ヘラクレスの最初の偉業であるキタイロンの獅子退治と五十人の娘の五十日の歓待、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑤
自らの音楽の師であったリノスとのいさかいから、彼のことを撲殺してしまったかどによりテーバイの法廷の場へと連れ出されることになったもの、
冥界の裁判官の一人でもあるラダマンテュスの法を引用した見事な弁明によって正当防衛が認められ、殺人罪を免れて釈放されることになったヘラクレスは、
その後、彼のことを恐れた育ての父であるアムピトリュオンによってテーバイの都から遠く離れた辺境の牛飼場へと追いやられてしまうことになります。
ヘラクレスの眼に映る炎の光と天空を支配する雷神であったゼウスの真の姿
そして、その後、
ヘラクレスは、そうした荒野の牛飼場において、荒々しい牡牛たちと格闘していくなかで、体の大きさにおいても力の強さにおいても並ぶ者がいない屈強な若者へと成長をとげていくことになり、
その姿は、たとえ彼の出自のことをいっさい知らない者であっても、誰でもひと目見ただけで彼がゼウスの子であることが明らかとなるほどであったと語り伝えられています。
彼の身長は180cmを大きく超え、弓矢を射ても、投げ槍を放っても、狙った的を必ず射抜いて見せることができ、その輝く眼からは常に炎の光がほとばしっていたとされているのですが、
こうしたヘラクレスの眼からほとばしっていたとされる炎の光は、彼の父であるゼウスの神としての真の姿に由来するものであったと考えられ、
天空を支配する雷神でもあったゼウスは、その全身が雷光の灼熱の光によって包まれていて、そうしたゼウスの真の姿を直接目にしてしまった者は、その光のあまりの強さに焼かれ死んでしまうほどであったとも語り伝えられているのです。
ヘラクレスの最初の偉業であるキタイロン山の獅子退治と五十日間の歓待
そして、
こうして荒々しい牛の群れと共に暮らしていくなかで屈強な豪傑へと成長していったヘラクレスは、
神話のなかで語られている彼の最初の偉業として、キタイロンの獅子退治と呼ばれる偉業を成し遂げることになります。
テーバイの隣国にあたるテスピアイを支配していたテスピオス王は、テーバイの南に位置するキタイロン山に住む凶暴な獅子によって、自分が飼っている牛を殺されてしまったため、
すでに、神のごとき力を持つ豪傑としての評判がテーバイだけではなく近隣の国々にまで広く聞こえていたヘラクレスに獅子退治の依頼をすることになります。
そして、
こうしたテスピオス王の依頼に応じる形で、隣国にあたるテスピアイの地へと赴いていくことになったヘラクレスは、
山の中からが飛び出してきた大獅子を棍棒で殴り殺すことによってキタイロンの獅子を見事に退治してしまうことになるのですが、
そうした獅子退治の狩りへと向かっていく際に、王の住む宮殿へと呼び寄せられていたヘラクレスは、テスピオス王から毎夜毎夜、全部で五十日間にわたって歓待され続けていくことになります。
そして、
こうした五十日におよぶ盛大な宴の際には、ヘラクレスが狩りから戻ってくるたびに、テスピオス王の娘であった五十人の娘たちが、夜ごとに代わる代わるヘラクレスのもとを歓待していくことになるのですが、
テスピアイの地へと赴いてから五十日目にして見事にキタイロン山の獅子退治の偉業を成し遂げたヘラクレスは、
その後、
自分の五十人の娘たちのうちのいずれかと結婚して、ぜひとも自分の領地にとどまってほしいと懇願するテスピオス王の申し出を断って、
獅子退治の偉業の証として、その皮を鎧として身にまとい、開いた口の部分から顔を出すようにしてこれを兜として用いると、
そのまま自分が住んでいる粗末な牛飼場があるテーバイの地へと戻っていってしまうことになるのです。
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