テーセウスの六つの功業とは何か?プロクルーステースの寝台とアテナイへの旅の軌跡、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語④
前回書いたように、のちにアテナイの伝説的な英雄として讃えられていくことになる若き日のテーセウスは、彼の父であったアイゲウス王が治めるアテナイの地へと赴いていく徒歩の一人旅の途上において、
アマゾンの女王ヒュッポリュテや地獄の番犬ケルベロスとの戦いなどで広く知られているヘラクレスの十二の功業ほどは有名ではないものの、
それらの偉業にならってテーセウスの六つの功業とも呼ばれることになる六つの偉業を成し遂げていくことになります。
そして、
神のごとき怪力を持つと同時に、あらゆる物事に対して正しい判断と公正な裁きを下していくことができる賢明さをも兼ね備えた高潔の士でもあったテーセウスは、
彼がアテナイへと向けて歩いていく徒歩の一人旅の途上で出会うことになった悪事を働く者たちを、彼らがそれまでに行ってきた悪事と同じ方法を使うことによって次々と成敗していくことになるのです。
テーセウスの第一の功業とエピダウロスの棒の男
生まれ故郷であったペロポネソス半島の北東部に位置する海辺の町であったトロイゼーンを出立したテーセウスは、
まず、はじめに、
第一の功業として、トロイゼーンの町からは北西の方向に20kmほど離れたエピダウロスの町の近くまでやって来た時、この地で「棒の男」というあだ名でも知られていたペリペーテースと出会うことになります。
ペリペーテースは、足が不自由な鍛冶の神であったヘーパイストスの子であるとも言われている盗賊であり、鉄棒を手にして待ち構えていては、道を通る旅人をその鉄棒によって殴り殺してその金品を奪っていたため、
テーセウスは、棒の男と呼ばれるこの男から、彼の自慢の武器であった鉄棒を奪い取って、逆に彼のことを殴り殺してしまい、
その後は、ヘーパイストスによって鍛え上げられたとも言われるこの鉄棒を自らの武器として持ち歩いていくことになったとも語り伝えられています。
テーセウスの第二の功業とコリントスの「松曲げ男」
そして、その次に、テーセウスは、
第二の功業として、ペロポネソス半島とギリシア本土とをつなぐコリントス地峡の近くにまでたどり着いた時に、この地で「松曲げ男」というあだ名でも知られていたシニスと出会うことになります。
シニスは、この地に居を構えて道を通る旅人を捕らえては、彼らを自分の家の前に生えていた松の木のもとへと連れて来ると、
旅人の前で松の木のてっぺんが地面すれすれの位置にくるまで大きく曲げて見せ、彼らにその松の木が元に戻ることがないように手で押さえさせたうえで、
力が足らなくなって松の木に跳ね上げられて地面にたたき落とされて死んでいく哀れな旅人たちの姿を見て愉しんでいたのですが、
テーセウスは、自らが持つ怪力を用いて、シニスの前でらくらくと松の木を曲げて見せると、そのまま今度は彼に松の木を持たせて、彼がこれまでに旅人たちにやってきたのとまったく同じ方法で彼のことを殺してしまうことになります。
テーセウスの第三の功業とクロミュオーンの牝猪
そして、その次に、テーセウスは、
第三の功業として、コリントス地峡を越えたクロミュオーンの町にまでたどり着いた時に、この地でパイアという名の老婆が飼っていた牝のイノシシの話を耳にすることになり、
テーセウスは、この地で人々を襲い、農作物を食い荒らして回ることによってクロミュオーンの町の人々を苦しめていたクロミュオーンの牝猪を退治してしまうことになるのです。
テーセウスの第四の功業とメガラの大海亀
そして、その次に、テーセウスは、
第四の功業として、コリントス地峡から北東へと少し進んだところにあった古代ギリシアの都市国家であったメガラの地までたどり着いた時に、この地でスケイローンという名のコリントス人と出会うことになります。
スケイローンはメガラの地において、彼の名によってスケイローニダイと呼ばれていた海の大岩を占拠していて、
この場所の近くを通る旅人たちに自分の足を洗うように強要したうえで、旅人たちが彼の前にひざまずいて足を洗っている間に彼らのこと海の深みへと投げ入れてしまうことによって、この哀れな旅人たちを彼が飼う巨大な海亀の餌食にしていたのですが、
ポセイドンの血を引く海の男でもあったテーセウスは、海の中へと入って行って大岩のところにいるスケイローンのもとまでやって来ると、
彼の足首をつかんで海の中へ投げ込んでしまうことによって、彼自身のことを海亀の餌にしてしまうことになるのです。
テーセウスの第五の功業とエレウシスの怪力男
そして、その次に、
第五の功業として、アテナイの北西に位置する小都市であったエレウシスの地にまでたどり着いた時に、この地でケルキュオーンという名の力自慢の悪党と出会うことになります。
ケルキュオーンは、道を通りかかる旅人たちに自分とレスリングの試合をすることを強要しては、彼らを投げ飛ばして殺してしまうことにしていたのですが、
怪力を誇る英雄であったテーセウスは、力自慢の悪党であったケルキュオーンのことをらくらくと抱え上げてその体を高く持ち上げると、
そのまま力いっぱい大地へと投げつけることによって、彼の体を粉々に打ち砕いてしてしまうことになるのです。
テーセウスの第六の功業とプロクルーステースの寝台
そして、最後に、テーセウスは、
第六の功業として、アテナイを含むアッティカ半島一帯を荒らしまわっていたであったプロクルーステースあるいはダマステースやポリュペーモーンとも呼ばれていた大盗賊の家を訪れることになります。
ダマステースとポリュペーモーンとプロクルーステースという彼の三つの名は、それぞれ、「圧倒する者」、「苦痛を与える者」、「引き伸ばす者」という意味を現わしていて、
彼は、家の前の道を通りかかる旅人を自分の家へと招き入れると、彼らのことを自分が持っている二つのベッドのうち、体の小さい者は大きいベッドに寝かせて、体の大きい者は小さいベッドに寝かせることにしていて、
夜中に彼らが寝ているところに忍び寄ると、
体の小さい者は大きいベッドと同じ長さになるまで槌で打ちつけて体を引き伸ばし、それとは反対に、体の大きい者は小さいベッドと同じ長さになるようにはみ出している頭と足をノコギリで切り落として殺していたため、
テーセウスは、大男であったプロクルーステースを小さ方のベッドに縛り付けると、彼がそれまでに旅人たちにやってきたことと同じように、ベッドからはみ出しているこの男の頭と足を切断してしまうことによって正義を成し遂げることになるのです。
・・・
そして、
英雄テーセウスは、こうしたテーセウスの六つの功業とも呼ばれる偉業を成し遂げていく徒歩の一人旅の末に、ついに、彼の父が待つアテナイの地へとたどり着くことになるのです。
・・・
次回記事:王妃メーデイアの陰謀とマラトンの牡牛退治へと赴くテーセウス、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語⑤
前回記事:怪力を持つ英雄に成長したテーセウスが選ぶ海と陸の二つの道とアテナイへの一人旅、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語③
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