王妃メーデイアの陰謀とマラトンの牡牛退治へと赴くテーセウス、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語⑤
前回書いたように、若き日のテーセウスは、アテナイへと向かう旅の途上において、彼の目の前に現れていく悪人たちを次々に倒していくことによって、
テーセウスの六つの功業とも呼ばれているプロクルーステースの寝台の話に代表される全部で六つの偉業を成し遂げていくことになります。
そして、英雄テーセウスは、こうした六つの功業を成し遂げていく徒歩での一人旅の末に、ついに、彼の父親でもあったがアイゲウス王が治めるアテナイの地へとたどり着くことになります。
王妃メーデイアの陰謀とマラトンの牡牛退治へと赴くテーセウス
こうしてテーセウスがアテナイの地へとたどり着いた時、
彼の父親にしてアテナイの王であったアイゲウスのもとには、彼にとっての三番目の妻にあたるメーデイアという名の女性が王妃として常に寄り添っていたのですが、
現在のグルジアにあたるコルキスの王女であったメーデイアは、ギリシア神話に登場する有名な魔女であったキルケーの姪にもあたる女性であり、
竜をも眠らせてしまうと言われる眠りの魔法や、若返りの秘術を施すことができたほか、様々な薬草の知識にも優れた人物であったとも語り伝えられています。
そして、
そうした魔女としての力を持つ王妃メーデイアは、すぐにテーセウスの正体を見破ると、彼が自分の王妃としての地位を危うくすると考えて、
彼女の夫であったアイゲウス王に、このアテナイの地へと訪れた異国の若者は、アイゲウスが持つアテナイの王位を狙って陰謀を企んでいるという偽りの言葉を告げることになります。
そして、
こうした王妃メーデイアの偽りの密告を聞いて、テーセウスに対して疑いの目を向け、彼のことを強く恐れるようになったアイゲウス王は、
彼のことを自分の息子とは知らないまま、テーセウスに対して、マラトンの牡牛退治へと向かうように要請することになります。
当時、
アテナイの北東の位置するマラトンの地には凶暴な牡牛が放たれていて、この牡牛は、かつて、この牛を退治するためにこの地へと赴いたクレタ島を治めるミノス王の息子であったアンドロゲオスのことを返り討ちにして殺してしまった牡牛でもあったのですが、
アイゲウスは、こうしたマラトンの地に棲む凶暴な牡牛のもとに、この素性の知れぬ怪しげな青年を送り込むことによって、彼のことを亡き者にしてしまおうと企んでいたと考えられることになるのです。
アテナイの王子として歓迎されるテーセウスと王妃メーデイアの追放
しかし、
こうした狡猾な王妃の企みと、その言葉にそそのかされたアイゲウス王の意図に反して、
ヘラクレスをも彷彿とさせる神のごとき怪力を持つ英雄であったテーセウスは、この獰猛に暴れ回る牡牛をも力でねじ伏せてしまうことによって、見事に、マラトンの牡牛を退治して見せることになります。
そして、
こうしたテーセウスの勇敢さと力強さをまざまざと見せつけられることになったアイゲウス王は、かえって、彼のことをさらに強く恐れることになっていき、
そうしたマラトンの牡牛退治を祝う祝宴の席において、
アイゲウス王は、メーデイアによって再びそそのかされるままに、テーセウスに供される飲み物の中に彼女が持ってきた毒薬を入れてしまうことになります。
しかし、そうした毒の杯が彼のもとへと供されようとしたその時に、
テーセウスは、祝宴の席に招かれたことへの感謝の印として、アイゲウス王に対して、彼がかつて自分の息子のためにトロイゼーンの地に埋めたもとはアイゲウス王の持ち物であった剣を贈り物として捧げることになり、
その剣を目にして、自分の目の前にいるこの勇敢で力のある青年が、まさに、彼がかつてトロイゼーンの地に残してきた最愛の息子であったことに気づいたアイゲウス王は、
すかさず、テーセウスの手から毒杯を叩き落とすことによって、彼が自分の息子であることを認めることになります。
そして、こうした一連の出来事が、
すべて自分のもとに寄り添う王妃メーデイアの陰謀によってなされたことであることを知ったアイゲウス王によって、彼女は王妃としての地位を剥奪されたうえで、アテナイの地から追放されてしまうことになり、
それに対して、
自らの父でもあるアイゲウス王の命令に忠実に従って、勇敢にもマラトンの牡牛退治を成し遂げることになったテーセウスは、
アイゲウス王から彼の後継者であることを正式に認められることによって、国の人々からも、やがてこの国を治めることが約束されたアテナイの王子として歓迎されていくことになるのです。
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次回記事:クレタの迷宮からのテーセウスの脱出とアリアドネの糸、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語⑥
前回記事:テーセウスの六つの功業とは何か?プロクルーステースの寝台とアテナイへの旅の軌跡、ギリシア神話の英雄テーセウスの物語④
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