十二の功業の冒険の旅を通じてギリシアという地域の英雄から神にも並ぶ至高の英雄へと昇りつめていくヘラクレスの姿
前回までの一連の記事のなかでは、ヘラクレスの十二の功業と呼ばれるギリシア神話の英雄ヘラクレスがミケーネの王であったエウリュステウスのもとに仕えていた時に行ったとされる十二個の偉業をめぐる物語について詳しく考察してきましたが、
こうした十二の功業と呼ばれるエウリュステウスから命じられた十二個の仕事をめぐって英雄ヘラクレスが赴いていくことになった冒険の旅は、
大きく分けて以下で述べるような三つのステージへと分けられていく形で物語が展開していくことになるのと考えられることになります。
ヘラクレスの十二の功業の旅におけるギリシア各地から遠い異国の地そして天界や冥界へと至る三つのステージ
デルポイのアポロン神殿に仕えるピューティアと呼ばれる巫女たちから告げられた神託の言葉によって、ミケーネの王であったエウリュステウスのもとに仕えて彼に命じられる十の仕事を成し遂げることを定められたヘラクレスは、
はじめのうちは、彼が仕えていたエウリュステウス王が治めていたミケーネの周辺に位置していたネメア、レルネー、ケリュネイア、エリュマントス、エリス、ステュムパロスといったペロポネソス半島を中心とするギリシアの諸都市をめぐっていく旅のなかで、
ネメアの獅子やレルネーのヒュドラ、ケリュネイアの鹿やステュムパロスの怪鳥といった怪物退治や神聖なる動物の捕獲を行う偉業などを成し遂げていくことになります。
そして、その後、ヘラクレスは、
ミケーネが位置していたギリシア南部のペロポネソス半島を離れて、エーゲ海の南のクレタ島へと赴き、この地で美しくも凶暴な牛として名高いクレタの牡牛を手にしたのちに、
エーゲ海をさらに遠く北へと進んで行って、ギリシアから見て北東の方角に位置するトラキアの蛮族やアマゾンの女戦士たちが支配する遠い異国の地へと赴いていくことになります。
そして、
トラキアの蛮族であったビストーン族の王であったディオメデスからは巨大な人喰い馬を、アマゾンの女王であったヒッポリュテからはアマゾンの腰帯を戦利品として奪い取ってギリシアの地へと持ち帰ることになるのですが、
その後、ヘラクレスは、
そうしたギリシアの都市や異国の地をめぐる旅からさらに現実の世界そのものをも飛び越えて、世界の果てにあると語り伝えられている伝説の島や、冥界の王ハデスが支配する冥界をめぐる冒険の旅へと赴いていくことになります。
そして、ヘラクレスは、
太陽神ヘリオスから与えられた黄金の杯に乗って大地を取り囲む巨大な大河にあたるオケアノスを越えていったのちにたどり着いくことになる世界の西の果てにあるとされているエリュテイアと呼ばれる伝説の島では、
この地に住むゲリュオネスという名の三つの頭と六本の腕と足を持つ異形の姿をした怪物が飼っていった紅の牛を手に入れることになり、
その次に、
世界の北の果てにあたるとされているヒュペルボレイオスと呼ばれる伝説上の民族が暮らしている至福の土地へとたどり着いたヘラクレスは、
天空を双肩で支えるという罰を課せられていた巨人アトラスのもとをたずねて、彼に頼んでヘスペリデスと呼ばれる黄昏のニンフたちが守っているとされている黄金の木から林檎の実をもぎ取ってもらうことによって黄金の林檎を手に入れることになります。
そして、その後、ヘラクレスは、
ペロポネソス半島の最南端にあたるタイナロンの岬の近くにあったとされる冥界の入口から地下の世界へと降りていき、
冥界の王であるハデスが支配する冥府の国を守る巨大な三頭犬の怪物であったケルベロスと素手で格闘して、
ケルベロスの三つの頭をまとめて両腕で抱え込んで締め上げてしまうことによって、この巨大な三頭犬を力でねじ伏せてエウリュテウス王の待つミケーネの地まで連れて行くことによって、ついに十二の功業のすべてを成し遂げることになるのです。
ギリシアという地域の英雄から世界の英雄そして神にも比肩する大いなる力を持った至高の英雄へと昇りつめていくヘラクレスの姿
以上のように、
こうしたヘラクレスの十二の功業をめぐる冒険の旅においては、
はじめのネメアの獅子、レルネーのヒュドラ、ケリュネイアの鹿、エリュマントスの猪、アウゲイアスの家畜小屋、ステュムパロスの鳥、クレタの牡牛をめぐる一番目から七番目までの七つの功業までの段階では、
ヘラクレスは、ネメア、レルネー、ケリュネイア、エリュマントス、エリス、ステュムパロスといったミケーネの周辺に位置していたペロポネソス半島の諸都市と、
エーゲ海の南に位置するギリシアの古代文明にあたるクレタ文明の発祥の地にあたるクレタ島といたギリシア各地を訪れていくなかで怪物退治や貴重な動物の捕獲などを行っていくことになるのですが、
その次のディオメデスの人喰い馬とアマゾンの腰帯をめぐる八番目と九番目の二つの功業の段階になると、
この物語の主人公であるヘラクレスは、彼が慣れ親しんだギリシア世界を飛び越えて、トラキアの蛮族であったビストーン族や、東方の大国であったリュディアのさらに北東に位置する黒海沿岸に住むアマゾン族といった遠い異国の地にまで赴いていくことになり、
さらに、その後、
ゲリュオネスの紅の牛とヘスペリデスの黄金の林檎そして地獄の番犬ケルベロスをめぐる十番目から十二番目に至る三つの功業の段階になると、ヘラクレスは、
西の果ての地にあるとされる伝説の島エリュテイアや、北の果ての地にある至福の土地ヒュペルボレイオス、さらには、冥界の王ハデスが支配する冥府の国といった地上の世界をも超えた異次元の世界へと旅立っていくという
全部で三つのステージへと分けられていく形で物語が展開していくことになると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうしたギリシア神話におけるヘラクレスの十二の功業の物語においては、
こうしたギリシア各地をめぐる怪物退治の旅から、ギリシアの地を遠く離れた異国の地をめぐる異民族の征服の旅へと赴いていき、
さらには、世界の果てにあるとされる伝説の島や、冥界の王ハデスが支配する冥府の国といった地上の世界をも超えた天界や魔界へと通じる世界まで訪れていくという物語の展開のなかで、
ヘラクレスという一人の若者が、
ギリシアという一つの地域の英雄から、遠い異国の地をも制覇していく世界の英雄、そして、さらには、天界や冥界へも自由に行き来していくことができる神にも比肩する大いなる力を持った至高の英雄へと昇りつめていく姿が描かれているとも捉えていくことができると考えられることになるのです。
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次回記事:二つの円と一つ直線に接する円は全部で何個描けるのか?①具体的なルール説明とアポロニウスの問題との関係
前回記事:ヘラクレスの「十の難行」と「十二の功業」の違いとは?デルポイの巫女が告げる十の仕事とミケーネの王が除外した二つの仕事
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