ヘラクレスの育ての父アムピトリュオンの死とテーバイとオルコメノスの戦争、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑥
前回書いたように、テーバイの隣国のテスピアイを支配していたテスピオス王の要請によって、キタイロン山に住む獅子退治へと赴いていくことになったヘラクレスは、
王の五十人の娘たちが暮らす宮殿において、五十日間にわたる歓待を受けることになるのですが、五十日目にして見事にキタイロン山の獅子退治の偉業を成し遂げたヘラクレスは、
その後、自分が仕留めた獅子の毛皮を鎧として身にまとい、獅子の頭を兜として身につけたうえで、自らの生まれ故郷であるテーバイの地へと再び戻ってくることになります。
ヘラクレスと異国の使者たちの個人的な争いからはじまったテーバイとオルコメノスの戦争
そして、
こうしてテーバイの地へと帰還したヘラクレスは、この地に戻ってきてからすぐに、狩りから帰る道の途中で、異国の使者たちの一行と出会うことになります。
当時のテーバイは、西方に位置する隣国であったオルコメノスとの戦争に敗れてからまだ間もない時期にあたり、
オルコメノスを支配するミニュアース人の王であったエルギノスに対して、二十年間にわたって毎年百頭の牝牛を貢ぎ物として送ることを条件に休戦の協約を結ぶことになっていたのですが、
そうしたテーバイからの貢ぎ物を受け取りにやって来たエルギノスによって遣わされた使者たちの一行と偶然出会うことになったヘラクレスは、
テーバイの人々を侮るような様子を見せる使者たちの横柄な態度に腹を立てて、彼らとの間でいさかいとなり、
彼らのことを手酷く痛めつけたうえで、使者たちがやってきたオルコメノスの地へとそのまま手ぶらで送り返してしまうことになります。
そして、
貢ぎ物を引き渡すという休戦のための誓約を破られたうえに、貢ぎ物を受け取りに行った使者たちにまで危害を加えるというテーバイ側の対応に激怒したエルギノスは、すぐにテーバイへと向けて再び軍を進めていくことになり、
こうして、ヘラクレスと使者たちの一行との間で起こった個人的な争いが発端となることによって、テーバイとオルコメノスという二つの都市国家の間でついに戦争が勃発してしまうことになるのです。
テーバイの勝利とヘラクレスの育ての父アムピトリュオンの死
そして、
こうしたテーバイとオルコメノスの間ではじまることになった新たな戦争では、戦いの原因をつくってしまったヘラクレスも一軍の将として戦場へと赴いていくことになり、
女神アテナから武器を与えられて、縦横無尽に奮戦していくことになったヘラクレスは、オルコメノス軍の本陣を突破してエルギノス王の首を取ることによって、この戦争を勝利へと導いていくことになります。
そして、その後、
戦争に敗北したオルコメノスの人々は、かつての休戦の協約において、テーバイからオルコメノスへと送られることになっていた貢ぎ物の二倍の量にあたる貢ぎ物を逆にテーバイの側へと支払うことを強いられることになるのですが、
こうしてヘラクレスによってはじめられたたテーバイとオルコメノスの戦争においては、彼の育ての父であったアムピトリュオンも参戦して、
義理の息子であるヘラクレスにも劣らぬ勇敢な戦いの姿を見せたものの、その後、不運にも戦死してしまうという出来事に見舞われてしまうことになります。
ヘラクレスの育ての父であったアムピトリュオンは、
かつて、まだ赤子だったヘラクレスが、平然とした顔のまま素手で蛇を握りつぶす姿を見て驚き、その後、小さないさかいから自分の師を撲殺してしまったことを知って、彼のことを強く恐れるようになっていき、
自分やそのほかの家族の身にそうした危害や災厄ふりかかることがないようにするために、彼のことをテーバイの都から遠く離れた牛飼場へと追いやっていたのですが、
図らずも、彼は、そうした彼の義理の息子であるヘラクレスによってはじめられた都市国家間の戦争に巻き込まれていくことによって、結局は、命を落としてしまうことになったと考えられることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの狂気と王女メガラとの間に生まれた三人の息子たちの死、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑦
前回記事:ヘラクレスの最初の偉業であるキタイロンの獅子退治と五十人の娘の五十日の歓待、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑤
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