『攻殻機動隊』における「ゴースト」の意味とは?①無意識から意識へと至る階層構造を持った精神体の総称としてのゴースト
『攻殻機動隊』(Ghost in the Shell)は、1989年初出の士郎正宗作のSF漫画作品であり、1995年に押井守監督によってアニメ映画化されたことで、アメリカなどの世界各地で広く知られるようになったほか、
2017年に原作の英語名と同じ『ゴースト・イン・ザ・シェル』(Ghost in the Shell)というタイトルでアメリカで実写映画化されたことでも有名な作品です。
そして、この作品の中では、その英語のタイトル名の内にも含まれている「ゴースト」(ghost)と呼ばれる概念が度々登場し、物語の展開において重要な役割を担っていくことになるのですが、
こうした「攻殻機動隊」(ゴースト・イン・ザ・シェル)において用いられている「ゴースト」とは、具体的にどのような意味を持った概念として捉えることができると考えられることになるのでしょうか?
“The Ghost in the Machine”と英語におけるゴースト(ghost)の意味
『攻殻機動隊』の英語名にして、原作においても副題ともなっている
“Ghost in the Shell”というタイトルは、
もともと、
ユダヤ系ハンガリー人の父とオーストリア人の母との間に生まれ、後にイギリスに帰化した小説家にして哲学者でもあるアーサー・ケストラー(Arthur Koestler)によって書かれ1967年に出版された
“The Ghost in the Machine”(機械の中の幽霊)という科学哲学に関する本の題名に由来しているのですが、
この本の題名においても、“ghost”は日本語では「幽霊」と訳されていることからも分かる通り、
“Ghost in the Shell”というタイトルにおける“ghost”という単語も、一義的には、英語におけるゴースト(ghost)、すなわち、「幽霊」や「亡霊」あるいは「影」や「幻」といった意味を持つ単語として解釈することができると考えられることになります。
無意識から意識へと至る階層構造を持った精神体の総称としての『攻殻機動隊』における「ゴースト」の概念
しかし、その一方で、
『攻殻機動隊』の作品の中において、「ゴースト」という概念が実際に用いられているシーンを見てみると、
それを、こうした死者の魂や亡霊といった意味合いが込められた表現として解釈することができる箇所は基本的にあまり見られず、
作中においては、主に、
人間が持つ意識や自我、あるいは、ある種の無意識的な表象などのことを指してこうした概念が用いられていると考えられることになります。
より具体的に言えば、この作品の中では、
意識のレベルにおいてはっきりと認識できるわけではないものの、その場の状況を本能的に察知して適切な行動を導く無意識レベルの直観や直感のことを指して「ゴーストのささやき」という表現が用いられているシーンが度々見られるほか、
人間の脳が直接コンピュータネットワークと接続された状態にある電脳化された人間の意識を乗っ取ることによって、相手の体を自由に操ったり、記憶を改ざんしたりする行為のことを指して「ゴーストハック」という言葉が用いられていたりするのですが、
このように、『攻殻機動隊』においては、
無意識から前意識そして意識へと至る人間の精神構造におけるすべての階層や、自らの心の内奥に潜む無意識的な微小な表象と、そうした心の内の微小な表象が映し出す全体としての心とが複雑に絡まり合ったある種の階層構造を持った精神体の総称として、
こうした「ゴースト」と呼ばれる概念が用いられていると考えられることになるのです。
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以上のように、
『攻殻機動隊』(Ghost in the Shell)において用いられている「ゴースト」と呼ばれる概念の具体的な意味とは、一言でいうと、
無意識から意識へと至る階層構造を持ち、そうした階層構造の内で部分と全体とが複雑に絡まり合った人間の精神構造の総称のことを指して、こうした表現が用いられていると考えられることになります。
・・・
そして、それに対して、
前述したように、この作品の英語名にして副題でもある『ゴースト・イン・ザ・シェル』(Ghost in the Shell)というタイトルの内に含まれている“ghost”という単語は、「幽霊」や「亡霊」のことを意味する単語であり、
通常の場合、英語の“ghost”という単語自体から、『攻殻機動隊』において用いられているような「精神」や「意識」といった意味を読み取ることは難しいと考えられることになるのですが、
こうした英語における“ghost”と、『攻殻機動隊』における「ゴースト」の概念との間に存在する意味のズレ方の謎については、詳しくは次回改めて考えていくように、
“Ghost in the Shell”というタイトル名の由来となった科学哲学書“The Ghost in the Machine”の作者であるアーサー・ケストラーの生い立ちと、
英語のゴースト(ghost)とドイツ語のガイスト(Geist)の意味の違いについて考えていくことで、ある程度明らかになっていくと考えられることになります。
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次回記事:『攻殻機動隊』における「ゴースト」の意味とは?②ドイツ語における哲学的概念としての「ガイスト」(Geist)との関連性
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