条虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12の条虫の種類とは?③エキノコックスに分類される単包条虫と多包条虫の特徴
前々回と前回の記事では、有鉤条虫と無鉤条虫、そして、広節裂頭条虫、マンソン裂頭条虫、日本海裂頭条虫といった代表的な条虫の種類について順番に取り上げてきましたが、
こうした体長が1メートルを優に超えるまでに成長することのある比較的大型の条虫の種族に対して、体長が1センチに満たないような小型の条虫の種族のなかでも人間に対して感染症を引き起こすことになる代表的な寄生虫の種類としては、
エキノコックスと呼ばれる条虫の種族の名が挙げられることになると考えられることになります。
単包条虫の具体的な特徴と単包性エキノコックス症の主要な症状
こうしたエキノコックス(Echinococcus)と呼ばれる条虫の種族は、成虫の形態や構造の違いなどに応じて、単包条虫と多包条虫と呼ばれる二つの条虫の種類へと分類されることになると考えられることになります。
そして、
こうしたエキノコックス属に属する二種類の条虫の種族のうちの
前者にあたる単包条虫(たんほうじょうちゅう)とは、成虫の大きさが体長2~7ミリメートルくらいで、体が1つの頭節と3つの片節によって構成される条虫の種族であり、
中間宿主であるヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、ウサギ、シカ、トナカイといった草食動物の体内に寄生していた単包条虫の幼虫が、宿主となる動物が捕食される際に、
これらの動物の肉や内臓を介して、終宿主であるイヌ、オオカミ、ジャッカル、ディンゴといったイヌ科の肉食動物の体内へと寄生していくことになり、
さらに、そうしたイヌやオオカミといった動物の小腸の内部において成虫へと発育した単包条虫の成虫が産み落とした虫卵が、排泄物などを介してそれらの動物の身近にいる人間に対して経口摂取されることによって感染してしまうケースがあると考えられることになります。
そして、特に、
ヨーロッパや地中海沿岸などの牧畜の盛んな地域においては、家畜を飼育していく際に、こうした単包条虫の中間宿主にあたるヒツジやウシといった家畜の内臓や雑肉をイヌに与えるといった習慣が一般的に行われていたため、
こうした単包条虫を原因とする単包性エキノコックス症の感染例が比較的多く報告されていて、
その反対に、そうした牧畜業などがそれほど盛んには行われてこなかった日本国内においてはほとんど発生していないため、
こうした単包性エキノコックス症と呼ばれる感染症は、日本においては輸入感染症の一種として位置づけられることになります。
そして、
単包性エキノコックス症においては、体内へと侵入した虫卵から孵化した単包条虫の幼虫が、終宿主ではない人間の腸内においては成虫へと発育することができないため、腸壁へと侵入して、血管やリンパ節へともぐり込んでいくことになり、
そこからさらに、血液やリンパの流れに乗って肝臓や肺や脳といった全身の臓器や器官へと運ばれていってしまうことになると考えられ、
特に、こうした単包条虫の幼虫は、肝臓を中心に病巣を形成して周囲の臓器を圧迫していくことによって、肝腫大や腹痛、あるいは、胆道閉塞や胆管炎といった症状を引き起こしていくことになると考えられることになるのです。
多包条虫の具体的な特徴と多包性エキノコックス症の主要な症状
そして、それに対して、
後者の多包条虫(たほうじょうちゅう)とは、成虫の大きさが体長1.2~4.5ミリメートルくらいで、体が1つの頭節と2つから4つの片節によって構成される条虫の種族であり、
中間宿主である野ネズミなどの動物を、終宿主となるキツネやイヌ、オオカミやコヨーテといった動物が捕食することによって、これらの動物の小腸の内部において成虫へと発育していったうえで、これらの動物の腸内に虫卵を産み落としていくことになると考えられることになります。
そして、人間に対しては、
こうしたキツネやイヌといった動物の排泄物などに含まれている多包条虫の虫卵によって汚染された飲み水や食物を摂取することなどを介して感染してしまうことがあると考えられ、
日本国内においては、特に、
北海道に生息するキタキツネなどにおいて、こうした多包条虫の寄生率が高いことが知られていて、
こうした動物との直接的な接触や、毛皮の利用、あるいは、それらの動物が接触した際に虫卵が付着したイチゴやコケモモといった野生の木の実などを摂取することなどを通じて、感染してしまうケースがあると考えられることになります。
そして、
多包性エキノコックス症においては、前述した単包性エキノコックス症の場合と同様に、体内へと侵入した虫卵から孵化した多包条虫の幼虫が、腸壁へと侵入して、血管やリンパ節へともぐり込んでいくことによって、
血液やリンパの流れに乗って全身の臓器や器官へと運ばれていってしまうことになると考えられることになり、
こうした多包条虫による寄生の初期の段階においては、多包条虫の幼虫が肝臓を中心に病巣を形成していくことによって、肝腫大や腹痛、黄疸、肝機能障害といった症状が引き起こされていくことになると考えられるのですが、
そこからさらに、肺や脳といったその他の重要な臓器や器官にも転移するような形で病巣を拡大していくことによって、胸痛や血痰、あるいは、けいれん発作や意識障害といった多様な症状が引き起こされていってしまうことになると考えられることになるのです。
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次回記事:条虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12の条虫の種類とは?④瓜実条虫、芽殖孤虫といったその他の条虫の種族
前回記事:条虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12の条虫の種類とは?②広節裂頭条虫、マンソン裂頭条虫、日本海裂頭条虫
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