられることになります。

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イルカやクジラなどの海生哺乳類を終宿主とする海洋全体へと広がるアニサキスの壮大なライフサイクル

そもそも、

こうしたアニサキス(Anisakisという言葉は、具体的には、回虫目アニサキス科アニサキス属に属する線虫の総称として用いられている言葉であり、

ここで述べられている線虫(せんちゅう)とは、糸状やひも状などの細長い形状をした基本的に無色透明の姿をした動物のことを意味する言葉であるのに対して、

回虫(かいちゅう)とは、そうした線虫に分類される動物の種族のなかでも人間などの哺乳類の小腸に寄生する寄生虫のことを意味する言葉として定義されることになります。

そして、

アニサキス成虫は、基本的には、イルカクジラなどの海生哺乳類胃や腎臓に寄生していて、これらの生物の体内で有性生殖を行い、

アニサキスの雌虫が産んだ卵が宿主であるイルカやクジラの排泄物とともに海中へと放出されることによって増殖していくことになると考えられることになります。

そして、その後、

海中へと放出された卵から孵化して生まれたアニサキスの幼虫は、オキアミなどの小型の甲殻類に取り込まれたのち、

さらに、

そうしたアニサキスの幼虫が寄生している小型甲殻類がイカなどの海生軟体動物や、アジカツオサバサケタラニシンといった魚類などに捕食されることによって、

こうした中間宿主であるイカ魚類の体内において、体長23センチメートルになるまで育っていくことになると考えられることになります。

そして、さらにその後、

こうしたアニサキスの幼虫が寄生しているイカ魚類などの海洋生物が再びイルカやクジラなどによって捕食されることによって、その体内において新たなアニサキスの子孫が生み出されていくことになるというように、

こうしたイルカやクジラなどの海生哺乳類がアニサキスの生活環を結ぶ終結宿主すなわち終宿主(しゅうしゅくしゅ)となることによって、

海洋全体へと広がるアニサキスの壮大な生活環すなわちライフサイクルが営まれていくことになると考えられることになるのです。

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人間という間違った宿主に寄生したアニサキスの悲劇

しかし、

こうしたイルカやクジラなどの海生哺乳類から、オキアミなどの小型の甲殻類、そして、イカ魚類といった中間宿主を経て、再び終宿主である海生哺乳類のもとへと戻っていくというアニサキスの生活環の途中で、

中間宿主となっていたイカ魚類が漁船などに釣り上げられてしまい、刺身や寿司といった生食の形で人間に食べられてしまうことになると、

そうした生魚を加熱または冷凍が不十分な状態で食べた場合などに、イカや魚の体の中でまだ死滅せずに生き残っていたアニサキスの幼虫が人間の胃などの消化器官に寄生しようとすることによって、

激しい腹痛おう吐といった症状を特徴とする胃アニサキス症などの急性胃腸炎が引き起こされてしまうケースがあると考えられることになります。

そして、

こうしたアニサキスを原因とする胃腸炎や食中毒は、内視鏡手術などで胃の中のアニサキスの幼虫を摘出することで速やかに症状が消失することになるのですが、

そもそも、

アニサキスにとっては、人間はイルカやクジラのような終宿主でもなければ、イカや魚類のような中間宿主ですらないので

本来の寄生対象ではない人間の体内においては、アニサキスの幼虫は、成虫へと成長して子孫を残すこともできなければ、長く生存することもできず

人間の体内に取り残されたアニサキスの幼虫は、34日から長くても1週間ほどで死滅していくことになると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

イカ魚類といったアニサキスの中間宿主を、加熱や冷凍が不十分な状態のまま食べることによって引き起こされるアニサキスを原因とする胃腸炎や食中毒においては、

寄生虫であるアニサキスの側から見ると、

本来ならば、イルカクジラといった海生哺乳類に食べてもらうことによって成虫へと成長して子孫を残せるはずであったアニサキスの幼虫が、

そうした海中における壮大な生態系のサイクルの途中で、まったく関係のない陸生哺乳類である人間に食べられてしまい、

自分が適応することができない人間の胃の中でもがき苦しんだ末に死んでいってしまうことになるとも捉えることができると考えられることになります。

つまり、そういった意味では、

こうしたアニサキスを原因とする胃腸炎や食中毒の発生は、その被害を受ける側である人間にとってだけではなく、

そうした胃腸炎や食中毒の原因となる寄生生物であるアニサキスの側にとっても、はなはだ迷惑で不都合な、お互いにとって何の得もない悲劇とも言うべき出来事であるとも捉えることができると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:毒素型と感染型の細菌性食中毒の違いとは?両者に分類される代表的な細菌の種類とそれぞれの食中毒の具体的な特徴

前回記事:クリプトコッカス症とクリプトスポリジウム症の違いとは?真菌と原虫という病原体の種類の違いと具体的な症状の違い

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