フロイトの弟子ライヒのリビドーの性的側面が強調された性格分類とは?衝動的性格・神経症的性格・性器期的性格の具体的特徴
前回書いたように、フロイトの心理学においては、人間の性格の分類のあり方は、幼少期におけるリビドーの三つの発達段階のあり方に対応していく形で、
口唇期的性格・肛門期的性格・エディプス期的性格という三つの性格類型へと分類されていくことになるのですが、
こうしたリビドーと呼ばれる人間のすべての精神活動の原動力となる性的なエネルギーの発現のあり方に基づいて行われる人間の性格の分類のあり方には、こうしたフロイトによる三つの性格類型の分類のほかにも、
より徹底的な形でこうしたリビドーの性的側面を強調していくことによって組み立てられていった新たな分類のあり方として、フロイトの弟子であるライヒによって提示された性格分類のあり方を挙げることができると考えられることになります。
ライヒによる性的エネルギーとしてのリビドーの重視とオルゴン理論
ヴィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich、1897年~1957年)は、精神分析学の祖であるジークムント・フロイト(Sigmund Freud、1856年~1939年)と同じオーストリア出身のユダヤ人の精神科医であり、
彼は師であるフロイトの精神分析学の理論を受け継いだうえで、特にそのなかでも、人間の心の根底に存在する原初的な性的エネルギーであるリビドーについての理論を積極的に取り入れていくことによって自らの心理学理論を打ち立てていくことになるのですが、
ライヒは、こうしたフロイトの心理学におけるリビドーの概念をさらに発展させていくことを通じて、急進的で過激な性の解放の思想へと傾倒していってしまうことによって、自らの師であるフロイトからも疎まれて、彼のもとを去って行ってしまうことになります。
その後、ライヒは、
こうした人間の心における根源的な性的エネルギーとしてのリビドーと呼ばれる概念をさらに拡張させていき、それが人間の心だけではなく、社会全体や自然界、さらには、宇宙全体をも統御している普遍的なエネルギーであると捉えていくことによって、
そうした宇宙全体に遍在する性エネルギーおよび生命エネルギーとして捉え直されたリビドーの存在を新たにオルゴン(Orgone)と名づけ、オルゴン理論と呼ばれる自らの学説を唱えていくことになるのですが、
こうしたライヒが唱えた一連の学説は世間からは、妄想的思想の傾向が強い疑似科学の一種として捉えられたため、彼の思想は、学界からも社会からも排斥されていくことになります。
そしてその後、彼は、
アメリカへと移住したのち、自分の著作が出版禁止の処分を受けたことに反発して抵抗した際に、その行為が法廷侮辱罪に当たるとして2年の禁固刑を言い渡されることになり、
最終的に、収監された先であるコネチカット刑務所において心臓発作を起こし、この地で失意の内に死を迎えることになってしまうのですが、
いずれにせよ、ライヒは、
そうした人間の心における根源的な性的エネルギーとしてのリビドーの概念を重視していくなかで、人間の性格分類のあり方についても、そうしたリビドーの発現のあり方に応じて、
以下で述べるような衝動的性格と神経症的性格と性器期的性格と呼ばれる三つの性格分類へと区分していくことができると主張していくことになるのです。
衝動的性格と神経症的性格と性器期的性格の具体的な特徴とは?
まず、
前述したライヒによる三つの性格分類のうちの最初に挙げた衝動的性格(impulsive character)とは、性的エネルギーとしてのリビドーの発達段階が幼児期において停止してしまうことによってリビドーの制御が不十分となることによって形成される性格類型であるとされていて、
こうした衝動的性格に分類される人物においては、幼児期におけるリビドーの発達に伴って形成されていくことになる自我や超自我やエスと呼ばれる心の各領域の発達も不十分となるため、
自らの心の内で道徳的な命令や規範を司る心の部分である超自我が孤立して他の心の領域と十分な連携をとることができなくなり、思考や行動にあまり一貫性が見られないバラバラな人格が形成されやすくなるほか、
自分の欲望や性衝動のままに無抑制な行動をとる傾向や、自己破壊的な行動をとる傾向、反社会的な行動傾向などが見られる性格として位置づけられることになります。
そして、
その次に挙げた神経症的性格(neurotic character)とは、衝動的性格の場合とは反対に、リビドーが過剰な抑圧を受けることによって形成される性格類型であるとされていて、
神経症的性格に分類される人物の場合には、リビドーの五つ発達段階のうちの中間に位置するエディプス期(男根期)における性愛感情の葛藤が克服されていないため、性的な行動において幼児的性質を残す場合が多く、
超自我の働きによって性衝動が過度な抑圧を受けることによって、厳格な道徳観が形成されていくことになる一方で、心の内に満たされることのない性衝動を抱え込むことによって徐々に心身において歪みをきたしていくことになり、空虚感や無力感、劣等感などを感じやすい性格として位置づけられることになります。
それに対して、
最後に挙げた性器期的性格(genital character)とは、リビドーの発達段階の最初にあたる口唇期から最後にあたる性器期までのすべての段階におけるリビドーの充足が十全な形で満たされることによってもたらされる理想的な人格のあり方であるとされていて、
性器期的性格に分類される人物においては、自らの心の内において、そうしたリビドーと呼ばれる性的なエネルギーの全面的な調和と統合が得られているため、
リビドーのエネルギーが暴走することによって破壊的な行動をとることもなければ、その反対に、リビドーが過度な抑圧を受けることによって心身に支障をきたしてしまうこともなく、
超自我によって自分自身が持つ性衝動が肯定されたうえで、性器性欲を中心として得られるリビドーの充足が建設的で有意義な形へと昇華されていくことによって、自然体でバランスのとれた人格が形成されていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:リビドーの質と量の違いに基づくフロイトの心理学における六つの性格類型のまとめ、リビドー過剰型と抑制型への細分化
前回記事:フロイトの心理学における三つの性格類型とは?口唇期的性格・肛門期的性格・エディプス期的性格の具体的な特徴
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