DNAとRNAの違いとは?①デオキシリボ核酸という言葉の由来と両者の物理的構造の違い
DNA(デオキシリボ核酸)とは、人間や動物、植物、細菌といった生物の遺伝情報の保存と伝達を担う遺伝物質であり、
設計図であるDNAの構造に基づいてタンパク質が合成されていくことによって、生物の体を構成する細胞が形作られていくことになります。
それに対して、
RNA(リボ核酸)の方は、それが遺伝子として働く場合には、ウイルスの遺伝情報の保存と伝達を担うことになります。
こうしたDNAとRNAという言葉の語源はどこにあり、両者にはどのような構造の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
デオキシリボ核酸という言葉の由来とは?
まず、DNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)とRNA(リボ核酸、ribonucleic acid)という言葉自体の由来についてですが、
両者の言葉に共に含まれている「核酸(nucleic acid)」という言葉は、生物の細胞核の中に多く含まれる、塩基・糖・リン酸から構成される高分子物質のことを意味しています。
つまり、細胞の核の中に含まれている酸性の物質なので、DNAやRNAといった遺伝物質は「核酸」と呼ばれているということです。
そして、
その核酸の構成成分である糖の種類が、リボース(ribose)という構造をしている場合はリボ核酸(ribonucleic acid)と呼ばれ、デオキシリボース(deoxyribose)という構造をしている場合はデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)と呼ばれることになるのです。
それでは、このリボースとデオキシリボースの違いは具体的にどのようなところにあるのでしょうか?
リボースという糖は、アラビアゴム(gum arabic)という樹脂の一種から、異性体※であるアラビノースという糖と共に抽出されることによって発見された物質であり、
リボース(ribose)という言葉自体は、その異性体であるアラビノース(arabinose)という単語の部分的なアナグラム(語順の組み換え)によってつくられたかなり適当な造語ということになります。
※異性体とは、分子を構成する原子の種類と数は同じだが、原子同士の結合状態や立体配置が違うため異なる性質を示す化合物のことを指します。
一方、デオキシリボース(deoxyribose)の「デオキシ(deoxy)」とは、
「de-(分離・除去を表す接頭辞)」と「oxygen(酸素)」が組み合わさってできた言葉であり、「酸素が除去された」という意味を表すことになります。
つまり、
デオキシリボース(deoxyribose)は、リボース(ribose)に対して、酸素原子が1つ減少した構造をしているという点に両者の構造の具体的な違いがあり、
以上のことが語源となってDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)という言葉がつくられたということになるのです。
DNAとRNAの物理的構造の違い
それでは、次に、
遺伝子としての両者の物理的構造にはどのような違いがあるのか?ということについてですが、
DNAの場合もRNAの場合も共に、それぞれの基盤となる糖(DNAの場合はデオキシリボース、RNAの場合はリボース)に、塩基とリン酸が結合していくことによって、ヌクレオチド(nucleotide)と呼ばれる核酸の最小単位が形成されることになります。
そして、
この最小単位としての核酸であるヌクレオチドが連続的に分子結合していくことによってポリヌクレオチド(polynucleotide)※と呼ばれる一本の鎖状の構造が形成されていくことになるのです。
※ポリヌクレオチドの「ポリ(poly)」とは、「複数の」を意味し、 化学の分野では、単位物質の複数の分子が化学的に結合していくことによって生じる重合体(ポリマー)のことを意味します。
そして、ここから、
DNAの場合は、2本のポリヌクレオチド鎖が互いに並行で向きは逆向きに配列され、右巻きのらせん状の構造をとることによって、一般的には二重らせん構造と呼ばれる二本鎖から成る相補的で安定的な構造が築かれていくことになります。
それに対して、
RNAの場合は、1本のポリヌクレオチド鎖がそのままの状態で格納されることになるので、一本鎖から成る単独で不安定な構造となり、
その具体的な形状も、DNAと同様のらせん構造の他、ループ構造や、ステム構造(部分的に二重らせん状になりRNAの軸を形成する構造)やなど様々な形状をとることになるのです。
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以上のように、
DNA(デオキシリボ核酸)という言葉の由来については、
「核酸」とは細胞の核の中に含まれている酸性の物質のことを意味する言葉であり、
その核酸の構成成分である糖の種類がデオキシリボースと呼ばれる、リボースに対して酸素原子が1つ少ない構造(=デオキシ)をしているため、そのような由来からデオキシリボ核酸という言葉が作られたと考えられることになります。
そして、
DNAとRNAの物理的構造の違いとしては、
DNAが二本鎖から成る相補的で安定的な二重らせん構造をしているのに対して、
RNAは一本鎖から成る単独で不安定な構造であり、その形状もらせん構造やループ構造、ステム構造といった様々な形状をとることになります。
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そして、
このようなDNAとRNAの物理的構造の違いからもたらされる必然的な帰結として、
遺伝子としてのDNAとRNAの間には遺伝情報の保存や正確な伝達のうえでの優劣関係や利点の違いが見いだされていくことになるのです。
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次回記事:互いの鎖のバックアップデータを持つDNA遺伝子と突然変異による進化のテンポが速いRNA遺伝子、DNAとRNAの違いとは?②
前回記事:ウイルスは生物か無生物か?乳酸菌が生物でウイルスが無生物である理由、生命とは何か?⑦
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