言語学における比喩と論理学における類推との関係とは?日常的な比喩表現や文学表現における類推のあり方
前回書いたように、類推(analogy、アナロジー)という言葉は、もともと古代ギリシア語において「比例」や「比率」といった意味を表す数学上の用語として用いられていたアナロギア(analogia)に由来する言葉であり、
それは、論理学においては、物事の間の比例関係や類似性に基づく推論のあり方のことを意味する概念であると考えられることになります。
これに対して、こうした物事の間の類似関係に基づいて行われる言語表現のあり方としては、
言語学においては、比喩(metaphor、メタファー)という概念が挙げられることなりますが、
こうした言語学における比喩(メタファー)と、論理学における類推(アナロジー)という両者の概念の間には、具体的にどのような関係があると考えられることになるのでしょうか?
日常的な比喩表現における類推のあり方
冒頭で述べたように、論理学における類推(アナロジー)とは、個々の物事の間に成立する比例関係や類似性に基づいて一方の概念がもう一方の概念に非常に似通っていることを示す推論のあり方を意味すると考えられることになりますが、
日常的な会話表現から、古今東西様々な分野の文学作品、宗教的な説話などにおいて多く用いられている比喩表現においては、こうした類推と呼ばれる推論のあり方が色濃く反映されていると考えられることになります。
例えば、
「鉄のように堅い意志」と言えば、この比喩表現においては、
目的を成し遂げようとする人間の心の働きにおける揺るぎのない精神的な強固さが、鉱物としての鉄の物理的な硬さに類似するものとして捉えられていると考えられることになります。
文学的表現や宗教的説話における類推のあり方
より古典的な文学表現を例に挙げるとするならば、
例えば、
キリスト教における最後の審判の場面が描かれている『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」においては、裁きの座にある神の姿のことを指して、
「雪のように白い髪」「燃え盛る炎のような目」「大水のように轟く声」(『ヨハネの黙示録』1章14~15節)といった比喩表現が用いられていますが、
ここでは、崇高なる神の威厳ある姿が、「雪」と「炎」と「大水」という三つの大いなる自然の力との類似関係において表現されていると考えられることになります。
また、同じ『新約聖書』のもう一つのヨハネの書である「ヨハネによる福音書」においては、その中に出てくる有名な記述の一つとして、
「わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。」(『ヨハネによる福音書』15章5節)
という表現が出てきますが、
ここでは、神の子であるとされるイエスと、人間との間の魂の根源的なつながりが、ぶどうの木における木と枝の密接で不可分なつながりとの類似関係において表現されていると考えられることになります。
そして、
これらの日常的な会話表現から文学的な表現、さらには宗教的な説話といった多岐にわたる分野における比喩表現に共通する特徴としては、上記のどの表現においても、
「鉄」と「意志」、「雪」と「髪」、「炎」と「目」、「大水」と「声」、さらには、「木と枝」と「神と人」といった、
具体的なイメージを指し示す個別的な概念同士の間で、それぞれの概念の間の類似する性質に基づいた言語表現がなされているという点が挙げられると考えられることになります。
つまり、上記のような一般的な比喩表現においては、通常の場合、
比喩の対象となる喩えられるもの側も、比喩の手段として用いられている喩えるものの側も、その双方について、
あまり普遍性や抽象性の著しく高い概念が用いられることはなく、その両方において、基本的には、個別的で具体的な概念が用いられていると考えられることになるのです。
言語学における比喩と論理学における類推の関係とは?
以上のように、
日常的な会話表現や文学表現などにおける一般的な比喩表現の具体的な特徴としては、
あまり抽象性の度合いの高くない個別的な概念同士の間で、それぞれの概念の間の類似する性質に基づいた言語表現がなされているという点が挙げられると考えられることになります。
つまり、そういう意味においては、
言語学における比喩という言語表現のあり方は、論理学における類推と呼ばれる推論のあり方との関係においては、
個別的な概念同士の間で成立する類似性に基づいて展開される具体的なイメージを伴った類推のあり方として捉えることができると考えられることになるのです。
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