古代ギリシア人の自称「ヘレネス」の古代ギリシア語とギリシア神話における由来とは?大洪水の時代とプロメテウスとの関係
古代ギリシア人たちは自分たちとは異なる言語を話す異民族や異邦人のことを指してバルバロイという言葉を用いていたのに対して、
ギリシア語を話す自分たちと同じ民族のことを意味する総称としてはヘレネスという言葉を用いていたと考えられることになります。
それでは、こうしたヘレネスという言葉は、古代ギリシア語における語源となる意味においては具体的にどのような意味を表す言葉であったと考えられ、
このように古代ギリシア人たちが自分たちのことを指してヘレネスと自称していくことになったのには、具体的にどのような神話的な由来と歴史的な背景があったと考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア語におけるヘレネスの由来とギリシア神話における人類の創造神プロメテウスとの関係
そうすると、まず、
前者のヘレネス(Ἕλληνες)という言葉は、古代ギリシア語において、ギリシア神話の登場人物の一人にあたるヘレーン(Ἕλλην)と呼ばれる人物の名前の複数形にあたる言葉であり、
古代ギリシア人たちは、こうしたヘレーンと呼ばれるギリシア神話の登場人物のことを自分たちの伝説上の始祖として位置づけることによって、
その複数形にあたるヘレネスという言葉を「ヘレーンの一族」あるいは「ヘレーンの末裔にあたる人々」といった意味で自分たちの民族のことを意味する総称として用いていたと考えられることになります。
そして、ギリシア神話において、こうしたヘレーンと呼ばれる人物は、
人類に火を与えた英雄神であると同時に、水と土から人間を造り上げたと言われている人類の創造神にあたる神の一人としても位置づけられているプロメテウスを父とするデウカリオンと、
この世界におけるすべての災いの元凶として知られているパンドラの箱の話で有名な人類最初の女性であるパンドラを母とする赤い髪の女性であったピュラーとの間に生まれた最初の息子として位置づけられることになるのです。
ギリシア神話における大洪水の時代と古代ギリシア人におけるヘレネスとしての帰属意識の高まり
また、
こうしたギリシア神話の物語のなかでは、
ヘレーンの両親であったデウカリオンとピュラーの二人は、ギリシア神話の主神にあたるゼウスが人類の傲慢を戒めるために引き起こしたとされる大洪水の時代を生きのびた人物としても伝えられていて、
ゼウスが引き起こした洪水によって地上におけるすべての川が氾濫して、それまでに地上にあったすべての家屋と田畑、そして、数多くの人々と家畜たちが水の底へと沈んでいってしまうことになるのですが、
賢く正しき人々であったデウカリオンとピュラーの二人は、デウカリオンの父でもあったプロメテウスからの忠告を聞いて予め自らの手で造り上げた箱舟に乗ってこの洪水を生きのびていくことによって、新しい世界に自らの子孫を残していくことになったとも語り伝えられているのです。
そして、そういった意味では、
こうしたゼウスを主神とするオリュンポスの神々やヘラクレスやペルセウスなどに代表される英雄たちが登場する体系的な物語としてのギリシア神話が成立していくことになる紀元前8世紀ごろの時代になると、
そうしたギリシア神話において人類の創造神としても位置づけられている英雄神にあたるプロメテウスの孫にして、
旧世界の人類を滅亡させた大洪水の時代を生きのびた賢く正しき人々であったデウカリオンとピュラーの最初の息子であるヘレーンのことを自分たちの共通の始祖にあたる人物として位置づけていくことによって自らのことをヘレネスと自称していくことを通じて、
古代ギリシア人たちの内では同じギリシア語を話す集団としての帰属意識が高まっていくことになっていったと考えられることになるのです。
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