薬用石けんには抗生物質が入っている場合があるのか?トリクロサンやトリクロカルバンといった化学物質と合成抗菌薬の類似性
薬用石けんや薬用シャンプーといった抗菌グッズや除菌グッズに分類される製品を長く使用し続けることの危険性を指摘する際に、そうした製品には抗生物質が入っているので体に良くないといった表現が用いられることがありますが、
当然のことながら、実際に市販されているような薬用石けんや薬用シャンプーといった製品の内には、ペニシリンやストレプトマイシンといった薬剤に代表されるような医薬品としての抗生物質そのものが含有されているケースはほぼ存在しないと考えられることになります。
そこで、今回の記事では、
それでは、実際には、具体的にどのような事態のことを指して、こうした「薬用石けんには抗生物質が入っている」といった表現が用いられていると考えられるのか?ということについて詳しく考察していきたいと思います。
薬用石けんの内に含まれているトリクロサンやトリクロカルバンといった化学物質と医薬品としての合成抗菌薬との類似性
まず、前回の記事で詳しく考察したように、
薬用石けんや薬用シャンプーといった一見同じような抗菌グッズや除菌グッズに分類される製品であっても、
2016年にアメリカの米国食品医薬品局(FDA)によって人体に対する安全性上の懸念から薬用石けんなどの日用品に添加することが禁止された化学物質にあたる
トリクロサンやトリクロカルバンに代表されるような医薬品としての抗菌薬に極めて近い分子構造と薬理作用をもった化学物質の種類が含まれている場合には、
そうした製品に長く接触し続けることによって、医薬品としての抗菌薬に対する耐性を備えた耐性菌が出現するリスクがわずかながら高まってしまう危険性があると考えられることになります。
したがって、
こうした一部の薬用石けんや薬用シャンプーに含まれているトリクロサンやトリクロカルバンといった化学物質を実質的には医薬品として抗菌薬に相当する化学物質として見なした場合、
そうした薬用石けんや薬用シャンプーといった製品のうちに、少なくとも医薬品としての抗菌薬が含まれているに等しいと表現することは必ずしも誤った表現ではないと考えられることになります。
そして、
こうした医薬品として抗菌薬の区分の内には、抗生物質と合成抗菌薬と呼ばれる薬剤の種類が分類されることになるのですが、以前に「抗生物質と抗菌薬の違い」の記事などで詳しく考察したように、
こうした抗生物質と合成抗菌薬と呼ばれる薬剤の種類の区分においては、正確には、
前者の抗生物質は、細菌などの微生物による感染症に用いられる医薬品のうち、カビや放線菌といった微生物の働きによってつくられる薬剤の種類として定義されるのに対して、
後者の合成抗菌薬は、そうした細菌などの微生物による感染症に用いられる医薬品のうち、完全に人工的な化学合成の過程のみを積み重ねていくことによってつくられた薬剤の種類のことを意味する言葉として定義されることになります。
そして、
前述したトリクロサンやトリクロカルバンといった薬用石けんや薬用シャンプーにも含まれている可能性のある具体的な薬剤の種類は、基本的にはすべて、そうした人工的な化学合成によってつくり出された化学物質として位置づけられることになるので、
そういった意味では、
薬用石けんの内に医薬品としての抗菌薬が含まれているに等しいといった表現を用いる場合、その表現が実際に意味することは、
そうした薬用石けんといった製品の内に抗生物質に類する薬剤が含まれているということを意味するわけではなく、合成抗菌薬に類する薬剤が含まれているということを意味していると解釈する方が、厳密な意味においてはより正しい解釈であると考えられることになるのです。
「抗生物質」という言葉の厳密な定義と日常的な表現の範囲の広がり
それでは、結局、
やはり、「薬用石けんには抗生物質が入っている」といった表現自体は、抗生物質と合成抗菌薬という二つの薬剤の種類のあり方についての誤解に基づく基本的には誤った表現であると考えられることになるのか?ということについてですが、
それについては、またまたそうすぐに言い切ることができるわけではなく、以前に「抗菌薬のことを抗生物質と呼んでも間違いではない理由」の記事で詳しく考察したように、
前述した抗生物質の代表格として位置づけられるペニシリンといった薬剤についても、現代においては、青カビの培養液から直接取り出すことができる天然ペニシリンのほかにも様々なペニシリン種類が開発されていて、
その中には、アモキシシリンと呼ばれるペニシリン化合物に代表されるような青カビといった微生物の働きを一切必要とせずに、一から人為的な化学的な合成を積み重ねていくことによってつくり出された合成ペニシリンと呼ばれる薬剤の種類も含まれているように、
実際の医療現場においても、こうしたペニシリンと呼ばれる抗生物質の種類の内から合成ペニシリンに分類される薬剤のみを除外して、それらの薬剤のことを抗生物質とは呼ばずに合成抗菌薬と呼ぶようにするといった言葉の厳密な使い分けのようなことは実際にはほとんど行われていないと考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした合成ペニシリンに分類される薬剤のことを指してそれを抗生物質と呼ぶことも必ずしも間違いではないのと同様に、
前述したトリクロサンやトリクロカルバンといった化学物質についても、それが厳密な意味においては合成抗菌薬に類する化学物質として位置づけられる化学物質であったとしても、そうした化学物質のことを指してそれを抗生物質に類する化学物質として言い換えてしまうことも、日常的な表現としてはそれほど不適切な表現ではないとも考えられることになるのです。
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以上のように、
薬用石けんや薬用シャンプーなどの内にトリクロサンやトリクロカルバンといった医薬品としての抗菌薬と近い薬理作用をもった化学物質が含まれているということの危険性を指摘する表現としては、
そうした薬用石けんの内には合成抗菌薬に類する薬剤が含まれているといった表現を用いることが最も正確な表現のあり方であると考えられることになるのですが、
その一方で、
そうした薬用石けんの内に含まれている合成抗菌薬に類する薬剤のことを上述した合成ペニシリンに類するような広義における抗生物質に類する薬剤として捉えた場合、
そうした薬用石けんの内には抗生物質が入っていると表現することも、日常的な表現としてはそれほど間違った表現ではないとも考えられることになるのです。
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次回記事:抗菌グッズや除菌グッズの使用が危険とされる四つの具体的な理由とは?健康上のリスクとベネフィットの適切なバランス
前回記事:抗菌グッズや除菌グッズに含まれる化学物質によって抗生物質が効きにくい耐性菌が生まれる理由とは?
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