互いの鎖のバックアップデータを持つDNA遺伝子と突然変異による進化のテンポが速いRNA遺伝子、DNAとRNAの違いとは?②
前回書いたように、
DNAとRNAの構造上の違いとしては、
DNAが二本鎖から成る相補的で安定的な二重らせん構造をしているのに対して、
RNAは一本鎖から成る単独で不安定な構造であり、その形状もらせん構造やループ構造、ステム構造といった様々な形状をとることが挙げられることになります。
それでは、こののようなDNAとRNAの物理的構造の違いに基づいて、遺伝子としての両者には、どのような優劣関係や利点の違いが生じると考えられることになるのでしょうか?
互いの鎖のバックアップデータを持つDNA遺伝子
まず、両者の遺伝子としての情報の保存機能の違いについてですが、
一本鎖の構造をしているRNAの場合は、遺伝情報は一本の鎖に記録されているだけなので、
いったん何らかの原因でRNAに損傷が生じてしまうと、その失われた遺伝情報を復元する手段はどこにもないということになります。
それに対して、
二本鎖の構造をしているDNAの場合は、二重らせん構造という二本の鎖が対になる構造をとることによって、互いにデータの欠陥を補い合うことができるという性質を持ち合わせることになります。
DNAにおいては、いわば、二本の鎖のそれぞれが互いのバックアップデータを持ち合っているという関係にあるので、
タンパク質を合成する設計図として呼び出した時などにDNAに損傷が生じてしまったとしても、残された片割れの鎖に残されているバックパックデータを呼び出すことによって、損傷前のデータを元通りに復元することが可能になるのです。
そして、以上のような観点から、
DNAの方がRNAよりも遺伝情報の保存と正確な伝達という点において、より優れた遺伝物質であると考えられることになるのです。
突然変異による進化のテンポが速いRNA遺伝子
前述したように、
一本鎖の不安定な構造しか持たないRNAにおいては、
タンパク質の合成などの際に不可逆的な遺伝子の損傷が生じてしまいやすく、遺伝情報のミスコピーが生じてしまいやすいと考えられることになります。
しかし、情報のミスコピーが起こりやすいということは、その反面、突然変異による進化もより速いテンポで進みやすいということを意味することにもなります。
例えば、
長い期間にわたって一定の環境が維持されている状況では、
遺伝子の突然変異は、現状の環境にうまく適応できるように働いていた有利な遺伝形質が失われてしまうという、その遺伝子を持つ個体にとって不利に働くケースが多いと考えられることになります。
それに対して、
環境の変化が激しく、それまでには存在しなかった新たな脅威が次々と現れてくるような状況では、
遺伝子の突然変異によって新たに獲得した遺伝形質が変化後の新しい環境に適応するような有益な突然変異であるケースが徐々に増えてくることになります。
そして、
それまでになかった新たな遺伝形質を獲得する個体が数多く出現し、その中で、新しい環境に適応したより有利な遺伝形質を獲得した個体だけが生き残って子孫を増やしていくことによって、
種族全体の遺伝子レベルでの進化が急速に進んで行くと考えられることになるのです。
このように、
変化が激しい過酷な生存環境においては、突然変異によって新たな遺伝形質を持った個体が数多く出現してくることが、その種族全体の新たな環境への適応を促すきっかけともなり、
RNAにおける遺伝情報の可変性の高さが、種族の生存にとってむしろ有利に働くケースも出てくると考えられることになります。
つまり、
RNAがDNAよりも優れている点としては、
構造が不安的で遺伝情報の変異が生じやすいことを逆手に取り、遺伝子の突然変異によって新しい環境に適用した個体をいち早く拡散させていくことができるという変わり身の速さが利点として挙げられることになるのです。
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以上のように、
遺伝物質としてのDNAとRNAを比べたときに、
DNA遺伝子の方が優れている点としては、遺伝情報の保存性の高さと情報の正確な伝達性に優れていることが挙げられることになります。
それに対して、
RNA遺伝子の方は、データのミスコピーが頻繁に起きやすい反面、遺伝情報の可変性が高く、新しい環境にいち早く適応しやすいという点に、両者の遺伝子としての特徴と利点の違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:生物の細胞の中に存在する三種類のRNAの役割とは?メッセンジャーRNAとトランスファーRNAとリボソームRNA、DNAとRNAの違いとは?③
前回記事:DNAとRNAの違いとは?①デオキシリボ核酸という言葉の由来と両者の物理的構造の違い
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