抗生物質と抗菌薬の違いとは?両者に分類される薬剤の代表的な種類と具体的な定義
病気の原因となる細菌などの微生物の増殖や発育を阻害することによって細菌性の感染症の治療などに役立つ薬剤の種類のことを表す名称としては、一般的には、抗生物質や抗生剤といった言葉が用いられることになりますが、
抗生物質と同じように細菌に対する増殖の阻害や殺菌作用のある薬剤のことを表す名称としては、そのほかにも抗菌薬や抗菌剤といった言葉も用いられることになります。
それでは、
こうした抗生物質と抗菌薬と呼ばれる二つの薬剤の種類は、互いにどのような点において異なる特徴を持っていて、
それぞれの薬剤の区分のなかには、具体的にどのような薬剤の種類が分類されていくことになると考えられることになるのでしょうか?
抗生物質の具体的な定義と抗生物質に分類される代表的な薬剤の種類
まず、
こうした抗生物質と抗菌薬という二つの薬剤の種類の分類のあり方のうちの前者である抗生物質(antibiotics、アンチバイオティクス)とは、一言でいうと、
カビなどの微生物によってつくられる他の微生物の増殖や発育を阻害する物質のことを意味する言葉として定義されることになります。
世界で最初に発見された抗生物質であるペニシリンが青カビの培養液から精製されたように、抗生物質というと一般的には、真菌の一種であるカビから精製されるというイメージが強いと考えられることになりますが、
こうした抗生物質のなかには、細菌の一種である放線菌から精製される抗生物質の種類も数多く含まれていて、
特に、現在発見されている抗生物質のおよそ7割は、こうした放線菌と呼ばれる生物の種族の一種であるストレプトミセス(Streptomyces)と呼ばれる微生物の種族から精製されていると考えられることになります。
そして、
こうした抗生物質に分類される代表的な薬剤の種類としては、
真菌の一種であるカビに由来する抗生物質であるペニシリンに由来する抗生物質の系譜としては、
メチシリン、アンピシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アゾシリン、メズロシリン、ピペラシリン、アモキシシリンといった薬剤の種類が挙げられるのに対して、
細菌の一種である放線菌に由来する抗生物質の種類としては、
ストレプトマイシンやテトラサイクリン、エリスロマイシンやカナマイシン、さらには、多剤耐性菌に対する効果によってかつては最強の抗生物質としても挙げられていたバンコマイシンといった数多くの抗生物質の名が挙げられることになるのです。
抗菌薬の具体的な定義と合成抗菌薬に分類される代表的な薬剤の種類
そして、それに対して、
抗生物質と抗菌薬という二つの薬剤の種類の分類のあり方のうちの後者である抗菌薬(Antibacterial drug、アンチバクテリアル・ドラッグ)とは、一言でいうと、
病原性をもつ細菌などの微生物を殺したり、増殖を抑止したりする作用を持った薬剤全般のことを意味する言葉であり、
一般的には、特に、細菌による感染症の治療に使用される医薬品のことを指して、こうした抗菌薬という言葉が用いられていると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
細菌などの微生物による感染症に用いられる医薬品である抗菌薬のうち、カビや放線菌といった微生物の働きによってつくられる薬剤が抗生物質と呼ばれるのに対して、
前者の抗菌薬のうちには、そうした抗生物質の定義には当てはまらない完全に人工的な化学合成によってつくられた薬剤も含まれることになるといった点に、
こうした抗生物質と抗菌薬と呼ばれる二つの薬剤の種類の分類のあり方の両者における具体的な意味の違いを見いだすことができると考えられることになるのです。
そして、
こうした抗菌薬に含まれる薬剤のうち、厳密な意味における抗生物質の定義には含まれない合成抗菌薬に分類される代表的な薬剤の種類としては、
現代において最も一般的な合成抗菌薬の種類にあたるニューキノロン系の抗菌薬に分類されるオフロキサシン(タリビッド)、トスフロキサシン(オゼックス)、レボフロキサシン(クラビット)といった薬剤の種類が挙げられるほか、
日本においても1960年代ごろまでは抗生物質の代用となる細菌感染症に対する薬剤として幅広く使用されていたサルファ薬(サルファ剤)、
さらには、抗菌石鹸などの家庭用品にも含有されているトリクロサンやトリクロカルバンといった殺菌効果を持つ物質もこうした合成抗菌剤の種類として挙げることができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:抗菌薬のことを抗生物質と呼んでも間違いではない理由とは?合成ペニシリンは抗生物質と合成抗菌薬のどちらに分類されるのか?
前回記事:放線菌とは何か?カビやキノコのような真菌類と細菌類の中間に位置する生物の種族である放線菌の具体的な特徴と代表的な種類
「生物学」のカテゴリーへ
「医学」のカテゴリーへ