フロイトの心理学において食欲や睡眠欲ではなく性的な欲求としてのリビドーがあらゆる心的活動の原動力とされる理由とは?

以前に「意識と前意識と無意識の三層構造における抑圧と検閲とリビドーの関係」の記事などで詳しく書いたように、フロイトの心理学においては、

人間の心における様々な精神活動の原動力となる心的エネルギーは、リビドーと呼ばれる性的なエネルギーの存在の内に求められていくことになるのですが、

 それでは、こうしたフロイトの心理学においては、食欲睡眠欲金銭欲権力欲といった数多く存在する人間の欲求の種類のなかから、

なぜ、性的な欲求のあり方のみが、そうした様々な精神活動の原動力となる中心的な心のエネルギーとして位置づけられることになったと考えられるのでしょうか?

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性的な欲求に対する抑圧や葛藤によって生じる多様で複雑な心の働き

動物や人間における基礎的な欲求のあり方としては、性欲のほかにも、一般的には、食欲睡眠欲といった欲求の種類が挙げられることになりますが、

このうち、性的な欲求以外の食欲睡眠欲といった他の二つの基礎的な欲求のあり方については、

それらの欲求は、お腹が空いている状態から空腹が満たされれば満足し、眠くなってきたときに十分な睡眠をとれば満足するといように、基本的には単純な仕組みで欲求の充足がもたらされていくのに対して、

性的な欲求については、その欲求の充足の過程において、様々な段階や指向性、あるいは、そうした欲求の充足を強く妨げる禁忌(タブー)葛藤などが生じることによって、より複雑な心の働きが生じていくことになると考えられることになります。

そうした人間の心における性的な欲求の根本的な部分における禁忌や葛藤代表的な例としては、

エディプス・コンプレックスエレクトラ・コンプレックスといった幼少期にある子供が異性の親に対して無意識の内に抱く性愛感情などが挙げられることになりますが、

フロイトの心理学においては、性的な欲求が持つエネルギーとしてのリビドーが、そうした様々な葛藤や抑圧を受けることによって増幅されながら様々な形へと変容していくことによって、

愛情や憎しみ、さらには、投射合理化補償昇華といった自我の防衛機制の働きに代表されるようなより複雑な感情や心理状態などが形づくられていくことになると考えられることになるのです。

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あらゆる心的活動の原動力となるリビドーが食欲や睡眠欲ではなく性的な欲求として位置づけられている理由

もちろん、食欲睡眠欲といった欲求のあり方についても、必ずしも前述したような単純な仕組みだけで欲求の充足が滞りなく進んでいくというわけではなく、

拒食症過食症、あるいは、睡眠障害のように、食欲や睡眠欲に関わる心身の領域において複雑な問題が生じてしまうケースもあるとは考えられるのですが、

こうしたケースにおいては、異性から、あるいは、同性からも疎まれることがないようなより美しい姿になりたい、あるいは、周りの人々から自分がどう思われているのか気になって仕方がないといった願望や不安感がそうした症状の背景に存在していると考えられることになります。

つまり、

こうした拒食症や睡眠障害などのケースにおいても、それらの症状は食欲睡眠欲といった基礎的な欲求のあり方自体に根本的な問題があるといよりは、

そうした症状の背景にある様々な社会的ストレスや心理的ストレスの方にその直接的な原因が求められることになり、

さらには、そうした様々な心理的ストレスを引き起こす源となる抑圧や不安感を生み出しているリビドーの働きのあり方にその大本の原因を求めることができると考えられることになるのです。

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以上のように、

人間の心における多様で複雑な心的活動の原動力となっている欲求のエネルギーとしては、食欲睡眠欲といったその他の単純で基礎的な欲求のあり方ではなく、

抑圧や葛藤を通じてより複雑な心の働きを生み出していく性的な欲求が持つエネルギーとしてのリビドーこそがそうした根源的な心的エネルギーとして位置づけられるのにふさわしい欲求のあり方をしていると考えられることになります。

そして、フロイトの心理学においては、

こうした人間の心におけるあらゆる心的活動の原動力となる性的なエネルギーとして定義されたリビドーと呼ばれる欲求や衝動のあり方が抑圧や葛藤あるいは自我の防衛機制の働きなどを通じて様々な形に変容していくことによって、

金銭欲権力欲支配欲知識欲自己顕示欲といった人間に特有のより複雑な欲求や欲望のあり方が形づくられていくことになると考えられることになるのです。

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次回記事:エディプスコンプレックスという言葉に「オイディプス」ではなく「エディプス」という発音表記が用いられている理由とは?

前回記事:フロイトがユングが提唱した集合的無意識の存在を認めなかった理由とは?

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