なぜ相対性理論において光の速さは不変でなければならないのか?②天動説から地動説への転換と相対性理論との関係
前回書いたように、相対性理論において前提となっている光の速さの不変性とは、もともとは、概念の分析や論理的推論を通じて論証されたものではなく、
それは、アインシュタインの相対性理論の提出に先駆けて行われていたマイケルソン・モーリーの実験などにおける実験結果を通して得られた実証的な事実として真と認められた事柄であると考えられることになります。
それでは、相対性理論において、こうした光の速さの不変性が、単なる観測的事実としてだけでなく、あらゆる物理学理論の前提となる絶対的原理へと高められることになった理由は、どのような点に求めることができると考えられることになるのでしょうか?
時間と空間ではなく光の速さの方を基準とする新たな物理学の理論体系
そもそも、光の速さの不変性を説明する理論としては、アインシュタインの特殊相対性理論の発表に先駆けて、
ローレンツ収縮(フィッツジェラルド・ローレンツ収縮)などに代表される様々な理論が提出されていて、
これらの理論においては、ニュートン力学に基づいて、従来通り、空間と時間の方を基準としたうえで、
絶対的な基準である空間の内で物体のみが伸び縮みしていると考えることによって、光の速さの不変性という観測的事実の説明が試みられていました。
しかし、
これらの理論においては、絶対空間の内でいかなる原理によって物体だけが伸び縮みすることになるのか?という
こうした物理現象が生じることになる具体的な原理は示すことができないままに終わってしまうことになります。
それに対して、
アインシュタインの相対性理論においては、空間と時間の方ではなく、光の速さ自体を基準とすることによって、
光の速さの不変性に基づいて、物体だけではなく、それが位置する空間と時間自体が伸び縮みするという新たな考え方が提示されることになります。
そして、さらに、その後の実験によって、光速に近い速度で運動する素粒子において粒子が崩壊してしまうまでの寿命が延びるといった現象なども観測されていくことによって、
光速に近い速度で運動する物体においては、物体の長さだけではなく、時間の遅れまでもが生じていることを示唆する実験結果が得られることになるのですが、
こうした物理現象は、空間と時間をまったく別々の独立した存在として扱う従来のニュートン力学における絶対空間と絶対時間の概念に基づく解釈では、到底説明することができない現象であり、
それは、アインシュタインの相対性理論が主張するように、
時間や空間ではなく、光の速さの不変性の方を絶対的な基準として、それに基づいて、時間と空間の方が相対的に伸び縮みすると捉えるという
新たな物理学の理論体系の内においてのみ整合的に説明することが可能な現象であると考えられることになるのです。
天動説から地動説への転換と相対性理論との関係
16世紀の科学界においては、それまでの天文学および宇宙観の常識とされていた天動説がコペルニクスによる地動説の提唱によってくつがえされ、
その後、地動説を支持したガリレオ・ガリレイがカトリック教会から異端者として幽閉されるといった事件を経ることによって、地動説の理論が科学界全体へと受け入れられることになっていきますが、
この時、コペルニクスは、天体観測を通じて得られた観測的事実のすべてを整合的に説明することは、地球を絶対的な基準としてその周りを太陽を含むあらゆる天体が回っているとする天動説では不可能であり、
そうした観測的事実は、地球から観測される天体の内の一つである太陽の方を基準として、その周りを地球が他の惑星と共に回っているとする地動説によってのみ整合的に説明することが可能であることを明らかにすることによって、こうした地動説の理論を提唱していくことになります。
そして、こうしたコペルニクスによる地動説の提唱と同様に、
19世紀の科学界においては、光の速さの方を新たな基準とすることによって、それまで物理学における常識とされていたニュートン力学における時間と空間の絶対性がくつがえされていき、
時間と空間が、物体の観測者に対する運動速度に比例する形で伸び縮みする相対的な存在であることを明らかにすることによって、アインシュタインの相対性理論が提唱されることになります。
つまり、そうした意味においては、
ニュートン力学における絶対時間と絶対空間から、アインシュタインの相対性理論における光の速さの不変性に基づく相対的な時空間の概念への転換は、
天文学における天動説から地動説への転換にもなぞらえることができるような物理学における理論体系の根本的な発想の転換であったと考えられることになるのです。
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さらに言えば、
コペルニクスが、天体観測によって得られた観測的事実をうまく説明することが従来の天動説という枠組みの内では不可能であったことから、
そうした天文学における実証的事実を合理的に説明するために、言わば消去法によって地動説という新たな理論を提唱したと考えることができるように、
アインシュタインの相対性理論の提唱においても、もしも仮に、
従来のニュートン力学における絶対時間と絶対空間という枠組みの内で、光の速さの不変性や光速に近い速度で飛ぶ素粒子の寿命の延長といった新たな実験によって確認された実証的事実をうまく説明することができるとするならば、
別に光の速度の不変性自体を絶対的な前提とする新たな理論を構築する必要もなかったと考えられることになるのですが、
実際には、時間と空間の絶対性を前提としていては、そうした現実に生じている物理現象を合理的に説明することが不可能であったことから、光の速さの不変性の方を新たな原理とする相対性理論という新たな理論の提唱がなされたと考えられることになります。
つまり、
19世紀の物理学界においては、マイケルソン・モーリーの実験といった新たな実験によって光の速さの不変性が実証的事実として認められることになり、
そうした新たに発見された実証的事実を合理的に説明することがニュートン力学における絶対時間と絶対空間の枠組みに基づく従来の物理学理論においては不可能であったことから、
言わば消去法によって、光の速度がの不変性の方を絶対的な基準として採用する光速度不変の原理を前提とするアインシュタインの相対性理論という新たな物理学の理論体系が組み上げられることになったというのが、
相対性理論において光の速さの不変性があらゆる物理学理論の前提となる新たな原理とされた具体的な経緯であり、それがすなわち、相対性理論において光の速さが不変でなければならない理由であると考えられることになるのです。
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次回記事:
前回記事:なぜ相対性理論において光の速さは不変でなければならないのか?①実証的な事実としての光速度不変性
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