1:1伝導型の心房粗動が心房細動よりも危険性が高い理由とは?1:1伝導型心房粗動における心室細動への移行の危険性

前回書いたように、

心房細動と心房粗動の最大の違いは、心房部分で生じる電気的興奮の回数の違いにあり、心房粗動は心房細動よりも頻脈の回数が少ない頻脈性不整脈の形態であるとみなすことができます。

そして、

そうした心房粗動の形態は、心房で生じた電気的刺激が房室結節を通過して心室へと伝達される頻度に応じて、

心房の電気的興奮が4回に1回の割合で心室へ伝わる心房粗動である41伝導型心房粗動から、3回に1回の割合で心室へ伝わる31伝導型心房粗動、2回に1回の割合で心室へ伝わる21伝導型心房粗動、そして、1回に1回の割合で心室へ伝わる11伝導型心房粗動という四つのタイプに分類されることになるのですが、

このうち11伝導型の心房粗動と呼ばれる心房粗動のタイプが、より問題のある不整脈へと移行しやすい危険性の高い不整脈のタイプであると考えられることになります。

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1:1伝導型心房粗動と心房細動における心房部分の電気的興奮の様態の違い

前回書いたように、心房細動の場合、心房における電気的興奮の回数は一分間に350回から600回程度とあまりに多くなりすぎるので、

すべての電気信号が房室結節を通過することは物理的に不可能となり、心房で発生した電気的興奮は、電気信号の数が適当に間引かれた形で心室部分に伝わることになります。

つまり、

通常の心房細動においては、心房部分の電気的興奮が適当に間引かれる形でランダムに心室部分に伝達されることによって、脈拍の間隔が不規則に乱れることがある反面、

房室結節において心房で発生した電気信号のブロックが生じる際に、心室部分は全身に血液を送り出すのに十分な心筋の収縮を行うための時間的猶予を得られることになるので、

心房細動においては、心室の心筋が高度の頻脈によって収縮不全となり、けいれん状態へと陥る心室細動へとつながるリスクは基本的には回避されると考えられることになるのです。

それに対して、

心房粗動の場合も、41伝導型心房粗動21伝導型心房粗動などの通常の心房粗動においては、

心房で発生した電気信号は、房室結節を通過する際に規則的にブロックされ、心房における頻脈の回数が、心室部分においては4分の12分の1の回数に減らされる形で伝達されることになるので、

心室部分における電気的興奮の回数は、一分間に80回からせいぜい180回程度までに抑えられることになり、心室細動にまでは至らない頻脈のレベルにとどまると考えられることになります。

しかし、

心房粗動の際に生じる心房部分の電気的興奮の回数は一分間に250回から350回程度であり、心房細動の時ほど異常に多い頻度で電気的興奮が発生するわけではないので、

心房で発生した電気信号のすべてが房室結節を通過して心室部分へと到達することが物理的に不可能であるとまでは言えず、

比較的少ないケースではあるものの、11伝導型心房粗動と呼ばれる心房で発生した高頻度の電気的興奮がそのまま11の比率で心室部分へと伝達されるタイプの心房粗動が発生してしまうケースも見られることになります。

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1:1伝導型心房粗動における心室細動への移行の危険性

11伝導型心房粗動においては、心房で発生した高頻度の電気的興奮が、房室結節で間引かれることなく、そのまま直に心室部分に伝達してしまうことになるわけですが、

こうした11伝導型の心房粗動のケースでは、心室部分における電気的興奮の回数は、心房部分における電気的興奮の回数と同じ一分間に250回から350回程度のレベルにまで達してしまう可能性がでてきてしまうことになります。

したがって、

こうしたケースでは、心室は全身に血液を送り出すのに十分な心筋の収縮を得る時間的猶予を与えられなくなり、高度の心室頻拍の状態から、全身の血流不全へとつながることによって、

さらには、心室細動から心停止へと移行してしまう危険性が高まってしまうと考えられることになります。

つまり、

心房細動の場合は、心房部分で発生する電気的興奮の頻度が異常に多くなることによって、そのすべてが房室結節を通過して心室部分へと伝達されることが物理的に不可能となり心室細動へとつながるリスクが回避されるのに対して、

11伝導型心房粗動の場合は、心房部分において一分間に250回から350回程度という中途半端に速い頻度の電気的興奮が生じることによって、そのすべての電気信号が房室結節をすり抜けて心室へと直接伝達されてしまうことが可能となり、

かえって、心房細動のときよりも心室部分へと伝達される電気的興奮の頻度が多くなってしまうケースがあると考えられることになるのです。

以上のように、

11伝導型心房粗動の場合は、心房自体の頻脈の度合いとしては心房細動よりも軽度ではあるものの、心室へと伝達される電気的刺激の頻度はかえって多くなってしまうケースがあることから、

11伝導型心房粗動は、直接命にかかわる致命的な不整脈である心室細動へとつながる可能性がある不整脈のタイプであるという点において、より危険性が高い不整脈の一つであるとみなされることになるのです。

・・・

次回記事WPW症候群における心房細動が偽性心室頻拍とも呼ばれる理由とは?副伝導路によって形成されるリエントリー回路の仕組み

前回記事:心房細動と心房粗動の違いとは?具体的な頻脈の回数の基準と心室への電気的刺激の伝達のされ方の違い

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