桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑧リステリア菌とブルセラ菌の具体的な特徴と「ブルセラ」という名称の由来
前回の記事では、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のうち、レジオネラ菌とジフテリア菌という二つの桿菌の種類の具体的な特徴について詳しく考察しましたが、
今回の記事では、それに引き続いて、
リステリア菌とブルセラ菌と呼ばれる人間だけではなく家畜などの動物に対しても同様に感染を広げていくことになる人獣共通感染症の原因菌の一種として位置づけられる桿菌の種類とその具体的な特徴といったことについて、順番に詳しく考察していきたいと思います。
リステリア菌の具体的な特徴と人獣共通感染症としての位置づけ
まず、はじめに挙げた
リステリア菌(Listeria)とは、幅0.5マイクロメートル、長さ1マイクロメートルほどの大きさをした細胞の周囲に四本の鞭毛を持つ棒状の形状をした小型のグラム陽性の嫌気性桿菌の一種であり、
土壌や河川の水、あるいは、人間や動物などの腸内や、乳製品や食肉加工品などの食品中など広く分布する常在菌の一種として位置づけられることになります。
そして、
こうしたリステリア菌と呼ばれる細菌は、人体に対する感染力自体はあまり高くないため、通常の健康状態にある人に対して感染を広げていくケースはほとんどなく、
たとえ、感染したとしても、軽い悪寒や発熱、筋肉痛などといった軽度のインフルエンザに似たような症状が引き起こされるだけで、比較的短期間のうちに自然に治癒していってしまうことになると考えられることになるのですが、
その一方で、
妊婦や乳幼児、高齢者や白血病患者などといった免疫機能が低下している状態にある人に対しては、リステリア菌に汚染された生ハムなどの食肉加工品や乳製品あるいはスモークサーモンなどの魚介加工品が非加熱のまま摂食されることによって感染源となってしまうケースがあり、
そうしたケースでは、リステリア症と呼ばれる比較的重い症状が引き起こしてしまうケースもあると考えられることになります。
そして、
こうしたリステリア症と呼ばれる細菌感染症においては、細菌が腸管を介して血管内へと侵入したのち、脳や脊髄といった中枢神経系に対して感染を広げていくことによって、
頭痛や悪寒、嘔吐や38以上の発熱などの症状が引き起こされたのち、さらに悪化していってしまうケースでは、髄膜炎や脳炎さらには敗血症といった症状が引き起こされていくことによって、命に関わる重篤な症状へとつながっていってしまうことがあると考えられることになります。
また、こうしたリステリア症と呼ばれる細菌感染症は、
人間だけではなくウシやヒツジなどといった家畜に対しても感染を広げていくことがある人獣共通感染症としても位置づけられることになるのですが、
こうしたリステリア菌と呼ばれる細菌がウシなどの家畜に感染を広げていってしまうケースでは、
そうした家畜に対しても人間の場合と同様に脳炎などの症状が引き起こされることになるほか、流産の原因にもなることなどによって、家畜の生育に大きな悪影響を及ぼす病原菌としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
ブルセラ菌の具体的な特徴と「ブルセラ」という名称の由来
そして、その次に挙げた
ブルセラ菌(Brucella)とは、幅0.5~0.7マイクロメートル、長さ0.6~1.5マイクロメートルほどの大きさをした棒状または楕円形の形状をした小型のグラム陰性の好気性桿菌の一種であり、
ブルセラ症と呼ばれる人獣共通感染症として位置づけられる細菌感染症の原因となる病原菌の種類として位置づけられることになります。
そもそも、
こうしたブルセラ菌という名称は、病原菌の発見者にあたる19世紀後半のイギリスの病理学者であったデヴィッド・ブルース(David Bruce)の名前に由来すると考えられ、
発見者であるブルース自身は、この病原菌のことを当時この細菌を原因とする熱病が流行していた地域であったイタリアの南方に位置するマルタ島(Malta)の名にちなんでマイクロコッカス・メリテンシス(Micrococcus melitensis)と名付けたのですが、
のちに、それが発見者であるブルース(Bruce)の名と合わさってブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)と呼ばれることになったため、こうした病原菌の種類によって引き起こされる細菌感染症のことを指して、ブルセラ症という名称が用いられることになっていったと考えられることになります。
そして、
こうしたブルセラ菌と呼ばれる細菌は、人間同士の間で感染を広げていくケースはほとんど見られないものの、ウシやブタやヤギなどといった家畜などに感染したブルセラ菌が、そうした動物との接触によって人間に対しても感染を広げていくケースがあり、
こうしたブルセラ症と呼ばれる細菌感染症においては、発熱や悪寒、頭痛や筋肉痛といったインフルエンザなどに似た症状が現れたのち、
抗生物質による適切な治療などがなされない場合などには、数週間から数か月にもおよぶ長期間にわたって波状熱とも呼ばれる発熱と解熱の周期が繰り返されていくことになり、
それに伴って全身の痛みやリンパ節の腫れといった症状が現れていくことになるほか、悪化していってしまうケースでは、
関節炎や骨髄炎、さらには、髄膜炎や心内膜炎といった命に関わるような重篤な症状が引き起こされてしまうケースもあると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑨ペスト菌や仮性結核菌といったエルシニア属に分類される細菌の具体的な特徴
前回記事:桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑦レジオネラ菌とジフテリア菌の具体的な特徴と三種混合ワクチン
「生物学」のカテゴリーへ
「医学」のカテゴリーへ