真核生物と原核生物の違いとは?②細胞内の生命活動のシステムの違いと家内制手工業と工場制手工業の関係との類比
前回書いたように、真核生物と原核生物の間には、核と細胞質を明確に区分する核膜の有無や、ミトコンドリアなどの細胞小器官の有無といった様々な点において細胞構造の違いが見られることになり、
こうした細胞の内部構造の違いから、一般的に、原核生物である原核細胞は比較的単純で小規模な構造をしているのに対して、真核生物を構成している真核細胞はより複雑で大規模な構造をしていると考えられることになるのですが、
両者の間には、こうした前回取り上げたような細胞の外見や構造上の違いだけではなく、細胞内の機能やシステムといった面においても互いに大きな違いがみられることになると考えられることになります。
真核細胞と原核細胞における生命活動のシステムの違い
前回書いたように、真核細胞と原核細胞の具体的な特徴の違いの一つとしては、
真核細胞の内部は、ミトコンドリアや、ゴルジ体、リソソームといったそれぞれの細胞小器官へと特化していく形で細分化されているのに対して、
原核細胞の内部には、そうした細胞小器官の存在自体が見られないといった点が挙げられることになるのですが、
こうした両者の細胞における内部構造の違いは、細胞全体の機能やシステムといった面にも及んでいると考えられることになります。
具体的には、
真核細胞の細胞内では、それぞれの生体膜によって互いに区分けされた細胞小器官ごとに細胞としての機能の分業化が進んでいて、
細胞内でのエネルギー生産はミトコンドリアが担当し、取り入れた物質の細胞内消化はリソソームが行い、物質の合成や分泌はゴルジ体や分泌小胞が行うというように、それぞれの細胞小器官ごとに役割の分担が行われているのですが、
それに対して、
原核細胞の細胞内では、そうした真核細胞におけるような機能の分業化や役割の特化などは見られず、
エネルギー生産や細胞内消化、細胞内での物質の合成や、細胞外への物質の分泌といった細胞内における各作業は、一つの細胞全体で行われていくことになると考えられることになるのです。
真核細胞における細胞内の作業の分業化と、工業の形態における工場制手工業や機械制大工業との類似性
そして、
こうした原核生物と真核生物における細胞の内部構造と細胞内における作業システムのあり方の違いをより日常的な事例にたとえて示すとするならば、
それは、例えば、
産業革命前後の人間社会における工業の形態の発展のあり方においてみられる家内制手工業と工場制手工業の違いのようなものとして捉えることができると考えられることになります。
家内制手工業(家内工業)とは、個人の家の一部などを作業場として、一人の職人あるいはその家族などを含めたごく少数の人数ですべての作業を行う小規模な工業の形態を意味するのに対して、
工場制手工業(マニファクチュア)とは、専用の仕事場となる工場に、多数の職人や労働者たちが集められ、効率化を図るために作業の工程が細分化されたうえで、それぞれの作業を何人もの労働者が分担して行う作業の分業化が行われるより大規模な工業の形態のことを意味していて、
こうした工場制手工業がさらに発展して、さらなる作業の効率化を図るためにより大型の生産設備や機械などが導入され、より徹底した作業の分業化と工場の規模の大規模化が進められた形態が、現代における機械制大工業と呼ばれる工業の形態であると考えられることになるのですが、
そういう意味では、
原核細胞において、細胞小器官への分化が進められていない状態で行われている細胞全体でのエネルギー生産や物質の代謝といった生命活動の進められ方は、
生地の仕入れから、裁断、縫製、そして、包装や出荷までのすべての作業を一人の職人が自分の家で行っているという、言わば、家内制手工業のような状態にあるのに対して、
真核細胞において行われている細胞内の各部分の細胞小器官への分化に基づく生命活動の進められ方は、
1000人以上の工員を雇えるような大規模なアパレルメーカー(衣服製造業者)が、裁断・縫製・包装といったそれぞれの行程に特化した大規模な生産設備や機械を導入したうえで、
工場内の工員がそれぞれの作業を行うブースに分かれて互いに分担して作業を行う分業と流れ作業を行うことによって、効率的に商品を大量生産しているという、言わば、人間社会における工業の形態のあり方で言うところの工場制手工業や機械制大工業のような状態にあると考えられることになるのです。
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以上のように、
原核細胞と真核細胞における具体的な特徴の違いは、核膜や細胞小器官の有無といった細胞の外見や構造上の違いだけではなく、
原核細胞においては、細胞内における各作業は、一つの細胞全体で比較的小規模な形で行われていくという
人間社会の工業形態でいうと家内制手工業のような形で生命活動が営まれているのに対して、
真核細胞においては、細胞内の各部分の細胞小器官への分化に基づいて、細胞内における作業の分業化が進められていて、それによって作業全体の大規模化と効率化が図られるという
人間社会の工業形態でいうと工場制手工業や機械制大工業のような形で生命活動が営まれているというように、
原核細胞と真核細胞の両者の間には、細胞内で行われているエネルギー生産や物質の代謝といった生命活動のシステムの違いといった点においても大きな相違点があると考えられることになります。
そして、このように、
同じ細胞であるとは言っても、原核生物の細胞と真核生物の細胞には、前回取り上げた細胞全体の構造や規模の面においても、今回取り上げた細胞内部の生命活動のシステムの面においても互いに大きな違いが存在すると考えられることになるのです。
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次回記事:細胞小器官とは何か?代表的な五つの細胞小器官の種類と具体的な機能と構造のあり方のまとめ
前回記事:真核生物と原核生物の違いとは?①細胞の内部構造と大きさの違いと単細胞生物と多細胞生物との関係
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