ペストが「黒死病」と呼ばれる具体的な理由とは?敗血症ペストにおける黒いあざを伴う壊死の病変が全身へと広がるイメージ
人類の歴史のなかで、病原体の感染力の強さや致死率の高さによって多くの人々を死へと至らしめ、国家を衰退と滅亡の危機にまで陥らせてきたことで長い間人々に恐れられ続けてきた凶悪な伝染病の種類としては、
天然痘やペスト、さらには、結核やコレラやチフスなどといった伝染病の名前が挙げられることになると考えられることになります。
そして、このうち、
14世紀のヨーロッパにおけるペストの大流行においては、5000万人以上の人々が命を落とすことになり、当時のヨーロッパの人口の約3分の2にまで減少してしまうことになったように、こうしたペストと呼ばれる伝染病は、
「黒死病」という呼び名によって悪魔や魔女がもたらした疫病として恐れられることにより、魔女狩りなどの原因ともなった伝染病としても位置づけられることになるのですが、
そもそも、こうしたペストの別名となった「黒死病」という呼び名の由来は、こうしたペストと呼ばれる伝染病の具体的にどのような特徴に基づいていると考えられることになるのでしょうか?
英語とドイツ語におけるペストの呼び名と腺ペストにおける典型的なペストの症状
ドイツ語ではPest(ペスト)、英語ではPlague(プレイグ)と呼ばれているこの伝染病は、
英語における別名でもBlack Death(ブラック・デス)すなわち黒死病と呼ばれているように、病人の皮膚が黒く染まっていったのちに死に至るといった様子からこうした呼び名が付けられるようになっていったと考えられることになるのですが、
そもそも、
こうしたペストと呼ばれる伝染病の症例の80~90%を占める病態にあたる腺ペストにおいては、こうした黒死病と呼び名から連想されるような症状はほとんど引き起こされることがないと考えられることになります。
腺ペストにおいては、病原菌を持つノミなどの昆虫に噛まれた部位などから人体のリンパ管へと侵入したペスト菌がリンパ節の内部において感染を広げることによって、
わきの下や太ももの付け根、首の周りなどといった部位を中心とするリンパ節に腫れや痛みが生じることになり、さらには、高熱や嘔吐や意識障害といった症状が引き起こされていくことになります。
そして、
こうした腺ペストにおけるリンパ節の腫大は、しばしば人間のこぶしの大きさにまで達すこともあり、出血性の炎症を引き起こすことによって暗赤色の腫瘤を形成していくことになるのですが、
こうした腺ペストにおける一連の伝染病の病態は、前述した黒死病という言葉が示すような全身が黒く染まって死に至るという病態のイメージとはだいぶ大きくかけ離れた病態であると考えられることになるのです。
敗血症ペストにおける黒いあざを伴う壊死の病変が全身へと広がっていく病態のイメージ
それに対して、
こうしたペストと呼ばれる伝染病の症例の5~10%を占める病態としては敗血症ペストと呼ばれる病態も挙げられることになり、
こうした敗血症ペストと呼ばれる病態においては、リンパ節を拠点として増殖をはじめていく前に、血管へと流れ込んだペスト菌がそのまま血液中で急速に感染を広げていくことになります。
そして、その際、
手足の末端に位置する毛細血管から全身へと壊死が広がっていくという一連の病態の進行のなかで、皮膚に紫色の出血班が現れていくことによって体が黒く染まっていくように見えることになるため、
こうした敗血症ペストと呼ばれるペストの病態において見られる皮膚の黒ずんだ出血班が全身へと広がっていくイメージから「黒死病」という呼び名が付けられることになっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
ペストの別名である「黒死病」という呼び名の直接的な由来は、こうしたペストと呼ばれる伝染病のなかでは比較的稀な病態にあたる敗血症ペストにおける具体的な症状のあり方に求められることになると考えられることになります。
そして、
こうした敗血症ペストと呼ばれる病態においては、腺ペストなどにおいて見られるようなリンパ節の腫瘤といったペストの典型的な症状はあまり見られないものの、
敗血症の症状の進展にしたがって、手足の末端から黒いあざを伴う壊死の病変が全身へと広がっていったのちに急速に死へと至るという様子が、
当時こうしたペストと呼ばれる伝染病の流行を目の当たりにしていた中世ヨーロッパの人々に強い衝撃と恐怖を巻き起こしたため、
こうした「黒死病」という呼び名が付けられることになったと考えられることになるのです。
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