アシモフの心理歴史学と社会心理学および集合心理学との共通点とは？心理歴史学とは何か？⑥

前回書いたように、アイザック・アシモフの代表的なSF小説シリーズである「ファウンデーションシリーズ」において登場する「心理歴史学」と呼ばれる学問のあり方は、現実の世界における実際の学問との関係においては、

歴史学のなかの一部門として位置づけられている「歴史心理学」や「心性史」と呼ばれる学問とのある程度の関連性を見いだすことができると考えられることになるのですが、

小説の中では、こうした「心理歴史学」と呼ばれる学問は、社会集団としての人間の心理を分析してその動向を予測・修正する学問として描かれていることを考えると、

それは、むしろ、心理学のなかの一部門として位置づけられている「社会心理学」といった学問分野と極めて近しい関係にある学問分野であるとも捉えることができると考えられることになります。

社会心理学（social psychology）とは、一般的に、

社会行動や社会生活といった様々な社会的環境のなかで、個人や集団としての人間がどのような条件のもとでどのような行動を示すかということについて探究する心理学の一部門となる学問のことを意味する言葉であり、

こうした社会心理学と呼ばれる学問分野は、その探究の方向性の違いに応じて、

集団内における様々な社会的要因の個人の心への影響を探究する社会的学習や社会化の過程についての研究や、

社会集団の内部における個人同士の関係や、集団と個人の間の相互関係を探究する集団の形成と分化や社会規範などについての研究、

そして、社会集団自体が直接個人の行動に及ぼす影響や、そうした社会集団全体の動向について探究する集団心理学や集合心理学、

さらには、そうした社会集団全体において生じる社会現象や社会問題についての研究を行う部門などへとさらに細分化していくことになります。

そして、

こうした社会心理学における諸部門のうち、社会集団が個人の行動に及ぼす影響とそうした社会集団全体の動向について探究する学問分野である集団心理学（group psychology）、

そのなかでも、特に、

人間社会における大規模な集団の行動を全体的に取り扱い、その包括的な心理活動の仕組みを明らかにしようとする学問分野として位置づけられる集合心理学（collective psychology）と呼ばれる学問分野における人間の心理の探究のあり方が、

アシモフの小説に登場する心理歴史学と呼ばれる新たな学問分野のあり方に、最も近い探究の方向性を持った学問のあり方をしていると考えられることになるのです。

それでは、

こうした社会心理学、そのなかでも集合心理学といった学問分野における探究の方向性は、アシモフの心理歴史学とまったく同一の方向性を持った探究のあり方をしていのか？というと、必ずしもそういうわけでもなく、

集合心理学を含む社会心理学においては、通常の場合、

人間の社会における一般的な社会構造、あるいは、そのなかでも特に、現代社会における社会構造のあり方に注目して理論が組み立てられていくことになるのに対して、

アシモフの心理歴史学、あるいは、前回取り上げた歴史心理学や心性史と呼ばれる学問分野においては、

人類の歴史の流れの内における人間の心理構造の変遷という時間的な視点に重点が置かれて理論が組み立てられていくことになるという点に、

両者の間における探究の方向性のあり方の具体的な違いを見いだすことができると考えられることになります。

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つまり、そういった意味では、

こうしたアシモフの「ファウンデーションシリーズ」における心理歴史学と呼ばれる学問のあり方は、現実の世界における実際の学問の分類のあり方との関係においては、

歴史学の一部門である歴史心理学と、心理学の一部門である社会心理学の両者の性質をあわせ持った新たな学問体系のあり方として位置づけられることになると考えられることになるのです。

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