パンスペルミア説とは何か?ギリシア語における語源とアナクサゴラスの哲学との関係
以前の記事でも書いたように、人類のような知的生命体の存在をこの宇宙において唯一無二であるような極めて稀な存在として捉えるレアアース仮説や、その源にある生命の誕生という現象自体を広大な宇宙においても極めて稀な特別な現象として捉えるような考え方からは、
通常の場合、そうした知的生命体の存在や生命の誕生といったものを地球だけで起こった特別な出来事として捉えたうえで、地球外における知的生命体すなわち宇宙人の存在や地球外生命体の存在を否定するような議論が展開されていくことが多いと考えられのですが、
そうした生命の誕生といった現象を極めて稀な特別な出来事として捉えながら、その一方で地球外生命体の存在も肯定する考え方としては、パンスペルミア説と呼ばれる学説が挙げられることになります。
パンスペルミア説の定義とギリシア語における言葉の由来
パンスペルミア説(the theory of panspermia)とは、一言でいうと、
人類を含む地球の生命の起源を遠い宇宙の別の惑星系から隕石などを介して飛来した微生物などの地球外の生命体のうちに求めるという生命の起源に関する仮説のことを意味する言葉であり、
こうしたパンスペルミア説と呼ばれる仮説理論においては、生命の誕生の希少性と、そうした希少な存在としての生命が宇宙全体に広く存在しているということを両立させるという両者の考え方をハイブリットさせたような学説が展開されていると考えられることになります。
そして、
こうしたパンスペルミア(panspermia)という言葉の由来は、
古代ギリシア語において「すべて、あらゆる」といった意味を表す接頭辞であるpan(パン)と、「種子」のことを意味するspermata(スペルマタ)という言葉が結びつけられることによってできた造語であり、
それは言葉自体の直接的な意味においては、「万物の種子」あるいは「宇宙全体に遍(あまね)く広がる種子」といった意味を表す言葉として捉えることができると考えられることになるのです。
アナクサゴラスの哲学とパンスペルミア説との関係
ちなみに、こうしたspermata(スペルマタ)という言葉が生命の起源さらには宇宙の起源にあたるような宇宙論的な意味において用いられることになった起源は思いのほか古く、
それは、紀元前5世紀の古代ギリシアの哲学者であったアナクサゴラスの哲学にまでさかのぼることができるような概念であると考えられることになります。
以前に「アナクサゴラスの哲学の概要」の記事などにおいて書いてきたように、アナクサゴラスの哲学においては、こうしたスペルマタと呼ばれる概念は、
生命そして宇宙全体をも構成している無数の素材の混合と分離の源にある微粒子的な存在のことを意味する概念として定義されることになるのですが、
こうしたアナクサゴラスにおける種子(スペルマタ)の概念は、デモクリトスにおける原子(アトマ)のようなそれ以上分割不可能な究極の構成要素という概念とは異なり、
それ以上さらに細かい部分へと分割していっても効力を失ってしまうことがないような種子の種子、さらに、その種子の種子の種子へとどこまでも限りなく分割していくことが可能な可変性をもった存在としても位置づけられていくことになります。
そして、
こうした古代ギリシアのアナクサゴラスの哲学における種子(スペルマタ)の概念と同様に、現代の宇宙論におけるパンスペルミア説においても、
必ずしも生命体の全体が植物の種子のような完全な形で保全されたまま宇宙空間を越えて別の惑星へとたどり着くといったことはできなかったとしても、
そうした生命体の組織の一部や、それを構成しているタンパク質やDNAの一部といった生命体の断片が漂着することによって、
そうしたミクロの生命体の断片から、広大な宇宙の隅々にまで生命が伝播していくといったことは十分にあり得るといった考え方が提示されていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:パンスペルミア説における生命の伝播の三通りのパターンとは?微生物の芽胞による偶発的伝播と知的生命体による意図的伝播
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