三段論法における四つの格の分類とは?大概念・小概念・媒概念の定義と配置に基づく形式的分類、三段論法の格と式の違い①
前回の記事で書いたように、論理学上の定義における三段論法とは、大前提・小前提・結論という三つの命題と一つの媒概念によって構成される間接推論の形式のことを意味する概念として捉えることができると考えられることになります。
そして、こうした三段論法と呼ばれる推論の形式は、各命題における媒概念の位置や、それぞれの命題自体の形式の違いに応じて、全部で256通りの格式へと分類することができると考えられることになるのですが、
今回と次回の二回にわたって、そうした三段論法における格と式という概念がもつ具体的な意味について詳しく考えてみきたいと思います。
三段論法における大概念・小概念・媒概念の定義
前回書いたように、三段論法においては、大前提と小前提という二つの異なる前提が、媒概念(中項辞)と呼ばれる一つの共通概念によって結びつけられることによって推論が成り立っていると考えられることになるのですが、
それに対して、結論において主語となる概念は小概念(小項辞)、そして、結論において述語となる概念は大概念(大項辞)と呼ばれることになります。
例えば、前回取り上げた
大前提:すべての生物は死すべきものである。(すべての生物の命には限りがある)
小前提:すべての人間は生物である。
結論:すべての人間は死すべきものである。(すべての人間の命には限りがある)
という三段論法の推論の例においては、
大前提と小前提に共通して含まれている「生物」という言葉が媒概念となるのに対して、
結論の主語であり、小前提にも含まれている「人間」という言葉が小概念として、
結論の述語であり、大前提にも含まれている「死すべきもの」という言葉が大概念としてそれぞれ位置づけられることになります。
つまり、こうした三段論法という推論の形式においては、
推論を構成する大前提・小前提・結論という三つの命題に含まれている大概念・小概念・媒概念という三つの概念は、それぞれ、
大前提と結論に共通して含まれ、結論の述語となっている概念が大概念、
小前提と結論に共通して含まれ、結論の主語となっている概念が小概念、
大前提と小前提に共通して含まれ、結論には含まれない概念が媒概念
として定義することができると考えられることになるのです。
三段論法における四つの格の分類とは?
そして、こうした三段論法を構成する三つの命題に含まれる三つの概念の表記をより簡略化して示すために、
結論の主語(subject、サブジェクト)となる小概念をS、
結論の述語(predicate、プレディケート)となる大概念をP、
大前提と小前提を結ぶ媒概念(middle term、ミドル・ターム)をMと置くと、
例えば、
上記の例に挙げた推論は、結論の主語の部分にあたる「(すべての)人間」の部分をS、結論の述語の部分にあたる「死すべきもの(すべての)」をP、そして、媒概念にあたる「(すべての)生物」をMと置き換えることによって、
大前提:MはPである。
小前提:SはMである。
結論:SはPである。
と表記されることになります。
そして、さらに、こうした推論形式のあり方をより記号的な形で表すと、
大前提:M-P
小前提:S-M
結論:S-P
と表記されることになり、
これが三段論法の第一格にあたる推論の形式として位置づけられることになります。
そして、こうした命題中のP(大概念)・S(小概念)・M(媒概念)という三つの概念の配置のあり方は、結論におけるS-Pという概念の配置に対して、
大前提においては、M-PとP-Mという二通りの概念の配置のあり方が考えられ、
それと同様に、
小前提においても、S-MとM-Sという二通りの概念の配置のあり方が考えられるので、
そうした大前提と小前提における概念の配置のあり方の組み合わせに応じて、下記のような2×2の合わせて四通りの三段論法の格の分類がなされることになるのです。
第一格:大前提M-P、小前提S-M、結論S-P
第二格:大前提P-M、小前提S-M、結論S-P
第三格:大前提M-P、小前提M-S、結論S-P
第四格:大前提P-M、小前提M-S、結論S-P
すでに、上記に挙げた推論の例は、第一格の三段論法の形式をもった推論にあたるということは書きましたが、他にも別な格における三段論法の推論の例を挙げるとすると、
例えば、
大前提:ガブリエルは天使である。
小前提:すべての天使は不死なるものである。
結論:ある不死なるものはガブリエルである。
という三段論法の推論の場合、結論の主語である「不死なるもの」をS、結論の述語である「ガブリエル」をP、そして、媒概念である「天使」をMと置くと、この推論は、
大前提:P-M
小前提:M-S
結論:S-P
という形式をもった推論であることが明らかになるので、
この推論は、上記の四つの格のうちの第四格の三段論法の形式をもった推論であると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
三段論法を構成する大前提・小前提・結論という三つの命題の内に含まれる大概念・小概念・媒概念という三つの概念は、
大概念とは、大前提と結論に共通して含まれ、結論の述語となる概念、
小概念とは、小前提と結論に共通して含まれ、結論の主語となる概念、
媒概念とは、大前提と小前提に共通して含まれ、結論には含まれない概念
として定義することができると考えられることになります。
そして、三段論法の形式のあり方は、
こうした大概念(P)・小概念(S)・媒概念(M)という命題の内に含まれている三つの概念の配置の違いに応じて、
第一格から第四格までの四つの格へと分類することができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:A, I, E, Oに基づく三段論法の64通りの式の区分とは?三段論法における格と式の違い②
前回記事:三段論法とは何か?大前提・小前提・結論という三つの命題と一つの媒概念によって構成される間接推論の形式
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