テーバイの法廷でのヘラクレスの弁明とアムピトリュオンによる牛飼場への追放、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語④
女神ヘラからの理不尽な復讐を受けることによって、双子の兄弟であるイピクレスと共に眠るゆりかごの中に二匹の蛇を投げ込まれることになったヘラクレスは、
まだ生まれてから八か月ほどの赤ん坊だったにもかかわらず、悠然とその場で立ち上がり、そのまま両手で二匹の蛇を絞め殺してしまうことになるのですが、
こうした赤子の身でありながら平然とした顔で蛇に立ち向かい絞め殺してしまうというヘラクレスの姿を目にした彼の育ての父にあたるアムピトリュオンの心の内には、
次第に、こうした怪物のような力を持った子供に対する恐れの念も芽生えていくことになっていったと考えられることになります。
若きヘラクレスの武者修行と竪琴を教わった師匠殺しの罪
そして、その後、
早くもゼウスとの間に生まれた神の子としての片鱗を現わしていくことになったヘラクレスは、
旅人の守護神であるヘルメスの息子であり盗みの名人としても有名な人物であったアウトリュコスからは敵を組み伏せる体術を、
詩文と音楽を司る光明神アポロンから弓の技を授けられたエウリュトスからは狙った獲物を逃がすことない弓術を、
ディオスクロイと呼ばれる歴戦の強者として名高い双子の英雄のうちの兄にあたるカストルからは剣や槍などの敵を殺すための武器の扱い方を学び、
自分の育ての父であるアムピトリュオンからは、戦場を駆け抜けていくための馬にひかせて走る戦車の扱い方を学んでいくことによって、武芸と共に知略にも秀でたたくましい青年へと成長していくことになります。
そして、
ヘラクレスが、こうした戦士として身につけるべき教養を得るための鍛錬の一環として、アポロンから竪琴の技を授けられたオルフェウスにも並ぶ音楽の名手であったリノスから竪琴の奏で方を教わっていると、
ある時、ヘラクレスの音楽の教師となったリノスは、弟子の覚えの悪さに業を煮やして、思わず彼の頭を自分の竪琴で叩いてしまうことになります。
すると、
こうしたリノスの仕打ちに腹を立てたヘラクレスは、頭に血がのぼって、思わず彼から竪琴をひったくると、そのまま自分の音楽の師であるリノスのことを竪琴で殴りつけて撲殺してしまうことになるのです。
テーバイの法廷におけるヘラクレスの弁明とアムピトリュオンによる牛飼場への追放
そして、その後、
自らの手で自分の音楽の師であるリノスのことを殴り殺してしまったヘラクレスは、自らの師であるリノスに対する殺人の罪によって捕縛され、テーバイの法廷の場へと連れ出されることになるのですが、
そうした自らの裁判の場において、ヘラクレスは、
クレタの賢明な王であり、のちに冥界の裁判官の一人となったラダマンテュスによって定められたとされている
暴力を振っている人から他の人物を守るために行使される暴力は罪に問われることがないとする正当防衛の規定に関する法を引用することによって殺人罪を免れて釈放されることになります。
しかし、その一方で、
この一件で、いったん腹を立てると自分の師匠のことを殺してしまうこともいとわないというヘラクレスの姿を目にした彼の育ての父であるアムピトリュオンは、
そうした自分の義理の息子であるヘラクレスの怒りに我を忘れると何をしでかすか分からない気性の荒さを目の当たりにすることによって、彼のことをさらに強く恐れるようになっていき、
彼がいつか再び同じようなことをしでかして、自分や家族たちにまで危害を加えてしまうようなことがないように、
ヘラクレスのことをテーバイの都から遠く離れた猛々しい牡牛の群れたちが暮らす牛飼場へと追いやってしまうことになるのです。
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