フロイトがユングが提唱した集合的無意識の存在を認めなかった理由とは?

前回書いたように、ユングは彼が深い影響を受けた同時代の精神医学者であったフロイトと決別したのち、分析心理学と呼ばれる独自の心理学理論を打ち立てていくことになり、

理論的な面においては、ユングの分析心理学フロイトの精神分析学の間には、無意識の構造リビドー概念の捉え方に大きな違いを見いだすことができると考えられることになります。

ユングは、人間の心の中の個人的無意識の領域よりもさらに深い階層に、フロイトの精神分析学の段階においてはいまだ発見されていなかった集合的無意識と呼ばれる新たな深層心理の領域を見いだしていくことによって自らの心理学理論を確立していくことになるのですが、

今回は少し視点を変えて、フロイトの側の立場に立ってみた場合、

それではなぜフロイトは、ユングが提唱した集合的無意識の存在を認めてそれを自らの心理学理論の内へと組み入れていくことはせずに、ユングとは別の道を歩んでいくことになったのか?という問題について考えてみたいと思います。

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無神論者フロイトによる形而上学的な概念としての集合的無意識の否定

プロテスタントの牧師の家に生まれ、学生時代には、ゲーテの『ファウスト』ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』といった文学作品や思想書などに深く傾倒していたこともあるユングは、文学や哲学、さらには、宗教学や神話学といった多様な学問分野についての造詣が深く、

彼は、自らの心理学理論である分析心理学を打ち立てていくにあたって、人間の心の内部には、全人類に共有されているような普遍的な無意識の領域である集合的無意識が存在し、

そうした集合的無意識の領域の内にある元型と呼ばれる個人の経験の範囲を超越した人類全体に共通する普遍的な心象によって、個人における夢や空想や、さらには、古今東西の神話や宗教においても共通して見いだされるような典型的なイメージが形づくられていくことになるとする学説を唱えていくことになります。

それに対して、

フロイトは、大学時代には、生理学のほかに、物理学についても専門的に学ぶなど、自然科学系の学問に対する造詣が深く、思想的には、フォイエルバッハなどの唯物論の学説の影響を受けることによって、生涯にわたって無神論者としての立場を貫いていくことになるのですが、

こうした無神論者であり唯物論的な世界観を持つフロイトにとっては、

ユングが主張するような神話や宗教といった非科学的な分野へとも通じていってしまう集合的無意識元型といった不確かな概念を自らの科学的な心理学理論の内に取り入れていくことは、到底受け入れることができないことであったと考えられることになります。

つまり、

フロイトの方としては、そうしたユングが提唱する集合的無意識といった概念は、その存在を科学的に実証することができない形而上学的な不確かな概念に過ぎず、

科学者としての心理学者は、あくまで、催眠療法や心理分析などを通じてその存在をある程度検証していくことが可能な個人的無意識の領域の範囲内において理論を打ち立てていくことが必要であると考えたため、

そうした個人の心の領域の範囲を超えた集合的無意識の存在を認めることができなかったと考えられることになるのです。

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フロイトの心理学においてリビドーが原始的な性的なエネルギーとして位置づけられる理由

そして、

フロイトが人間の生の原動力となる心的なエネルギーとして定義したリビドーと呼ばれる心理学上の概念についても、

それは、もともとは、物理学におけるエネルギー保存則に類するような量的な概念として捉えられていた概念であると考えられるのですが、

フロイトの心理学においては、ユングが主張するような人類全体に共有されている集合的無意識の存在が認められない以上、そうしたリビドーが生み出される源となる心の領域は、個人の心の内の個人的無意識の内部のみに限られると考えられることになります。

そして、

そうした個人の心の領域において最も基礎的で根源的な欲求として位置づけられるのは、人間という種族自体の存続、すなわち、種の保存を基礎づけている性的なエネルギーということになるので、

フロイトの心理学においては、人間の生の原動力となるエネルギーとしてのリビドーも、一義的には、そうした原始的な性的なエネルギーとして位置づけられることになり、

そこにユングの心理学において見られるような神話や宗教の普遍的な構造へと結びついていくような多彩な性質を持った根源的な心的エネルギーのあり方が見いだされていくことはなかったと考えられることになるのです。

・・・

次回記事:フロイトの心理学において食欲や睡眠欲ではなく性的な欲求としてのリビドーがあらゆる心的活動の原動力とされる理由とは?

前回記事:フロイトの精神分析学とユングの分析心理学の違いとは?無意識の構造とリビドーの捉え方の相違点、深層心理学とは何か?⑦

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