クーベルタンの言葉に基づくオリンピックの五色と五大陸との対応関係の解釈とは?アジアを象徴する色が赤となる理由
前回までの一連の記事のなかで詳しく考察してきたように、オリンピックのシンボルにおける青・黄・黒・緑・赤の五つの輪と、ヨーロッパ・アジア・アメリカ・アフリカ・オセアニアという五大陸との対応関係については、
地球上における五大陸の地理的な配置、あるいは、伝統的な解釈に基づく人種的な区分などといった様々な観点から対応関係が結ばれていくことになると考えられ、
1950年以前のオリンピックのパンフレットなどにおける公式的な見解としては、青=ヨーロッパ、黄=アジア、黒=アフリカ、緑=オセアニア、赤=アメリカという対応関係が結ばれていた時期もあると考えられることになるのですが、
さらに、もう一つ別の観点から、こうしたオリンピックの五色と五大陸との対応関係の解釈あり方について取り上げていくとするならば、
こうした五輪のデザインの考案者にして近代オリンピックの創立者としても位置づけられているクーベルタン自身の言葉に基づく解釈のあり方も示していくことができると考えられることになります。
オリンピックの五色が選ばれることになった背景を示唆する1913年当時のクーベルタン自身の言葉
そもそも、
こうしたオリンピックのシンボルとなる五つの輪のデザインの考案者となったクーベルタン自身の言葉によれば、
オリンピックの五つの輪を彩っている青・黄・黒・緑・赤の五色は、こうした五輪のデザインが考案された1913年当時の時点におけるオリンピックの参加国の国旗の色のことを念頭において選ばれることになったとされているのですが、
そうしたクーベルタン自身の言葉に基づくと、
具体的には、以下のような国々の国旗のことを念頭において、こうしたオリンピックの五つの輪を彩っていくことになる青・黄・黒・緑・赤の五色に背景の白を加えた全部で六つの色が選ばれていくことになっていったと考えられることになります。
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… the six colours combined in this way reproduce the colours of every country without exception.
(このようにして互いに結びつけられた六つの色は、例外なくすべての国の色を再現している。)
The blue and yellow of Sweden, the blue and white of Greece, the tricolour flags of France, England, the United States, Germany, Belgium, Italy and Hungary, and the yellow and red of Spain are included, as are the innovative flags of Brazil and Australia, and those of ancient Japan and modern China. This, truly, is an international emblem.
(そこにはスウェーデンの青と黄色、ギリシャの青と白、フランス、イングランド、アメリカ合衆国、ドイツ、ベルギー、イタリア、ハンガリーの三色旗、スペインの黄色と赤が含まれていて、さらに、ブラジルとオーストラリアの革新的な旗、古代の日本と現代の中国の旗を象徴するものであり、これは真の意味において国際的なエンブレムとなっているのです。)
― Pierre de Coubertin (1913)
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クーベルタンの言葉に基づくとアジアを象徴する色が赤となる理由とは?
そうすると、まず、上述したクーベルタンの言葉においては、その前半部分においては、
スウェーデン、ギリシャ、フランス、イングランド、ドイツ、ベルギー、イタリア、ハンガリーといったヨーロッパの国々の国旗が数多く挙げられていて、
ますは、
そうしたヨーロッパの国々の国旗に用いられている青・黄・赤・白などといった多彩な色のことを念頭においてオリンピックを象徴する色が選ばれることになっていったと考えられることになります。
そして、もう一つ興味深い点としては、
アジアを代表する国々の国旗として、「古代の日本」と「現代の中国」という二つの旗が示されているという点が挙げられ、
クーベルタンは、こうした日本や中国といったアジアの国々を象徴する色としては、古代から続く日本の国旗にあたる日の丸と、
1911年の辛亥革命ののちに新たに成立した中国史上初の共和国にあたる中華民国の国旗であった青天白日満地紅旗などにおいて見られる
全体的に赤を基調とした色のイメージを抱いてこうした発言をしていたとも解釈していくことができると考えられることになります。
また、そのほかにも、
北アメリカに位置するアメリカ合衆国がフランスやイギリスやドイツといったヨーロッパの国々と同列の位置に並べられていることから、
アメリカ大陸を代表する国としては、むしろ、その後に出てくる南アメリカに位置するブラジルの方をやや強く念頭において発言がなされているとも考えられることになるのですが、
こうしたブラジルの国旗は、全体として黄色と緑を基調とした色のイメージによって構成されていると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
クーベルタンは、こうしたオリンピックのシンボルを構成している五つの輪における青・黄・黒・緑・赤の五色と背景の白を合わせた六つの色を選んでいく際に、
ヨーロッパ大陸を象徴する国々の国旗の色としては、青・黄・赤・白などといった多彩な色のことを念頭においていたと考えられることになるのに対して、
アジア大陸を象徴する国々の国旗の色としては、日本の国旗にあたる日の丸や当時のまだ新しく成立したばかりの中国の国旗における赤のイメージを念頭においていたと考えられることになり、その一方で、
アメリカ大陸を象徴する国々の国旗の色としては、ブラジルの国旗における黄や緑のイメージを念頭においていたとも解釈していくことができると考えられることになります。
つまり、
こうした五輪のデザインの考案者にして近代オリンピックの創立者でもあるクーベルタン自身の言葉に基づくオリンピックの五色と五大陸との対応関係の解釈のあり方においては、
前回取り上げた青=ヨーロッパ、黄=アジア、黒=アフリカ、緑=オセアニア、赤=アメリカという一時期はオリンピックの公式パンフレットなどにも記述されることがあったものの、のちに削除されてしまうことになった対応関係の結び方のうちから、黄と赤の部分を入れ替えて、
青=ヨーロッパ、黄=アメリカ、黒=アフリカ、緑=オセアニア、赤=アジアという対応関係のあり方として捉えた方が、
どちらかと言えば、クーベルタン自身がこうした五輪のデザインの考案していく際に実際に心の内に抱いていたと考えられる色と大陸との対応関係のあり方に近いイメージとなっているとも解釈していくことができると考えられることになるのです。
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次回記事:オーストラリアを象徴する色が緑と黄色である理由とは?春の訪れを祝うワトルの日とオーストラリアの国章と国花
前回記事:オリンピックの公式パンフレットの記述に基づくオリンピックの五色と五大陸の対応関係とは?
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