乳酸菌が腸内に定着せずに死滅したとしてもヨーグルトが腸内環境の改善に役立つと考えられる具体的な理由とは?
前回の記事でも書いたように、市販のヨーグルト製品に含まれている具体的な乳酸菌の種類としては、
球形の形状をした乳酸球菌の一種であるストレプトコッカスやラクトコッカス、あるいは、棒状の形状をした乳酸桿菌の一種であるラクトバチルスやビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)といった多様な乳酸菌の種族の名が挙げられることになり、
そうしたヨーグルトに含まれる乳酸菌のなかには、人間の体内において腸内細菌として機能することによって人間の腸内環境を整えることにつながると共に、
免疫力を高めて風邪を引きにくくなる、あるいは、インフルエンザウイルスに対する感染抑制効果や胃ガンの発生のリスク要因の一つともされているピロリ菌の活動の抑制効果があるといった様々な効能を持つとされている乳酸菌の種類が数多く含まれていると考えられることになります。
しかし、その一方で、
こうしたヨーグルトに含まれる乳酸菌については、胃酸や消化の過程において、実際には、腸に届く前にほとんどの乳酸菌が死滅してしまうことになるほか、
たとえ、そうした胃酸による消化作用を免れて腸内まで到達したとしても、体内の腸内細菌叢には定着することはできずに、通過菌としてそのまま体外へと排出されてしまうことになるので、
腸内環境の改善のためにはヨーグルトの摂取はあまり効果的ではないといった説も広く知られていると考えられることになるのですが、
それでは結局、このように、ヨーグルトに含まれている乳酸菌が直接的には人間の腸内に長く定着していくことができないと考えられる場合でも、
ヨーグルト製品の摂取は腸内環境の改善に十分に役立つと考えられることになるのでしょうか?
乳酸菌の死滅の過程における腸内細菌への遺伝情報の水平的な伝播
まず、こうした問題について、遺伝学的な観点から考えていくとすると、
そもそも、乳酸菌を含む単細胞性の原核生物に分類される細菌は、多細胞性の真核生物に分類される人間や動物や植物といった一般的な生物の場合と比べて、
細胞体の構造や遺伝子情報などといった点において比較的単純な構造をしていて、世代交代のサイクルも非常に早いため、
通常の多細胞生物などと比べて遺伝的浮動性、すなわち、遺伝子の変異のスピードが非常に速く、比較的容易に細胞体の遺伝情報が変化していくことによって、細菌の種族としての性質が少しずつ変化していく可能性があると考えられることになります。
そして、
こうした細菌を含む原核細胞生物においては、種類が異なる細菌同士の場合でも接合やバクテリオファージの感染などを通じて遺伝子の一部が伝播していくケースもあるため、
たとえ、
ヨーグルトを通じて体内へと取り入れられた乳酸菌が消化の過程において死滅する、あるいは、腸内に先住している土着の腸内細菌叢との競争に敗れて体外に排出されていくことになったとしても、
そうした死滅や通過の過程において、体内に存在する腸内細菌との接触を通じて遺伝子の一部が伝播していくことによって、
ヨーグルトを通じて体内に入った乳酸菌そのものは死滅してしまったとしても、そうした死滅した乳酸菌が持つ有用な遺伝情報の一部が、体内に存在する土着の腸内細菌に水平的に伝播していくことによって、体内の腸内細菌叢に有益な効果をもたらすことは十分に可能であると考えられることになるのです。
人間の体内にもともと存在する腸内細菌のエサとなることによる腸内環境の改善
また、腸内環境の改善という観点から考えていくと、そもそも、
腸内環境の改善のためには、ヨーグルトなどの発酵食品の摂取を通じて、直接的に新しい有用な乳酸菌を取り入れることだけではなく、
すでに腸内に存在する土着の腸内細菌に栄養を与えてその働きを強化していくことも重要であると考えられることになるわけですが、
冒頭でも挙げたヨーグルト製品のなかに含まれているラクトバチルスやラクトコッカス、ストレプトコッカスやビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)といった乳酸菌の種族は、
人間の腸内にすでに存在している、いわゆる善玉菌と呼ばれるような人体にとって有益な働きを示す代表的な腸内細菌の種類とも大枠においては一致しているため、
そうした細菌の種族が実際に生育して増殖しているヨーグルトという食品自体が、人間の腸内にすでに存在している有益な働きを持った土着の腸内細菌にとっても最適な栄養源となる食品として位置づけられることになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
ヨーグルトは、体内へと新しい有益な乳酸菌の種類を取り入れられるというだけではなく、ヨーグルトという食品自体がすでに人間の体内に存在する有益で善玉の腸内細菌を増やしていくためのエサとなるといった点においても、
腸内環境の改善に大きく資することになると考えられることになるのです。
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以上のように、
こうしたヨーグルトに代表されるような発酵食品を継続的に摂取していくことの具体的な効能としては、
たとえ、
ヨーグルトのなかに含まれている乳酸菌が、直接的には人間の腸内にほとんど定着することができずに死滅していってしまい、体内の腸内細菌叢を構成する細菌の種族の分布自体には大きな変化が見られなかったとしても、
そうした人体にとって有益な効能を示す遺伝子を持った乳酸菌を継続的に摂取することを通じて、
接合やバクテリオファージの感染などを通じた種類が異なる細菌同士における遺伝子の一部の伝播によって、個々の腸内細菌の遺伝子がマイナーチェンジされていって、土着の腸内細菌の性能にも一定の改善効果がもたらされるといったことは、理論上は十分に可能であり、
さらには、そもそも、
こうしたヨーグルトという食品自体が人間の体内にすでに存在する有益な腸内細菌を増やしていくためのエサとなるといった点において、
ヨーグルト製品の摂取は腸内環境の改善に十分に役立つと考えられることになるのです。
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次回記事:
前回記事:ヨーグルトに含まれている代表的な乳酸菌の種類とは?市販のヨーグルト製品に含まれている具体的な乳酸菌の種類
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